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平成25年(行ケ)10088号 「窒化インジウムガリウム半導体の成長方法」事件

名称:「窒化インジウムガリウム半導体の成長方法」事件
無効審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 25 年(行ケ)10088 号 判決日:平成 26 年 4 月 24 日
判決:請求棄却
特許法第 29 条第 2 項
キーワード:進歩性
[概要]
原告が被告の特許について無効審判を請求したが請求不成立となったため、その取消しを
求めた事案。
[本件特許請求項 1]
基板上に,有機金属気相成長法により,次に成長させる窒化ガリウム層よりも低温で成長
させるバッファ層を介して,バッファ層よりも高温で原料ガスのキャリアガスとして水素を
用いて成長させた該窒化ガリウム層の上に,
前記キャリアガスを窒素に切替え,原料ガスとして,ガリウム源のガスと,インジウム源
のガスと,窒素源のガスとを用い,同じく有機金属気相成長法により,600℃より高く,
900℃以下の成長温度で,インジウム源のガスのインジウムのモル比を,ガリウム1に対
し,1.0以上に調整して,窒化インジウムガリウム半導体を成長させることを特徴とする
窒化インジウムガリウム半導体の成長方法。
[引用発明1の内容]
キャリアガスとして,H 2 またはN 2 を用い,III 族の原料ガスとして,TMA(トリメチル
アルミニウム),TMG(トリメチルガリウム),TMI(トリメチルインジウム)を用い,
該原料ガスの流量は,TMAは10cc/min,TMGは5cc/min,TMIは20
cc/minとし,V族の原料ガスとして,NH 3 を用いて結晶成長を行う有機金属気相成長
法であって,
サファイア基板をNH 3 雰囲気中で1000℃まで昇温して,10分間熱処理を施し,サフ
ァイア基板の表面を薄いAlN膜で覆い,
その後,サファイア基板の温度を950℃に下げ,AlN層から徐々に組成を変えてGa
N層にしていくことにより,バッファ層としてのAlN/GaN歪超格子層を形成し,
次に,サファイア基板の温度を800℃まで下げ,該バッファ層の表面に,n型のGa x
In 1-X N層及びp型のGa x In 1-X N層からなるpn接合構造を形成することを含む,半
導体発光素子の製造方法。
[一致点]
「 キャリアガスとして,水素または窒素を用い,
基板上に,有機金属気相成長法により,バッファ層を介して成長させた窒化ガリウム層の
上に,
原料ガスとして,ガリウム源のガスと,インジウム源のガスと,窒素源のガスとを用い,
同じく有機金属気相成長法により,600℃より高く,900℃以下の成長温度で,インジ
ウム源のガスのインジウムのモル比を,ガリウム1に対し,1.0以上に調整して,窒化イ
ンジウムガリウム半導体を成長させる窒化インジウムガリウム半導体の成長方法。」である点。
[相違点]
・相違点1
本件発明1は,キャリアガスとして水素を用いて「窒化ガリウム層」を成長させ,その後,
キャリアガスを切替えて,キャリアガスとして窒素を用いて「窒化インジウムガリウム半導
体」を成長させるのに対して,甲1発明は,キャリアガスとして水素または窒素を用いるも
のの,「窒化ガリウム層」成長時と「窒化インジウムガリウム半導体」成長時とで,それぞれ
キャリアガスとして水素または窒素のどちらを用いるのか不明である点。
[原告の主張]
(イ)このように,当業者が,GaN層(層2)とGaInN層(層3)の形成のためのキャリ
アガスの選択肢としてH 2 とN 2 の2つがあることを知れば,①GaN層(層2)の形成の最
適化のために,キャリアガスとしてH 2 を選択して,GaN層(層2)を形成し,さらに,②
GaInN層(層3)の形成の最適化のために,キャリアガスとしてN 2 を選択して,上記G
aN層の上にGaInN層(層3)を形成することは,当業者の通常の創作能力の発揮の範
囲内の行為であって,容易に想到し得る。
(3)被告の主張に対して
本件発明1は,「結晶成長行程の途中」でキャリアガスを切り替える発明ではない。本件発
明1は,異なる2つの層を,異なる2つのキャリアガス(及び原料ガス)を用いて別々に成
長させる発明にすぎない。そして,このように,異なる2つの層を成長させる過程で,それ
ぞれの層の成長において適切なキャリアガスを選択することは,当業者の通常の創作能力の
発揮にすぎない。
[裁判所の判断]
前記のとおり,本件発明1は,サファイア基板の上にInGaNを成長させることによる
InGaNの結晶性の悪さ等の問題を解決するため,高品質で,かつ優れた結晶性を有する
InGaNを生成することを解決課題とし,有機金属気相成長法において,キャリアガスと
してH 2 を用いてGaN層を成長させ,キャリアガスをN 2 に切り替えて,当該GaN層の上
にInGaN層を成長させるとの構成を採用したものである。これに対し,甲1発明は,サ
ファイア基板上にn-GaInN層の結晶を直接成長させると,良質な結晶性を有するn-
GaInN層を得ることができないとの問題を解決するため,発光領域に高品質のpn接合
を形成し,直接遷移を利用した高効率の半導体発光素子の製造方法を提供することを解決課
題とした発明であり,その解決課題は本件発明1の解決課題と共通する点がある。
しかし,甲1文献には,キャリアガスとしてH 2 又はN 2 を用いることは開示されているも
のの,Al z Ga 1-z N層(0≦z≦1)(GaN層)の形成時とGa x In 1-x N層(0≦x
≦1)の形成時とで,キャリアガスを切り替えることについての記載も示唆もない。また,
有機金属気相成長法によって連続して異なる組成による層を形成するに当たり,形成させる
層に応じてキャリアガスを切り替えることと,全ての層の形成を同じキャリアガスを用いて
行うこととは技術思想が異なると解されるところ,優先日当時,有機金属気相成長法によっ
て連続して異なる組成による層を形成するに当たり,形成させる層に応じてキャリアガスを
切り替えるとの公知技術や周知技術があったと認めるに足りる証拠はない。したがって,優
先日当時,形成させる層に応じてキャリアガスを切り替えるとの技術思想はなかったものと
認められる。
そうすると,甲1文献に接した当業者は,Al z Ga 1-z N層(0≦z≦1)(GaN層)
形成時とGa x In 1-x N層(0≦x≦1)形成時を通して,キャリアガスとしてH 2 又はN 2
のどちらか一方を用いることができると理解するものと認められ,GaN層の形成時とGa
InN層の形成時とでキャリアガスを切り替えるとの構成に容易に想到し得るとは認められ
ない。したがって,当業者が,甲1文献の記載から,本件発明1の相違点1に係る構成に容
易に想到し得るとはいえない。

平成25年(行ケ)10088号 「窒化インジウムガリウム半導体の成長方法」事件

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