審決取消請求事件 » 令和2年(行ケ)第10102号「読取装置及び情報提供システム」事件

名称:「読取装置及び情報提供システム」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:令和2年(行ケ)第10102号 判決日:令和3年5月20日
判決:審決取消
特許法29条2項
キーワード:引用発明の認定、新規性、進歩性
判決文:https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/343/090343_hanrei.pdf

[概要]
甲1から甲1発明2(モジュール)を単体で認定して本件発明と対比することはできないとして、甲1発明2を主引用例に認定して進歩性を否定した審決が取り消された事例。

[事件の経緯]
原告は、特許第6469758号の特許権者である。
被告が、当該特許の請求項1~4に係る発明についての特許を無効とする無効審判(無効2019-800041号)を請求し、原告が訂正を請求したところ、特許庁が請求項1、2および4に係る発明についての特許を無効とする審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を認容し、審決を取り消した。

[本件発明]
【請求項1(訂正後)】
物品に付されたRFタグから情報を読み取る据置式の読取装置であって、
前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナと、
上向きに開口した筺体内に設けられ、前記アンテナを収容し、前記物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部と、
を備え、
前記筺体および前記シールド部が上向きに開口した状態で、前記RFタグから情報を読み取ることを特徴とする読取装置。

[審決]
審決では、甲1から甲1発明2を認定し、本件発明と甲1発明2との一致点および相違点を認定した上で、本件発明1、2、4は甲1発明2に基づいて当業者が容易になし得たといえると判断した。

[取消事由]
A-1.手続違反
A-2.甲1発明2の認定の誤り
A-3.甲1発明2を主引用例とする本件発明1の相違点の認定、容易想到性の判断の誤り
A-4.甲1発明2を主引用例とする本件発明2の容易想到性の判断の誤り
A-5.甲1発明2を主引用例とする本件発明4の容易想到性の判断の誤り
※以下、取消事由A-2についてのみ記載する。

[被告の主張]
甲1の[図2]の読取装置は、水分を含まない物については読取装置として十分に使用することができると、当業者は理解する。本件審決は、甲1に記載されたこれらの発明のうち、水分を含まない物に使用することができる[図2]の読取装置を「甲1発明2」と認定したものであるから、誤りはない。

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『3 取消事由A-2(甲1発明2の認定の誤り)について
・・・(略)・・・
(4) 甲1発明2について
・・・(略)・・・
イ そこで、甲1発明2のように、「読取り/書込みモジュール200」を単体で認定することができるかどうかについて判断する。
(ア) 読取装置において、読取性能向上のために、電波吸収層の外側に反射層を設けてシールド部を2層構造とすることに関しては、本件出願日当時、次の文献があった。
・・・(略)・・・
(イ) 上記(ア)の各文献によると、電磁波を吸収するためのシールド部には、吸収体と、その裏側に電磁波を反射させるための反射体(金属)を設けることが、本件出願日当時の技術常識であったと認められる。
・・・(略)・・・「読取り/書込みモジュール200」が挿入される「読取り/書込みデバイス102」の「防壁」が電波を吸収する吸収性発泡体と、電波を反射する金属製の外側パネルを備えており、これらが外部への電波の放出、又は、外部からの電波の侵入を防止する機能を有していると認められることからすると、当業者は、甲1発明においては、「読取り/書込みデバイス102」の「防壁」が外部への電波の漏えい又は干渉を防止するものであると理解すると認められる。
(ウ) 「吸収性発泡体214」の外側に設けられる「外壁212」の材質について、甲1では特定されていないが、上記(ア)、(イ)で述べたところに、金属の「側壁」、その外側の「吸収性発泡体」の更にその外側(外壁212の位置)に金属が設けられると、金属である「側壁」と、「外壁」が電波反射板となり、電波を反射するため、その間に「吸収性発泡体」を設ける意味が失われることを考え併せると、当業者は、甲1発明において、「外壁212」を金属で作る必要はないと理解すると認められる。
(エ) そうすると、甲1発明の「読取り/書込みモジュール200」は、「防壁」が存在しない状態で単独に用いられること、すなわち、「読取り/書込みモジュール200」だけで電波の漏えい又は干渉を防止することは想定されていないものと認められるところ、外部への電波の漏えい又は干渉を防止する機能は、本件発明と対比されるべき「読取装置」には欠かせないものであるから、甲1発明の「読取り/書込みモジュール200」が単体で、本件発明と対比されるべき「読取装置」であると認めることはできない。
エ 以上によると、本件審決のように甲1発明2を認定して、これを本件発明と対比することはできないというべきである。
オ 被告は、甲1に記載された発明は、対象物が液体を含まない場合や対象物が軽い場合には、電波を低量にするから、防壁を必要としないため、甲1の「読取り/書込みモジュール200」は、読取装置に必要な要素を全て備えていると主張する。
しかし、甲1には、対象物が液体を含まない場合や対象物が軽い場合には、防壁が必要ではないとの記載はない。また、甲1に記載された「読取り/書込みモジュール200」の「側壁」、「吸収性発泡体」、「外壁」の構造がどの程度のシールド作用を奏するのかは不明であるから、仮に、甲1発明において、読取り/書込みの対象物に応じて電波の出力を調整することを想起し得たとしても、電波の出力を下げれば、直ちに甲1に記載された「読取り/書込みモジュール200」の「側壁」、「吸収性発泡体」、「外壁」の構造が単独のシールドとして機能すると認めることはできない。どのような物に使用するかにかかわらず、甲1発明の「読取り/書込みモジュール200」は、これが独立して、電波の漏えいや干渉を防止する装置であるとして構成されていないと認められることは、既に判示したところから明らかである。
したがって、被告の主張は、上記ウの判断を左右するものではない。
・・・(略)・・・
(5) 以上のとおりであるから、取消事由A-2は理由がある。』

[コメント]
裁判所は、複数の公知文献を根拠に、電磁波を吸収するためのシールド部に吸収体とその裏側に反射体を設けることが技術常識であると判断した。その上で、甲1において、「防壁」が当該構成を備えることから、「防壁」が外部への電波の漏えいまたは干渉を防止するものであると判断した。そして、甲1では「防壁」が存在しない状態で「読取り/書込みモジュール200(即ち、甲1発明2)」を単独に用いられることは想定されておらず、甲1から甲1発明2を認定することができないと判断した。
主引用発明の認定において、装置の一部の構成を取り出して認定された場合、主引用発明の機能が損なわれないかを検討することが重要である。主引用発明の機能が損なわれる場合には、「当該一部の構成を単独に用いられることは想定されていない」と主張し、「主引用発明として認定することができない」と反論することが可能である。
以上
(担当弁理士:小島 香奈子)