IP case studies判例研究

平成30年(行ケ)第10156号「監視のための装置および方法」事件

名称:「監視のための装置および方法」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成30年(行ケ)第10156号 判決日:平成31年3月19日
判決:請求棄却
特許法121条2項
キーワード:責めに帰することのできない理由
判決文:http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/575/088575_hanrei.pdf
[概要]
出願人が外国法人であるとしても、代理人が法令の規定を誤信して期日を看過したことをもって、「その責めに帰することができない理由」があったとはできないとされた事例。
[事件の経緯]
特許庁は、分割出願である本願について拒絶査定をした。
原告は、本願について拒絶査定不服審判を請求することなく、分割出願1を行った(注:本願は平成18年改正法による改正前の特許法第44条第1項が適用される)。
特許庁長官は、本件分割出願1が、拒絶査定不服審判請求と同時にされておらず不適法であり、特許法18条の2第1項本文により却下すべきものと認められるとの平成30年3月22日付けの却下理由通知書を送付した。
原告は、本願について拒絶査定不服審判を請求すると共に、本願の一部を分割する分割出願2をした。
特許庁は、審判の請求を却下するとの審決を行ったため、原告はその取消しを求めて提訴した。
知財高裁は、原告の請求を棄却し、審決を維持した。
[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
1.121条2項の「その責めに帰することができない理由」の解釈について
(1)『特許法121条2項の「その責めに帰することができない理由」とは、天災地変のような客観的な理由に基づいて拒絶査定不服審判を請求することができない場合のほか、通常の注意力を有する当事者において、通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事由により、同条1項の定める法定期間内に拒絶査定不服審判を請求できなかった場合をいうものと解するのが相当である。
特許法121条2項の趣旨は、手続の迅速な解決という立場からは、法定期間内に審判請求のない場合には全て当該手続が終了するものと考えるべきところ、当事者側の事情によっては、当該手続をそのまま終了させることが著しく不当な場合もあるので、特定の場合に限りその救済を認めたというものであることからすると、上記の「その責めに帰することができない理由」を、代理人が通常期待される活動をしていれば避けることができる過誤に基づく場合を含むように広く解釈することはできず、上記のとおり限定的に解釈すべきである。』
(2)『原告は、①特許法1条に規定された目的、・・・(略)・・・、④本件審判請求が、分割出願をするために便宜的に必要とされる非本質的な手続であることからすると、「その責めに帰することができない理由」については広く解釈されるべきであると主張する。』
『ア 上記①について、特許法1条は、「この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。」と規定しており、同条は、「発明の保護」を常に最優先すべきとしているわけではないのであるから、同条から直ちに「その責めに帰することができない理由」を広く解釈することが導かれるものではない。』
『エ 上記④について、原告は、本件拒絶査定について争う意図はなく、原告にとって、本件審判請求は、便宜上の非本質的手続であると主張するが、拒絶査定不服審判請求が分割の機会を得るためだけにされたものであるのか、拒絶査定について実質的に争う趣旨でされたものであるのかは、第三者から見た場合には必ずしも判然としないこともあり得るものであるから、原告の主張するように、拒絶査定不服審判請求が、分割の機会を得るためだけにされたものであるという理由で、前記(1)の「その責めに帰することができない理由」の解釈を変えることは、相当ではない。』
2.本件における「その責めに帰することができない理由」の有無
(1)『特許の出願人が在外者である場合、拒絶査定不服審判請求や分割出願を行うためには、特許法施行令1条1号に定める場合を除いて、特許管理人たる代理人を選任する必要があるが(特許法8条1項)、その場合であっても、同在外者は、誰を代理人に選任するのかについて、自己の経営上の判断に基づきこれを自由に選択することができる。そうすると、出願人から委任を受けた代理人に「その責めに帰することができない理由」があるといえない場合には、出願人本人に何ら落ち度がない場合であっても、特許法121条2項所定の「その責めに帰することができない理由」には当たらないと解すべきである(最高裁昭和31年(オ)第42号同
33年9月30日第三小法廷判決・民集12巻13号3039頁参照)。』
(2)『本件においては、前記第2の1のとおり、D弁理士は、本願からの分割出願について、特許法44条1項3号の適用があり、拒絶査定不服審判請求をする必要はないものと誤信し、拒絶査定不服審判請求についての法定期間を徒過してしまったものである。
弁理士法3条によると、弁理士には、業務に関する法令に精通して、その業務を行う義務があるところ、通常の注意力を有する弁理士が、通常期待される法令調査を行えば、本件拒絶査定後、本願から適法に分割出願を行うためには、拒絶査定不服審判請求を分割出願と同時にする必要があると認識することは十分に可能であったと認められる。したがって、D弁理士が上記のように誤信をしたことは、弁理士として通常期待される法令調査を怠った結果であるというほかない。D弁理士以外の他の本件代理人らについても、いずれも原告本人から委任を受けた弁理士である以上、適宜、必要な処置を講じて、本件のような過誤の発生を防止すべき義務があったといえ、D弁理士同様、弁理士として通常期待される注意を尽くしていなかったものというべきである。
以上のとおり、本件代理人らが通常期待される注意を尽くしていたとはいえない以上、本件において、特許法121条2項にいう「その責めに帰することができない理由」があったとすることはできない。』
(3)『また、前記(1)のとおり、原告本人は、自らの経営上の判断として、本件代理人らに委任したのであるから、原告本人には過失がなかったとしても、自己が委任した本件代理人らに過失がある以上、「その責めに帰することができない理由」はなかったと判断されるのもやむを得ないものというべきである。』
[コメント]
「責めに帰することができない理由」(不責事由)という条件は極めて厳しいものであり、「正当な理由」とは異なる。ちなみに、平成26年法改正において導入された、期間徒過後の救済規定については、特許庁からガイドラインが発行されているが、これは「責めに帰することができない理由」は含まれない。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/document/kyusai_method/h28guideline.pdf
なお、審判請求期限については、依然として不責事由扱いである。これは、審判請求手続がPLT(特許法条約)の規定対象外であるため、PLTの規定の適用を受けないためである。
以上
(担当弁理士:佐伯 直人)

平成30年(行ケ)第10156号「監視のための装置および方法」事件

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