審決取消請求事件 » 令和3年(行ケ)第10006号「X線検査装置」事件

名称:「X線検査装置」事件
特許取消決定取消請求事件
知的財産高等裁判所:令和3年(行ケ)第10006号 判決日:令和3年10月26日
判決:請求棄却
特許法29条2項
キーワード:進歩性の論理付け
判決文:https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/649/090649_hanrei.pdf

[概要]
 発明が適用される製品の異なる主引用発明と副引用発明について、技術分野、課題・解決手段、作用・機能、効果について密接に関連ないし共通し、強い動機付けがあると認定され、容易想到であるとして、本件発明の取消決定が維持された事例。

[事件の経緯]
 原告は、特許第6569070号の特許権者である。
 当該特許について、特許異議の申立て(異議2020-700117号)がされ、原告は、訂正請求を請求したところ、特許庁は訂正を認めたうえで当該特許を取り消す決定をしたため、原告は、特許庁長官を被告として、その取消しを求めた。
 知財高裁は、原告の請求を棄却した。

[本件発明1]
【請求項1】
 被測定物にX線を照射するX線照射手段と、
 載置面に載置された前記被測定物を搬送する搬送手段と、
 前記被測定物を透過したX線の各光子について、光子が持つエネルギーを所定の個数のエネルギー閾値に照らして、2以上のエネルギー領域に弁別して検出するX線検出手段と、
 複数種別の前記被測定物のそれぞれについて、前記被測定物と前記エネルギー閾値とが直接的又は間接的に対応付けられて記憶された記憶手段と、
 前記記憶手段を参照し、入力された情報により前記種別が特定された前記被測定物に対応する前記エネルギー閾値を、前記所定の個数のエネルギー閾値として前記X線検出手段が参照できるように保持する閾値設定手段と、
 前記X線検出手段が所定の1以上の前記エネルギー領域のそれぞれについて検出した光子の数又は光子の数に応じた量に基づいて、前記被測定物を検査する検査手段と、
を備え、
 前記X線検出手段は、前記載置面との対向状態が固定されている
ことを特徴とするX線検査装置。

[取消事由]
取消事由1(本件発明1の進歩性に関する判断の誤り)
取消事由2(本件発明2ないし4の進歩性に関する判断の誤り)
※以下、取消事由1についてのみ記載する。

[原告の主張]
ア 一致点及び相違点の認定の誤りについて
 引用文献1には、「エネルギー閾値」の弁別に関する記載はないから、・・・(略)・・・、本件発明1と引用発明1とは、「エネルギー閾値」の弁別及びその後の処理に関して相違している(相違点3)。
イ 相違点1の容易想到性判断の誤りについて
 (ア)a 引用発明1は、食品等の対象製品にX線を照射し、異物の有無を検査する検査装置の発明である(引用文献1の【0001】)。一方、引用発明2技術事項は、人体用のX線検査装置に関するものである(引用文献2の【0001】、【0021】)。・・・(略)・・・、両者の技術分野は大きく異なる。
 引用発明1の実施品の検査装置は、どんなに高くても数百万円の価格であるが、引用文献2技術事項に係る実施品は、数千万円から数億円の価格であるから、当業者は、多種類の製品を対象とする食品工場用の低コスト・低額な検査装置である引用発明1の装置に、人体用で高コスト・高額な検査装置に使われる引用文献2技術事項を適用しようとは考えないのであるから、共通の課題を認識できるわけがない。さらに、引用発明1の装置は、食品と金属等、検出でのコントラストが高いものを対象としているが、引用文献2技術事項の装置は、人体と禁制品等、検出でのコントラストが極めて低いものを対象としているのであり、引用発明1において、異物検出の精度を向上させるため引用文献2技術事項を適用して異物部分と異物以外の部分とのコントラストを高める必要はない。
 また、上記したところに照らせば、引用発明1と引用文献2技術事項とは、通常、作用・機能の共通性もない。

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
(1) 一致点及び相違点の認定の誤りの有無について
『原告は、引用文献1には、「エネルギー閾値」の弁別及びその後の処理に関する記載はないから、引用発明1は、本件発明1の「X線検出手段」、「記憶手段」、「閾値設定手段」及び「検査手段」について一致することはない旨主張するが、本件決定において引用発明1が「エネルギー閾値」の弁別及びその後の処理の構成を有すると認定した部分はなく、また、係争に係る発明の構成要件中の一部の構成要素が引用に係る発明のそれと一致しないからといって、直ちに当該構成要件が全ての構成要素において共通しないと認定すべきものではなく、当該構成要件の構成要素が互いに技術的に不分離の関係にあるなどの事情のない限り、共通する構成要素は一致点として認定することができる。そして、相違点1には原告の主張する「相違点3」が全て含まれている。
 したがって、原告の上記主張を採用することはできない。』

(2) 相違点1の容易想到性判断の誤りの有無について
『ア 前記1(3)によれば、引用文献2技術事項は、物質に特有な高吸収X線を利用することにより、荷物や人体内に隠匿した麻薬、あるいは爆薬や象牙などの禁制品の有無を検査できるものであるから、人体用だけでなく、荷物の中の見えない物体の有無を検査するX線荷物検査装置でもあるといえる。そうすると、食品等の異物検査を行うX線検出装置である引用発明1の技術分野と、医療検査や荷物検査を行う引用文献2技術事項の技術分野は、X線検査装置が用いられる技術分野として関連するものであるといえる。
 また、・・・(略)・・・コントラストが大きなX線画像は、物体を透過したX線の検出出力と目的とする物体以外の部分を透過したX線の検出出力との間に明確な差異を有するものであるから、引用発明1と引用文献2技術事項とは課題を共通するといえる。
 さらに、引用発明1と引用文献2技術事項は、いずれも被測定物の中の外から見えない物体を検出するために用いられるX線画像を形成し、当該X線画像に基づいて検査を行うという作用・機能が共通するといえ、加えて、引用文献2には、「X線検出部11に1次元のリニアアレイを用いて1次元走査して測定することもできる」【0014】ことが記載され、被測定物を1次元走査してX線画像を得ることも示唆されており、引用発明1のX線ラインセンサにより搬送される被測定物のX線画像とは、X線画像を被測定物を1次元走査して生成するという点においても共通する。
 以上のように、引用発明1と引用文献2技術事項との間に、技術分野、解決課題及び作用機能に密接な関連性・共通性があることからすると、引用発明1に引用文献2技術事項を組み合わせることに強い動機付けがあるといえる。』
『引用文献2技術事項のX線検査装置は、コストを度外視して検査する分野の装置であると認めることはそもそも相当でない。また、引用発明1が、コンベア搬送路上のワークの金属異物等の混入の有無を検査する異物検査装置であることからして、引用発明1が製品製造現場用の装置であり、引用文献2の記載上は、引用文献2技術事項が直接には医療用検査装置に用いることを想定しているとしても、コストをどの程度かけるかということと技術分野とは直結しないところ、製品の性質、製造現場の規模、製品の販路等も度外視して、製品製造現場用の装置であれば、おしなべて性能の低い製品で足り、当業者は性能の向上には意を払わず、医療検査装置用の技術には関知しないなどとは当然にいえることではなく、そのようにいえる証拠は提出されていない。
 異物検査装置の異物検査の性能を向上させることは自明の要請ともいうべきところであり、前記アのとおり、引用発明1の異物検査装置に、技術分野、課題・解決手段、作用・機能、効果とも密接に関連ないし共通する引用文献2技術事項を適用する強い動機付けがあるというべきである。』

[コメント]
 主引用発明が適用される製品は食品等の異物検査装置であるのに対し、副引用発明が適用される主な製品は医療検査装置であり、適用される製品が異なる点を考慮すれば、両者の技術分野が異なるようにみえるかもしれない。
 しかしながら、本判決では、主引用発明と副引用発明との間で、(1)コントラストに関する課題、(2)被測定物の中の外から見えない物体を1次元走査してX線画像を検査するという作用・機能、及び(3)副引用文献には、医療用途のみならず、荷物検査用途にも発明を適用できる旨の若干の記載があることから、X線検査装置の技術分野、の3点について共通性又は関連性を認め、主引用発明に副引用発明を適用する強い動機付けがあると判断された。妥当な判断であるように思われる。
 技術分野の共通性について、審査基準には、「技術分野は、適用される製品等に着目したり、原理、機構、作用、機能等に着目したりすることにより把握される。」と記載されている(第III部 第2章 第2節)。審査基準によれば、発明が適用される製品も技術分野を把握するための観点ではあるが、原理、機構、作用、機能等を含めた様々な観点を総合考慮して技術分野を把握するべきと思われる。

以上
(担当弁理士:赤尾 隼人)