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平成30年(行ケ)第10082号「車両のドアフレームに細長いストリップを貼付する方法」事件

名称:「車両のドアフレームに細長いストリップを貼付する方法」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成30年(行ケ)第10082号 判決日:平成31年4月25日
判決:請求棄却
特許法29条2項
キーワード:課題、技術常識
判決文:http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/669/088669_hanrei.pdf
[概要]
原告が指摘する本願明細書に記載の、車両本体のドアフレームに特有な課題は、引用文献1の記載及び技術常識から考慮して、引用文献1から自明な課題であると認定し、本願発明の進歩性を否定した事例。
[事件の経緯]
原告が、特許出願(特願2013-527137号)に係る拒絶査定不服審判(不服2016-15088号)を請求したところ、特許庁(被告)が、請求不成立の拒絶審決をしたため、原告は、その取消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。
[本願発明](筆者にて相違点部分を区切って表示した)
【請求項1】
細長いストリップを車両のボディのドアフレームに取り付ける方法であって、
前記方法は、
(i)駆動手段、
(ii)ピンローラ、
(iii)前記駆動手段と前記ピンローラとの間に位置付けられ、かつ1つ以上のセンサユニットを備える応力制御ユニット、及び
(iv)前記駆動手段を制御するための制御ユニット、
を備える装置を用いて細長いストリップの貼付を含み、前記細長いストリップの貼付は、前記駆動手段によって前記細長いストリップを前進させる工程と、前記ピンローラを用いて前記ドアフレームに前記細長いストリップを位置決めし、押圧し、及び/又は回転させる工程と、前記応力制御ユニット及び前記駆動手段を制御するための前記制御ユニットを用いて前記細長いストリップの応力を制御する工程と、を含み、それにより、前記応力制御ユニットの前記1つ以上のセンサユニットは、前記細長いストリップの応力を測定し、前記制御ユニットは、前記応力制御ユニットの前記1つ以上のセンサによる前記細長いストリップの応力の測定に基づいて、前記細長いストリップの応力を所望の応力範囲内に維持するために、前記駆動手段を制御し、
----(相違点に係る構成)----
前記細長いストリップが、ゴムガスケットと、第1及び第2の主面を有するフォーム層及び該フォーム層の前記第1の主面に関連付けられた感圧性接着剤層を含む接着テープと、を含み、前記感圧性接着剤が架橋ゴムを含み、前記フォーム層が、アルキル基中に平均で3~14個の炭素原子を有する1つ以上のアルキルアクリレートのアクリルポリマーを含み、前記フォーム層の密度が少なくとも540kg/m³であり、前記ゴムガスケットが、前記フォーム層の前記第2の主面に関連付けられた追加の接着剤層を介して前記接着テープに取り付けられている、
------------------
方法。
[審決]
本願発明と引用文献1に記載された発明との相違点は、上記「(相違点に係る構成)」のとおりであり、上記相違点に係る構成は、引用文献2に記載された発明に基づいて容易想到である旨、判断した。
[原告の主張]
1.本願発明が解決しようとする課題の看過
本願発明について、ウェザーストリップを含む細長いストリップを車両本体のドアフレームに貼付する場合に、貼付前の応力を調整するだけでは十分に剥離を防止できない場合があり、研究を重ねた結果、車両本体のドアフレームに特有な課題があることを見出したものである。
引用文献1及び2には、本願発明が解決しようとする上記課題について記載も示唆もない。
2.相違点の容易想到性の判断の誤り  本件審決は、相違点に関し、引用文献2の【0094】の「テープ(10)」が「自動車塗料への接着を試験した」ものであるとの記載は、引用発明に本件審決認定の引用文献2技術を適用する動機付けになり得る旨認定した。
(1) しかしながら、引用文献2は、自動車関連分野に属するものではないから、【0094】の前記記載が直ちに引用文献2技術を引用発明に適用する動機付けになるものではない。
(2) 引用文献2記載の接着剤及びテープは、接着対象である物と新規な接着剤との接着性を得ることを目的としているに過ぎず、接着剤に適用したテープに特に応力をかけることなく貼付することを前提としている。引用文献2の【0094】記載の試験は、被接着物の平坦面に対してテープに応力をかけることなく、直線状に貼り付けた際の分離負荷値、引き剥がし値及び総エネルギー量を算出するための試験であり、ウェザーストリップを車体本体のドアフレームに貼付する際に、ウェザーストリップを貼付面に対して平行な面内で変形させたときにまで有効であることを示唆するものではない。
[裁判所の判断]
1.原告の主張2(容易想到性)の(1)に対する判断
『引用文献2記載の感圧性接着剤は、自動車塗料で塗装された車体の塗装面に基材を貼り合わせるのに有用であることを示唆するものといえる。』
『引用文献1及び2に接した当業者においては、貼付されるストリップの応力レベルを貼付前に制御する引用発明を使用して、車体のドア開口部に沿ってウェザーストリップを貼付する際に、湾曲した領域を有する隅部においてウェザーストリップが剥離することを防止するため、引用発明の「感圧接着剤層を備えるウェザーストリップ」の「感圧接着剤層」として、自動車塗料で塗装された車体の塗装面に基材を貼り合わせるのに有用である引用文献2技術(「感圧性の第1スキン接着剤からなる第1接着層」と「感圧性の第2スキン接着剤からなる第2接着層」を有する「テープ」)を採用する動機付けがあるものと認められる。』
2.原告の主張1(本願発明が解決しようとする課題の看過)に対する判断
『原告が指摘する車両本体のドアフレームに特有な課題とは、「ドアフレームの湾曲が強い領域、例えば、ドアフレームの隅部では、接着テープに導入されるひずみに起因して、テープが取り付けられる表面と平行な面内で剥離が起こること」(本願明細書の【0005】)をいうものであるところ、前記(4)ア認定のとおり、引用文献1においても、「車体のドア開口部に沿って設けられたウェザーストリップの隅部」において、細長いストリップの基部からの緩みをもたらし得るとの課題があることが示されていること、車体のドア開口部の隅部のような湾曲した領域に貼付したテープは、平坦面に貼付したテープに比べて剥離しやすいことは技術常識であることからすると、当業者は、ドアフレームの隅部の湾曲が強い領域においては接着テープが剥離しやすいことを容易に認識することができたものと認められる。
したがって、原告が指摘する車両本体のドアフレームに特有な課題は、引用文献1から自明な課題であるといえる。』
3.原告の主張2(容易想到性)の(2)に対する判断
『引用文献2には、引用文献2記載の感圧性接着剤は、自動車塗料で塗装された車体の塗装面に基材を貼り合わせるのに有用であることの示唆があり、また、ウェザーストリップが貼付される車両本体のドアフレームの開口部が自動車塗料で塗装された塗装面であることは、技術常識である。
そして、(上記のとおり)引用発明に引用文献2技術を適用する動機付けがある。』
[コメント]
「車両本体のドアフレームに特有な課題がある」という原告の主張に対し、裁判所は、本願発明が解決しようとする課題を、本願明細書の記載に基づいて、ドアフレームの隅部等の湾曲が強い領域では、接着テープの剥離が起こることをいうものと解釈した。そして、引用文献1における「車体のドア開口部に沿って設けられたウェザーストリップの隅部」における「緩みをもたらし得る」記載、および「ドア開口部の隅部のような湾曲した領域に貼付したテープは剥離しやすいことが技術常識」であるとの認定に基づいて、本願発明が解決しようとする課題は、引用文献1から自明の課題であると判断した。
ところで、審査基準には、「審査官は、主引用発明として、通常、請求項に係る発明と、技術分野又は課題(注1)が同一であるもの又は近い関係にあるものを選択する。
請求項に係る発明とは技術分野又は課題が大きく異なる主引用発明を選択した場合には、論理付けは困難になりやすい。」と記載され、かつ、「(注1)自明な課題や当業者が容易に着想し得る課題を含む」と記載されている。
本判決は、明細書作成実務において本願発明の課題を設定する際に、先行文献に対して新規な課題とするために検討するべき、当該先行文献からの「自明な課題や当業者が容易に着想し得る課題」の射程の範囲についての参考になる。
以上
(担当弁理士:赤尾 隼人)

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