審決取消請求事件 » 令和3年(行ケ)第10097号「ゴルフスイングモニタリングシステム」事件

名称:「ゴルフスイングモニタリングシステム」事件
審決(拒絶)取消請求事件
知的財産高等裁判所:令和3年(行ケ)第10097号 判決日:令和4年4月28日
判決:請求棄却
特許法17条の2第5項
キーワード:特許請求の範囲の減縮
判決文:https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/141/091141_hanrei.pdf

[概要]
請求項を新たに追加する補正(増項補正)が、特許法17条の2第5項に規定される「特許請求の範囲の減縮」に該当するかどうかについての判断は、増項補正であるかどうかにかかわらず、補正後の請求項が補正前のどの請求項と対応関係にあるかを特定した上で、補正後の請求項が対応する補正前の特定の請求項の発明特定事項を限定するものかどうかで判断すべきであるとの規範を示しつつ、本件では、対応する補正前の特定の請求項の発明特定事項を限定するものではないため、特許請求の範囲の減縮に該当しないとした審決が維持された事例。

[特許請求の範囲]
関連性の高い、補正前の請求項1、補正前の請求項10、補正後の請求項8を転載する。
【補正前の請求項1】
スポーツ器具による物体の打撃を伴うプレーヤまたはユーザにより実行されるスポーツ動作のパフォーマンスに関する情報を少なくとも1個のセンサから自動的に収集するためのシステムであって、
該システムは、少なくとも1個のタグと、身体装着型装置とを備え、
前記少なくとも1個のタグは、少なくとも1個のRFIDタグまたはNFCタグからなり、かつ、前記スポーツ器具に取り付けられるよう構成されており、
前記身体装着型装置は、ストラップと、前記少なくとも1個のセンサと、タグ読取装置とを備え、
前記少なくとも1個のセンサは、少なくとも1個のスイングセンサと、少なくとも1個の物体接触センサとを備え、該少なくとも1個の物体接触センサは、前記スポーツ器具による前記物体との接触を検知するように構成されており、
該システムは、前記少なくとも1個のスイングセンサからの読み取り値に基づいて、あるいは、該読み取り値に応答して、前記少なくとも1個の物体接触センサを作動させるよう構成されており、および、
前記タグ読取装置は、RFIDタグ読取装置またはNFCタグ読取装置からなり、かつ、前記ストラップの少なくとも一部またはすべてに沿ってまたはその周囲に延在するアンテナを備える、システム。

【補正前の請求項10】
前記ストラップは、前記ストラップの調整位置、周囲長さ、形状、または長さを変更するように調整可能であり、
該システムが、前記ストラップの前記調整位置、周囲長さ、形状、または長さ、あるいは、これらを示すデータを特定するように構成されたストラップセンサを備え、該システムが、特定された前記ストラップの調整位置、周囲長さ、形状、または長さ、あるいは、これらを示すデータに基づいて、前記アンテナの少なくとも1個の動作パラメータまたは前記アンテナのための補償を調整するように構成されており、
該システムが、複数のアンテナ整合回路またはシステム、および/または、調整可能な整合回路またはシステムを備え、該システムが、特定された前記ストラップの調整位置、周囲長さ、形状、または長さ、あるいは、これらを示すデータに基づいて、前記整合回路またはシステムのうちの1個以上を選択および/または変更することによって、前記アンテナの少なくとも1個の動作パラメータまたは前記アンテナのための補償を調整するように構成されており、
前記ストラップセンサが、前記ストラップの第1の部分に備えられた1個以上の第1接点と、前記ストラップの第2の部分に備えられた1個以上の第2接点とを備えるか、あるいは、第1接点および第2接点と通信可能であり、第1接点のうちの1個以上が、第2接点のうちの1個以上と選択的に接触可能であり、前記ストラップが閉じられるか固定されたときに、第1接点の1個以上および第2接点の1個以上の間の接触により測定回路を完成させるように構成されている導体によって、第1接点と第2接点とが結合されて、該システムが、前記ストラップセンサによって測定された前記測定回路の少なくとも1つの電気特性に基づいて、前記ストラップの前記調整位置、周囲長さ、形状、または長さを特定するように構成されている、 請求項8または9に記載のシステム。

【補正後の請求項8】
前記ストラップは、前記ストラップの調整位置、周囲長さ、形状、または長さを変更するように調整可能であり、
該システムが、前記ストラップの前記調整位置、周囲長さ、形状、または長さ、あるいは、これらを示すデータを特定するように構成されたストラップセンサを備え、該システムが、特定された前記ストラップの前記調整位置、周囲長さ、形状、または長さ、あるいは、これらを示すデータに基づいて、前記アンテナの少なくとも1個の動作パラメータまたは前記アンテナのための補償を調整するように構成されており、
該システムが、複数のアンテナ整合回路もしくはシステム、および/または、調整可能な整合回路もしくはシステムを備え、該システムが、特定された前記ストラップの前記調整位置、周囲長さ、形状、または長さ、あるいは、これらを示すデータに基づいて、前記複数のアンテナ整合回路もしくはシステム、および/または、調整可能な整合回路もしくはシステムのうちの1個以上を選択および/または変更することによって、前記アンテナの少なくとも1個の動作パラメータまたは前記アンテナのための補償を調整するように構成されている、請求項1~7のいずれかに記載のシステム。

[争点]
本件補正の特許法17条の2第5項適合性の判断の誤り(特に、新たに追加した請求項8について<補正事項1>)

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『1 補正事項1の判断の誤りについて
(1) 補正後の請求項8と対応する補正前の請求項について
ア 特許法17条の2第5項は、拒絶査定不服審判を請求する場合において、その審判の請求と同時に特許請求の範囲についてする補正(同条1項ただし書4号)は、同条5項1号から4号までのいずれかの事項を目的とするものに限ると規定し、同項2号は、「特許請求の範囲の減縮」(同法36条5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)と規定している。同法17条の2第5項の趣旨は、拒絶査定を受け、拒絶査定不服審判の請求と同時にする特許請求の範囲の補正について、既に行った先行技術文献調査の結果等を有効利用できる範囲内に制限することにより、迅速な審査を行うことができるようにしたことにあるものと解される。このような同項の趣旨及び同項2号の文言に照らすと、補正が「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するというためには、補正後の請求項が補正前の請求項の発明特定事項を限定した関係にあることが必要であり、その判断に当たっては、補正後の請求項が補正前のどの請求項と対応関係にあるかを特定し、その上で、補正後の請求項が補正前の当該請求項の発明特定事項を限定するものかどうかを判断すべきものと解される。また、補正により新しい請求項を追加する増項補正であっても、補正後の新しい請求項がそれと対応関係にある補正前の特定の請求項の発明特定事項を限定するものであれば、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するものと解される。
以上を前提に、補正事項1が「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するかどうかについて判断する。
イ ・・・(略)・・・。
そうすると、本件補正後の請求項8は、本件補正により、新たに追加された請求項であることが認められる。
ウ 次に、本件補正後の請求項8の記載は、
「・・・(略)・・・、請求項1~7のいずれかに記載のシステム。」
あるのに対し、本件補正前の請求項10の記載は、
「・・・(略)・・・、請求項8または9に記載のシステム。」
であること、本件補正前の請求項10が引用する請求項8は、本件補正前の「請求項1~7」を、本件補正前の請求項9は「請求項4に従属する請求項8」を引用しているから、本件補正前の請求項10は、本件補正前の請求項1ないし7の従属項であることからすると、本件補正後の請求項8は、本件補正前の請求項10の発明特定事項から、「・・・(略)・・・」との構成を削除した請求項であり、本件補正前の請求項10と対応関係にあることが認められる。
そして、・・・(略)・・・のとおり、本件補正後の請求項11は、本件補正前の請求項10と対応関係にあるから、本件補正前の請求項10は、本件補正後の請求項8及び11の両請求項と対応関係にあることが認められる。
以上によれば、補正事項1は、新たに本件補正後の請求項8を追加する増項補正に当たり、また、本件補正後の請求項8は、本件補正前の請求項10と対応関係にあることが認められる。
エ これに対し原告は、本件補正後の請求項8は、本件補正後の請求項1ないし7に従属し、本件補正前の請求項1に内的付加に相当する追加的要件(・・・(略)・・・)を規定したものであり、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、本件補正前の請求項1と一対一で対応する請求項ではないとしても、これに準ずるような対応関係に立つ旨主張する。
しかしながら、本件補正後の請求項8は、本件補正後の請求項1のほか、請求項2ないし7の発明特定事項を引用するものであり、本件補正後の請求項1の従属項であるのみならず、請求項2ないし7の従属項でもあること、本件補正後の請求項1は、本件補正後の請求項2ないし7の発明特定事項を含むものではないことからすると、本件補正後の請求項8は、本件補正において、本件補正前の請求項1と一対一で対応する請求項に該当しないのはもとより、これに準ずるような対応関係に立つものと認めることはできない。
・・・(略)・・・。
(2) 補正事項1の「特許請求の範囲の減縮」の目的該当性について
ア 前記(1)ウ認定のとおり、本件補正後の請求項8は、本件補正前の請求項10と対応関係にあることが認められる。
しかるところ、前記(1)ウ認定のとおり、本件補正後の請求項8は、本件補正前の請求項10の発明特定事項から、「・・・(略)・・・」との構成を削除した請求項であるところ、この削除によって、本件補正前の請求項10の発明特定事項を限定したものと認めることはできず、かえって、本件補正前の請求項10に係る発明を上位概念化したものといえるから、補正事項1は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認められない。
イ ・・・(略)・・・、本件補正後の請求項8は、本件補正前の請求項1と一対一で対応する請求項に該当しないのはもとより、これに準ずるような対応関係に立つものと認めることはできないから、この点において、原告の上記主張は、その前提を欠くものである。
また、前記アで説示したとおり、本件補正後の請求項8は、本件補正前の請求項10の発明特定事項の構成の一部を削除した請求項であるが、本件においては、本件補正前の請求項10の発明特定事項から上記構成を削除した請求項について、サポート要件等の記載要件の審査が行われた形跡はうかがわれず、かかる審査が新たに必要となるものと考えられるから、本件補正後の請求項8は、本件補正前の請求項1に対する従前の審査内容に沿って特許性を具備するものと直ちにいえるものではなく、この点においても、原告の上記主張は、その前提を欠くものである。』

[コメント]
請求項8を追加する補正(補正事項1)が、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認められないという判示自体に疑問の余地はない。
ところで、特許・実用新案審査基準の第Ⅳ部第4章「目的外補正」2.1.1(1)では、「特許請求の範囲を減縮する補正に該当しない具体例」として
(ⅰ) 直列的に記載された発明特定事項の一部を削除する補正
(ⅱ) 択一的記載の要素を付加する補正
(ⅲ) 請求項数を増加する補正(以下の(2)(ⅴ)又は(ⅵ)に該当する補正を除く。)
と挙げられている。なお、(2)(ⅴ)又は(ⅵ)とは以下の通りである。
(2)特許請求の範囲を減縮する補正に該当する具体例
(ⅴ) n項引用形式請求項をn-1以下の請求項に変更する補正
(ⅵ) 発明特定事項が択一的なものとして記載された一つの請求項について、その択一的な発明特定事項をそれぞれ限定して複数の請求項に変更する補正
本判決では、その判断に先駆けて、補正が「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するかどうかの規範が示されており、補正により新しい請求項を追加する増項補正であっても、補正後の新しい請求項がそれと対応関係にある補正前の特定の請求項の発明特定事項を限定するものであれば、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当するものと解されると記載された。
今回の判決文で述べられた上記規範においては、増項補正が認められる場合に関して二つの解釈が可能である。すなわち、上記規範は単に審査基準の記載を確認したものと解釈することもできるし(前者の解釈)、審査基準上の(2)(ⅴ)又は(ⅵ)に該当しない増項補正であっても「特許請求の範囲を減縮する補正」に該当する可能性があると解釈する余地もある(後者の解釈)。
今回の判決文の結論は、今回の補正が補正前の請求項10に係る発明を上位概念化しており発明特定事項を限定するものではないことを理由に原告の主張を退けたものに過ぎない。つまり、今回の判決文の記載された規範をもって、直ちに審査基準上の(2)(ⅴ)又は(ⅵ)に該当しない増項補正が認められる余地があるとまでは断言できない。ただ、今後同様の補正要件違反が争われた場合には今回の規範が踏襲されてその解釈がより明確にされる可能性もあることから、今後の展開を見守っていきたい。
以上
(担当弁理士:佐伯 直人)