IP case studies判例研究

令和2年(行ケ)第10128号「安否確認システム、受信機、安否確認方法及びプログラム」事件

名称:「安否確認システム、受信機、安否確認方法及びプログラム」事件
審決(拒絶)取消請求事件
知的財産高等裁判所:令和2年(行ケ)第10128号 判決日:令和4年1月11日
判決:審決取消
特許法29条2項
キーワード:一致点の判断
判決文:https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/864/090864_hanrei.pdf
[概要]
 本願発明の「施設内での設置箇所に係るID番号」に対する引用発明の「検出部ID」の技術的意義の認定を誤った結果、相違点を看過した誤りがあり、この誤りは審決の結論に影響を及ぼすという理由により、本願発明の進歩性を否定した審決が取り消された事例。
[特許請求の範囲]
【請求項1】
 クラウド環境下における安否確認システムであって、
 クラウドを構成するサーバと、
 設置された施設及び前記施設内での設置箇所に係るID番号が予め前記サーバに登録され、点灯又は消灯する照明装置と、受信機と、を備え、
 前記受信機は、前記サーバが送信する管理画面情報を受信し、安否通知ルールの設定、変更及び追加する画面を表示し、
 前記サーバは、前記安否通知ルールの設定、変更及び追加の情報を登録し、
 前記照明装置は、点灯又は消灯に応じて前記ID番号が重畳された電波を発信する発信装置を備え、
 前記発信装置は、交換可能であり、
 前記サーバが、前記発信装置が発信する前記電波に重畳された前記ID番号に基づき、前記受信機の画面を介して登録された前記安否通知ルールに応じて、前記照明装置の点灯又は消灯に係る情報を見守り対象者の安否情報として見守り者の外部端末に通報することを特徴とする安否確認システム。
[主な争点]
 本願発明と引用発明との一致点の認定の誤り、相違点の看過(取消事由1)
[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
1 取消事由1について
『(1)本願発明における「施設内での設置箇所に係るID番号」の技術的意義
 ・・・(略)・・・本願発明は、照明装置が発信装置を備え、この発信装置から発信された「設置された施設及び前記施設内での設置箇所に係るID番号」(居間、トイレ、寝室等の各部屋を識別できる情報)に基づいて、照明装置の設置箇所(部屋)を識別し、この識別した設置箇所に応じた安否通知ルールに従って安否判定を行うものであり、安否判定に、照明装置の設置箇所(具体的には居間、トイレ、寝室等の各部屋)という位置情報を利用するものと認められる。
(2)引用発明における「検出部ID」の技術的意義
 ・・・(略)・・・
 引用発明の「検出部ID」は、住居内で「電源タップ4」を一意に識別する符号であるものの、引用文献1には、前記「検出部ID」が「電源タップ4」の設置箇所を表す情報と関連するものであることは一切記載されていない。また、電源タップの一般的な使用形態を参酌すると、電源タップを住居内のどこに設置してどのような電気機器に接続するかは、当該電源タップを利用する者が任意に決められるものと解される。
 引用文献1では、「電源タップ4」に照明器具が接続される態様も開示されているものの(【図6】)、照明器具は、居間、トイレ、寝室等、住居内のあらゆる箇所で用いられるものであり、よって、当該照明器具に接続される電源タップの設置箇所も住居内のあらゆる場所が想定されるものであるから、「検出部ID」により「電源タップ4」を一意に識別しても、それは「電源タップ4」の識別にとどまるものであって、当該「電源タップ4」の設置箇所も識別できるとする根拠は見出せない。
 すなわち、「電源タップ4」の「検出部ID」から住居内の設置箇所を識別するためには、「検出部ID」と当該「電源タップ4」の住居内での設置箇所とを対応付けた何らかの付加的情報が必要である。「電源タップ4」の「検出部ID」という、電源タップを一意に識別する符号から、当該「電源タップ4」の設置箇所を識別することができる、と認めることはできない。
(3)被告の主張について
 ・・・(略)・・・
イ 被告は、電源タップに接続される電気機器の設置箇所(部屋)は、電気機器の種別によって通常定まるから、引用発明の「検出部ID」は、単に「電源タップ4を一意に識別する符号」、すなわち、住居内の「どれ」かということを識別する符号にとどまるものでもなく、住居内で「どこ」に設置されているのかを識別する符号であって、位置情報として意味を有し、本願発明の「内部管理ID番号」と同じ役割を有している旨主張する。
 ・・・(略)・・・
 しかしながら、引用文献1の【図5】におけるこれらの例示は、利用者が住居内に各電源タップを任意に設置して電気機器に接続した結果として生じる、「検出部ID」と接続されている電気機器との対応関係を示しているにすぎないというべきであって、たとえば、前記ポットは、台所、居間、ダイニング、寝室のいずれでも利用されることに鑑みると、【図5】の記載をもってして、「電源タップ4」の「検出部ID」と当該「電源タップ4」の設置箇所との間に何らかの対応関係が定められているとすることはできない。
 また、引用文献1の段落【0075】ないし【0078】には、実施の形態3に係る生活状況監視システムにおいて、「電源タップ4」に機器種類を設定する「スライドスイッチ20a」を設けることが記載されており、【図16】には、機器種類として、「冷蔵庫」、「炊飯器」、「テレビ」、「アイロン」、「レンジ」、「その他」が例示されており、「スライドスイッチ20a」がこれらの機器種類の中から任意に機器種類を選択することが示されている。
 してみると、引用文献1に記載の「電源タップ4」は、「冷蔵庫」、「炊飯器」、「テレビ」等を含め、種々の電気機器に接続されることを前提としたものであり、当該「電源タップ4」が設置される箇所も、台所、居間等、住居内の様々な箇所が想定されるものであるから、「電源タップ4」の「検出部ID」と当該「電源タップ4」の設置箇所との間には、元来関連性はない。
 以上によれば、引用文献1に、「電源タップ4」を一意に識別するための「検出部ID」に基づいて、当該「電源タップ4」の設置箇所を識別するという技術思想が開示されているとは認められず、被告の上記主張は採用することができない。
ウ 被告は、住居内の電源タップ及びそれに接続される家電機器は、いったん設置されれば移動しないのが通常であること、引用発明においては「電源タップ4」の設置箇所が判明しているからこそ警戒すべき状況か否かの判定ができること、を考慮すれば、「電源タップ4」の「検出部ID」は設置箇所を識別し得る情報であり、本願発明の位置情報(設置箇所の情報を含む。)と相違しない旨主張する。
 しかしながら、以下のとおり、被告の上記主張は採用することができない。
(ア)・・・(略)・・・引用発明においては、警戒すべき状況か否かを判定するための情報として、特定の電源タップに接続された電気機器の種別を用いているが、当該電源タップ及びそれに接続された電気機器の設置箇所と関連する情報を用いることの開示又は示唆はない。
(イ)引用文献1の【図6】には、二つの部屋のそれぞれにおいて、同一の種別の電気機器である照明装置が「電源タップ4」に接続される態様が開示されており、二つの部屋にそれぞれ設けられた「電源タップ4」が、「検出部ID」を「遠隔監視装置1」に送信するものと認められるが、この場合であっても、上記(ア)に示したとおり、「検出部ID」は、各々の電源タップ及びこれに接続された電気機器を一意に識別するための符号であるにとどまり、「電源タップ4」の設置箇所を示す情報ではないから、「検出部ID」により各部屋を識別できるとする技術的根拠は見出せない。
(4)以上によれば、引用発明の「検出部ID」は、「電源タップ4」の住居内での設置箇所を識別するものではないから、本願発明の位置情報のうち、住居内における設置箇所を特定する「内部管理ID番号」(具体的には居間、トイレ、寝室等の各部屋)とは技術的意義を異にする。
 それにもかかわらず、本件審決は、引用発明の「検出部ID」は本願発明の「内部管理ID番号」に相当するとして、「施設内での設置箇所に係るID番号」が安否確認に用いられることを一致点の認定に含めており、この認定には誤りがあるといわざるを得ない。その結果、本件審決は、原告の主張に係る相違点5を看過しており、上記一致点の認定誤りは本件審決の結論に影響を及ぼす誤りである。』
2 結論
 以上のように『取消事由1に係る原告の主張には理由がある。』として、審決を取り消した。
[コメント]
 審決が「引用発明の「検出部ID」は本願発明の「施設内での設置箇所に係るID番号」に相当する」と判断したことに対して、本判決は、「引用発明の「検出部ID」は、住居内での設置箇所を識別するものではないから、本願発明の「施設内での設置箇所に係るID番号」とは技術的意義を異にする」と判断した。
 「検出部ID」に設置個所の情報が含まれていないことが明らかなので、本判決による判断は、妥当であると考えられる。

以上
(担当弁理士:冨士川 雄)

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