審決取消請求事件 » 令和2年(行ケ)第10057号「電動ベッド」事件

名称:「電動ベッド」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:令和2年(行ケ)第10057号 判決日:令和3年7月8日
判決:審決取消
特許法29条2項
キーワード:相違点、進歩性、周知技術
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/469/090469_hanrei.pdf
[概要]
 本件訂正発明1と甲1発明との相違点2②は実質的に開示されており相違点を構成せず、同相違点2③は当業者にとって極めて馴染みの深い周知技術であるとして、進歩性を肯定した審決の一部を取り消した事例。

[事件の経緯]
 被告は、特許第4141233号の特許権者である。
 原告が当該特許の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする無効審判(無効2018-800132号)を請求し、被告が訂正請求を請求したところ、特許庁は訂正請求を認めた上で当該請求を不成立とする審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
 知財高裁は、原告の請求を一部認容し、審決の請求項1に係る部分を取り消した。

[本件訂正発明](下線部が訂正箇所)
【請求項1】
 背ボトム、腰ボトム、膝ボトムを含む寝床部を支持し、付属品を取り付け可能なベッドフレームと、床上に設置される台部と、この台部と前記フレームとの間に配置され前記フレームの上位置LHと下位置LLとの間で前記フレームを昇降移動させる、アクチュエータを含む昇降装置と、この昇降装置による前記フレームの昇降駆動を制御する制御装置と、スイッチ操作により前記フレームの昇降が指示されたときに前記制御装置に前記フレームの昇降を指示する信号を出力する操作ボックスとを有し、前記背ボトムは、前記膝ボトム側を中心として回動可能であり、前記フレームが中間停止位置LMより上方から下位置LLまで連続して移動される際に、前記制御装置は、前記操作ボックスから前記フレームの下降信号が入力されたときに、前記操作ボックスの下降スイッチの押し状態が継続している間、前記フレームを下降させるが、ホール素子を利用して前記アクチュエータのピストンロッドの位置を算出した結果を受けて、前記フレームの高さが前記中間停止位置LMまで下降したか判定し、前記フレームの上位置LHと下位置LLとの間の前記中間停止位置LMで、前記フレームと床との間に、介護者又は患者の足が存在しても、挟み込みがじないように、前記下降スイッチが押し状態であっても前記フレームを⼀旦停止させ、ブザーを鳴らして警報し、その後、前記操作ボックスにおける下降スイッチの押し状態が解除された後、再度フレームの下降スイッチが押下された場合に更に前記フレームを前記下位置LLまで下降させるものであり、前記中間停止位置LMは、前記フレームと前記床との間に、介護者又は患者の足が存在しても、挟み込みが生じないような高さであることを特徴とする電動ベッド。

[取消事由]
2.本件訂正発明1の進歩性に関する判断の誤り
※取消事由1、3~5は、省略

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
『3 取消事由2(本件訂正発明1の進歩性に関する判断の誤り)の有無について
(1) 相違点2の認定の誤り(前記第3の2(1)ア)の有無について
 ・・・(略)・・・
 本件審決が認定する相違点2は、前記第2の3(2)ウ(イ)のとおりであるが、①本件訂正発明1において、「フレームが中間停止位置LMより上方から下位置LLまで連続して移動される際に、一旦停止させ、その後、下降スイッチが押下された場合に下位置LLまで下降させる」こと(以下「相違点2①」という。)、②「ホール素子を利用してアクチュエータのピストンロッドの位置を算出した結果を受けて」フレームの高さが中間停止位置LMまで下降したか判定すること(以下「相違点2②」という。)③「フレームと床との間に介護者又は患者の足が存在しても、挟み込みが生じないように」、下降スイッチが押し状態であってもフレームをいったん停止させ、「ブザーを鳴らして警報」すること(以下「相違点2③」という。)の3つの技術的事項から成り、それぞれが独立に置換可能な技術事項であるから、各々個別に検討できるものと認められる。
 原告は、このうちの相違点2②について、相違点として認定できない旨主張している。
 ・・・(略)・・・
 甲1発明の管部110は、軸受部材108に摺動接触して支持された状態で、ねじ式リニアアクチュータ98のねじ120に対して直線移動で駆動できるよう構成される円筒状の部材であるが(甲1の[0036]、FIG-3A)、本件訂正発明1のピストンロッドも、本件訂正明細書に「アクチュエータのピストンロッドがシリンダ内に退入すると」(【0014】)「、アクチュエータ12のピストンロッドの進出長」(【0015】)、「ピストンロッドの進出退入」(【0016】)と記載されているように、シリンダに対して直線移動する円筒状の部材であるから、甲1発明の管部110は、本件訂正発明1のピストンロッドに相当する。
 また、本件訂正発明1は、単に「ホール素子を利用してアクチュエータのピストンロッドの位置を算出した結果を受けて」と特定するにとどまるところ、前記2(1)アのとおり、「算出」との用語は、例えばモータ回転量といった具体的な測定値から算出した結果に基づいてフレームの高さを判定するといった、特定の計算手段を用いた構成に限定されるものではないし、「算出」に用いるセンサ等の手段及び入力値も特定されていないから、このような特定では、ホール素子を利用した何らかの態様でピストンロッド又はそれに相当する構成の位置を算出した結果を受けてフレームの高さが所定の位置まで下降したか判定する構成であればこれに含まれるというべきである。そして、甲1発明のホール効果センサは、ホール効果を利用して、磁界(磁石)を近づけたことにより発生するホール電圧の変化に伴い、所定の電圧値において制御回路に接続されているセンサ出力がハイレベルとローレベルの間で切り替わり、フレームの高さが所定の位置まで下降したか判定するものであるが、ホール効果センサとホール素子は同義と考えられ(甲24)、このようなホール効果を利用した設計における当該所定の電圧値に関する計算も、ピストンロッドに相当する管部110の位置を算出するためのものといえる。そうすると、甲1発明において、磁石112がホール効果センサ116、118の近傍に来た際にホール効果によりホール効果センサ内に生じたホール電圧値の変化にあわせて切り替えられるセンサ出力を制御回路の接続点に加えるとの制御方法は、本件訂正発明1の「ホール素子を利用してアクチュエータのピストンロッドの位置を算出した結果を受けて」に相当するといえる。
 したがって、相違点2②に係る構成は、実質的には甲1に開示されており、相違点を構成するとはいえない。
 ・・・(略)・・・
 以上によれば、本件審決が相違点2②を認定したことは誤りであるから、相違点2②を除く部分が相違点2を構成することになる。
・・・(略)・・・
(2) 相違点2の容易想到性判断の誤りについて
ア 相違点2③について
 前記(1)のとおり、相違点2は、相違点2①及び相違点2③により構成されるべきものである。本件審決は、相違点2①は容易に想到できるとしており(当裁判所としてもその結論を是認できる。)、原告は、相違点2③の容易想到性を否定した本件審決の判断を争っている。
イ 相違点2③の容易想到性
・・・(略)・・・
 (イ)a 前記第2の3(2)アのとおり、甲1発明における下方中間位置は患者支持面が床から約14インチ(約356mm)の高さであり、同最下位置は患者支持面が床から約8インチ(約203mm)の高さであるところ、下方中間位置から最下位置に153mm下降できるということは、少なくともフレームの下端が床から153mm以上離れていなければならないから、下方中間位置でのメインフレーム12の床からの高さは153mmよりは高いことになる。
 ここで、甲2技術事項に係る別紙3の記載によると、足が届く範囲の可動部と床面との間に120mm以上の寸法があれば、足を挟み込む危険がないものと理解される。
 そうすると、甲1発明における下方中間位置でのメインフレーム12の床からの高さは、本件訂正発明1の「介護者又は患者の足が存在しても、挟み込み等が生じないような高さ」(本件訂正明細書【0021】)であるといえ、また、甲1発明の最下位置は「床に近接して配置される」ものであり(甲1[0011]、FIG-4)、足が挟み込まれる高さであることは明らかであるから、最下位置に向けて下降する下方中間位置は「これ以上フレーム1が下降すると、足を挟み込んでしまうような高さ」(本件訂正明細書【0021】)である。
 ・・・(略)・・・
 b ここで、昇降機能を有するベッドにおいて、フレームと床との間に、人体の侵入を防止し、人体が挟み込まれないよう下降を停止させることは当業者にとって極めて馴染みの深い周知技術であると認められる・・・(略)・・・。
 そして、昇降機能を有するベッドにおいて、フレームと床との間に人体が挟み込まれないよう警告音で周囲に異常を知らせることも当業者にとって極めて馴染みの深い周知技術であると認められる・・・(略)・・・。
 c そうすると、上記aのように、介護者又は患者の足が存在しても、足の挟み込みが生じないような下方中間位置においてフレームの下降は停止するが、それ以上フレームが下降すれば介護者又は患者の足が挟み込まれてしまうことになる甲1発明に接した場合、昇降機能を有するベッドにおいて、人体の侵入を防止し、人体が挟み込まれないようにベッドの下降を停止するとの周知技術に従い、その下降を停止する高さを「前記フレームと床との間に、介護者又は患者の足が存在しても、挟み込みが生じないよう」な意図で設定し、この際、警告音でフレームと床との間に人体が挟み込まれないよう知らせるとの周知技術に従い、警告音を発するようにすることは、当業者には格別困難なことではないといえる。
 (ウ) 被告の主張について
 被告は、前記第3の2(2)イ(ウ)のとおり、足を挟んでしまうことの防止という課題は甲1発明に内在する課題とはいえない旨主張する。しかしながら、・・・(略)・・・当業者であれば、甲1に介護者又は患者の足を挟んでしまうことを防止するとの課題の記載や示唆がなくとも、甲1発明のベッドを介護者又は患者の足を挟んでしまうことを防止するとの意図の下に設定することは容易というほかない。したがって、上記主張は、採用することができない。
 さらに、被告は、同(エ)のとおり、「ブザーを鳴らして警報」することは容易想到ではない旨主張するが、・・・(略)・・・フレームと床との間に人体があって実際に挟み込みの危険があるか否かは、人体の挟み込みの防止のために警報音を鳴らすという技術的事項を導入するに際して直接の関係を有するものではない。そうすると、警告音を発する場面を、異物を検出した段階とするのか、あるいは、フレームがそれより下降すれば人体の挟み込みの危険が生じ得る高さとするかは、設計的事項にすぎず、・・・(略)・・・周知技術と甲1発明とは、むしろ警報音を鳴らす局面、対象又は目的を共通とするといえる。したがって、下方中間停止位置で常に自動的に下降を停止する甲1発明において、上記周知技術に基づいて下方中間停止位置で停止した際に「ブザーを鳴らして警報」することは容易に想到できるといえ、上記周知技術が異常を検知した際に警報音を発するものである点が甲1発明に同技術を適用することを妨げるものではない。
 したがって、被告の上記主張は、採用することができない。
 ・・・(略)・・・
 相違点2①に加えて、相違点2③についても容易に想到できるというべきであるから、本件審決の相違点2の容易想到性判断には、誤りがある。』

[コメント]
 本件訂正発明1と甲1発明との相違点2③の「前記フレームと床との間に、介護者又は患者の足が存在しても、挟み込みが生じないように」及び「ブザーを鳴らして警報」について、審決においては、甲1に記載も示唆もされていないので相違点2③を容易に想到できるとはいえないと判断した。
 それに対し、判決においては、『甲1発明に接した場合,昇降機能を有するベッドにおいて、人体の侵入を防止し、人体が挟み込まれないようにベッドの下降を停止するとの周知技術に従い、その下降を停止する高さを「前記フレームと床との間に、介護者又は患者の足が存在しても、挟み込みが生じないよう」な意図で設定し、この際、警告音でフレームと床との間に人体が挟み込まれないよう知らせるとの周知技術に従い、警告音を発するようにすることは,当業者には格別困難なことではないといえる。』ので相違点2③を容易に想到できると判断した。
 相違点2③は、介護分野において一般的に知られている周知技術と考えられるので、判決は妥当である。実務において、相違点への周知技術を適用することに関する進歩性の判断、主張の参考になる。

以上
(担当弁理士:冨士川 雄)