審決取消請求事件 » 令和3年(行ケ)第10096号「光源、光源を含むバックライトユニットおよび液晶表示装置」事件

名称:「光源、光源を含むバックライトユニットおよび液晶表示装置」事件
審決(拒絶)取消請求事件
知的財産高等裁判所:令和3年(行ケ)第10096号 判決日:令和4年6月15日
判決:請求棄却
特許法29条2項
キーワード:進歩性、引用発明の認定の誤り
判決文: https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/236/091236_hanrei.pdf

[概要]
引用発明中の「白色光は、赤色光成分のピーク波長が630nm、緑色光成分のピーク波長が540nmであり、白色光の色座標(x,y)において、赤色頂点は(0.671,0.307)であり、緑色頂点は(0.239,0.691)である」が引用文献中の実施例の記載に基づくものであり「緑色発光半導体ナノ結晶と赤色発光半導体ナノ結晶の発光ピークのFWHM(半値全幅)は約45nm以下であり」が引用文献中の実施例よりも前の「発明の概要」の記載に基づくものであるとしても、一まとまりの技術的思想に基づく単一の発明中に両者の構成を併存させることは十分に可能であるから、両者の構成を含むものとして引用発明を認定した本件審決に誤りはないとされた事例。

[特許請求の範囲]
【請求項1】
青色光を放出する発光素子と、
前記青色光を緑色光及び赤色光に変換する量子ドット材料、樹脂および散乱剤を含み、前記発光素子が放出する前記青色光を白色光に変換して放出する光変換層と、
を含み、
前記散乱剤は、前記光変換層の全体重量に対して10重量%以下で含まれており、
下記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす光源:
(1)前記白色光は、ピーク波長が518nm~550nmの間にあり、半値幅は90nm未満である前記緑色光成分と、ピーク波長が620nm以上である領域にあり、半値幅が42nm以上49nm以下である前記赤色光成分とを含む;
(2)前記白色光の色座標において、赤色頂点は0.65<Cx<0.69かつ 0.29<Cy<0.33の領域に位置し、緑色頂点は0.17<Cx<0.31 かつ0.61<Cy<0.70の領域に位置する。

[主な争点]
引用発明の認定の誤り(取消事由1)

[本件審決における引用発明の認定]
「 青色LED光源を含む白色発光ダイオードであって、
LED光源からの入射光を白色光に変換する光変換層を備え、
光変換層12は、青色LED光源10上に、複数の緑色発光半導体ナノ結晶14と複数の赤色発光半導体ナノ結晶16及びエポキシ樹脂を含み、
緑色発光半導体ナノ結晶と赤色発光半導体ナノ結晶の発光ピークのFWHM(半値全幅)は約45nm以下であり、
白色光は、赤色光成分のピーク波長が630nm、緑色光成分のピーク波長が540nmであり、白色光の色座標(x,y)において、赤色頂点は(0.671,0.307)であり、緑色頂点は(0.239,0.691)である、
白色発光ダイオード。」

[原告の主張]
『(1)本件審決が認定した引用発明中の「緑色発光半導体ナノ結晶と赤色発光半導体ナノ結晶の発光ピークのFWHM(半値全幅)は約45nm以下であり」との構成は、引用文献の段落[0013]の記載に基づくものである。この記載は、発明の上位概念に関する記載であり、実施例に関する記載ではない。他方、本件審決が認定した引用発明中の「白色光は、赤色光成分のピーク波長が630nm、緑色光成分のピーク波長が540nmであり、白色光の色座標(x,y)において、赤色頂点は(0.671,0.307)であり、緑色頂点は(0.239,0.691)である」との構成は、引用文献における実施例である表2の上から3つ目のLED(以下「本件第3LED」という。)の記載に基づくものである。
上記のような引用発明の認定は、引用文献に記載された一まとまりの構成ないし技術的思想を把握するものではなく、引用文献の各所に記載された別々の構成要素を都合よく組み合わせたものにすぎないから、このような引用発明の認定方法は、恣意的であり、引用文献の内容から引用発明を正しく認定するものではない。
したがって、本件審決がした引用発明の認定は誤りである。』

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『(2)本件審決が認定した引用発明中の「緑色発光半導体ナノ結晶と赤色発光半導体ナノ結晶の発光ピークのFWHM(半値全幅)は約45nm以下であり」との構成について
引用文献の段落[0012]、[0013]及び[0015]には、緑色発光半導体ナノ結晶及び赤色発光半導体ナノ結晶のそれぞれの発光ピークのFWHM(半値全幅)が約45nm以下であること又は45nm以下であってもよいことが開示されているところ、引用文献の前後の文脈に照らすと、これらの開示は、引用文献が開示する発明一般に当てはまるものと解される。また、引用文献を精査しても、引用発明において「緑色発光半導体ナノ結晶と赤色発光半導体ナノ結晶の発光ピークのFWHM(半値全幅)は約45nm以下であり」との構成を採用すると、本件審決が認定した「白色光は、赤色光成分のピーク波長が630nm、緑色光成分のピーク波長が540nmであり、白色光の色座標(x,y)において、赤色頂点は(0.671,0.307)であり、緑色頂点は(0.239,0.691)である」との構成が採用できなくなるとの記載又は示唆はみられない。
そうすると、本件審決が認定した引用発明中の後者の構成(「白色光は、赤色光成分のピーク波長が630nm、緑色光成分のピーク波長が540nmであり、白色光の色座標(x,y)において、赤色頂点は(0.671,0.307)であり、緑色頂点は(0.239,0.691)である」)が引用文献中の実施例に記載された本件第3LEDに基づくものであり(当事者間に争いがない。)、他方、前者の構成(「緑色発光半導体ナノ結晶と赤色発光半導体ナノ結晶の発光ピークのFWHM(半値全幅)は約45nm以下であり」)が引用文献中の実施例よりも前の部分(発明の概要)に置かれた上記各段落の記載に基づくものであるとしても、一まとまりの技術的思想に基づく単一の発明中に両者の構成を併存させることは十分に可能であるから、前者の構成を含むものとして引用発明を認定した本件審決に誤りはない。』

[コメント]
引用文献の明細書には、「当該緑色発光半導体ナノ結晶および当該赤色発光半導体ナノ結晶それぞれの発光ピークのFWHM(半値全幅)は、約45nmまたはそれ以下であり」(段落[0013])との記載があり、また、実施例では、「白色光は、赤色光成分のピーク波長が630nm、緑色光成分のピーク波長が540nmであり、白色光の色座標(x,y)において、赤色頂点は(0.671,0.307)であり、緑色頂点は(0.239,0.691)である」が示されており、両者を同時に達成できない理由が存在しないことから、1つの発明と認定できるとしたことに誤りはない、と考える(原告としても、両者を同時に達成することができないことを主張、立証することができなかったものと考える)。

なお、特許・実用新案審査基準の「第III部第2章第3節 新規性・進歩性の審査の進め方」の「3. 引用発明の認定」の「3.1.1 頒布された刊行物に記載された発明(第29条第1項第3号)」の「(1)刊行物に記載された発明」には、以下の記載がある。

b 審査官は、刊行物に記載されている事項及び記載されているに等しい事項から当業者が把握することができる発明であっても、以下の(i)又は(ii)の場合は、その刊行物に記載されたその発明を「引用発明」とすることができない。
(i) 物の発明については、刊行物の記載及び本願の出願時の技術常識に基づいて、当業者がその物を作れることが明らかでない場合
(ii) 方法の発明については、刊行物の記載及び本願の出願時の技術常識に基づいて、当業者がその方法を使用できることが明らかでない場合

本件の場合、引用文献には、「当該緑色発光半導体ナノ結晶および当該赤色発光半導体ナノ結晶それぞれの発光ピークのFWHM(半値全幅)は、約45nmまたはそれ以下であり」(段落[0013])との記載はあるが、実施例では、FWHMの値が示されていない。段落[0013]の記載が願望的であり、実施例の構成ではFWHM(半値全幅)45nm以下を実施できず、明細書の記載や技術常識を参酌しても実施しえない場合は、「一まとまりの技術的思想に基づく単一の発明」とすることは認定できても、引用発明とすることはできない旨の主張も可能であったと考える。本件では、原告が主張していないことから、実施例においてFWHM(半値全幅)の値が示されていないだけで、実際にはFWHM(半値全幅)45nm以下が達成可能であった可能性が高いと思われる。
(担当弁理士:奥田 茂樹)