IP case studies判例研究

平成29年(行ケ)第10151号「第FVIII因子ポリマー結合体」事件

名称:「第FVIII因子ポリマー結合体」事件
拒絶審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成29年(行ケ)第10151号 判決日:平成30年6月26日
判決:請求棄却
特許協力条約規則17
キーワード:優先権主張、優先権書類
判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/844/087844_hanrei.pdf
[概要]
優先権主張に関する手続きが争われた事件であり、所定の手続きをしていない本願は優先権を有するとは認められず、国際出願日前に公開された引用例に記載された発明であるとして、拒絶審決が維持された事例。
[事件の経緯]
原告らは、米国での特許出願に基づく優先権を主張する申立てを伴った国際出願をし、その後、日本に国内移行の手続をとった。原告が、特許出願(特願2011-521284号)に係る拒絶査定不服審判(不服服2015-10108号)を請求したところ、特許庁(被告)が、請求不成立の拒絶審決をしたため、原告は、その取消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。
[本願発明]
【請求項1】
水溶性ポリマーを第VIII因子(FVIII)の酸化炭水化物部分へと結合体化する方法であって、結合体化を可能とする条件下で前記酸化炭水化物部分を活性化水溶性ポリマーと接触させる工程を含み、ここで、前記水溶性ポリマーに結合体化された前記FVIIIは、未変性FVIIIの活性の少なくとも50%を保持する、方法。
[審決]
本件審決の理由は、本件基礎出願に基づく優先権を有するとは認められないところ、本願発明は、本願の国際出願日前に頒布された米国特許出願公開第2009/0076237号明細書(以下「引用例」という。)に記載された発明であるから、特許を受けることができない、というものである。
[取消事由]
本願発明の新規性判断の誤り(優先権の有無の判断の誤り)
[裁判所の判断]
『(1) 優先権主張の手続
特許協力条約の規定に基づく国際特許出願について、優先権を主張する場合、出願人は、原則として、優先日から16か月以内に、優先権書類を国際事務局又は受理官庁に提出しなければならない(特許協力条約規則17.1(a))。この手続に代えて、一定の条件が満たされた場合においては、出願人は、優先日から16か月以内に、受理官庁に対し、優先権書類を作成し国際事務局に送付するよう請求するか、国際事務局に対し、優先権書類を電子図書館から入手するよう請求するなどしなければならない(同規則17.1(b)(bの2))。
出願人が、これらの手続を採らない場合、指定官庁は、事情に応じて相当の期間内に出願人に優先権書類を提出する機会を与えた上で、優先権の主張を無視することができる(特許協力条約規則17.1(c))。ただし、指定官庁が実施細則に定めるところにより優先権書類を電子図書館から入手可能な場合などは、指定官庁は、同規則17.1(c)の規定により優先権の主張を無視することはできない(同規則17.1(d))。
(2) 特許協力条約規則17.1(c)(d)該当性
本願について、特許協力条約規則17.1(a)、(b)及び(bの2)の要件のいずれも満たされないこと、並びに、JPOが、事情に応じて相当の期間内に原告らに優先権書類を提出する機会を与えたことは、当事者間に争いがない。
・・・(略)・・・
ア 特許協力条約実施細則の定め
しかし、まず、本件基礎出願の出願日(優先日)から16か月後の平成21年12月1日時点において効力を有する特許協力条約実施細則には、電子図書館に関する規定は存在しない(乙11)。したがって、本願について、JPOは、「実施細則に定めるところにより優先権書類を電子図書館から入手可能」ではないから、特許協力条約規則17.1(d)により、本件基礎出願に基づく優先権の主張を無視することができないということはできない。そうすると、JPOは、同規則17.1(c)により、相当の期間内に原告らに優先権書類を提出する機会を与えた上で、優先権の主張を無視することができるところ、原告らが、特許法施行規則38条の14に規定する期間内に、優先権書類を提出していないことは当事者間に争いがない。
よって、JPOは、特許協力条約規則17.1(c)により、本件基礎出願に基づく優先権の主張を無視することができる。
イ 特許協条約実施細則715(a)の事後的な充足
・・・(略)・・・
仮に、特許協力条約規則17.1(c)及び(d)の規定について、出願人に優先権書類を提出する機会を与えた相当の期間内に、JPOが特許協力条約実施細則715(a)(i)の「通知」をするなどすれば、JPOは優先権の主張を無視できないと解釈したとしても、後記ウのとおり、JPOが、同実施細則715(a)(i)の「通知」をしたとの事実は認められない。
したがって、JPOが特許協力条約実施細則715(a)に定めるところにより本件基礎出願の優先権書類を電子図書館から入手可能であるとはみなされないから、JPOは、特許協力条約規則17.1(d)の規定の適用上、優先権書類を電子図書館から入手可能な場合に当たらない。』
『そうすると、JPOが平成21年4月1日からアクセス官庁となる旨の本件通知は、JPOが、平成20年4月18日法律第16号による改正後の特許法43条5項を執行するために、同項の範囲内でDASのアクセス官庁になるために発出したものと解すべきである。
一方、特許協力条約により国際出願日にされた特許出願とみなされた国際特許出願については、特許法43条5項の規定は適用されない(同法184条の3第2項)。したがって、JPOが、かかる国際特許出願において、優先権書類の提出を省略できるようにするために、本件通知をしたものと解するのは困難である。我が国の特許法令との関係からも、JPOが、本件通知により、特許協力条約実施細則715(a)(i)の「通知」をしたということはできない。』
『国際事務局の見解からも、JPOが、本件通知により、特許協力条約実施細則715(a)(i)の「通知」をしたということはできない。』
『・・・(略)・・・我が国の特許法令は、パリルートとPCTルートとで、優先権書類の提出を省略する手続に差異を設けているのであるから、本件通知の内容を解釈するに当たり、パリルートの優先権主張の手続とPCTルートの優先権主張の手続を区別するのは、我が国の特許法が予定しているものである。
f 以上のとおり、本件通知の時期、本件通知と我が国の特許法令との関係、本件通知に関する国際事務局の見解を考慮すれば、本件通知により、JPOが、特許協力条約実施細則715(a)(i)の「通知」をしたものということはできない。』
『(ウ) 以上のとおり、JPOは、本件通知や、ウエブサイトの掲載により、特許協力条約実施細則715(a)(i)の「通知」をしたということはできない。そして、他に、JPOが、かかる「通知」をしたとの事実を認めるに足りる証拠はない。』
[コメント]
優先権主張に関する手続きが争われた事件であり、特許協力条約規則17の例外規定の適用を主張したが、これが認められず、所定の手続きをしていない本願は、優先権を有するとは認められないと判断された。つまり、例外規定の適用に関して、JPOは、DASのためのアクセス官庁等となる通知や、ウエブサイトの掲載により、特許協力条約実施細則715(a)(i)の「通知」をしたということはできない、と判断した。今回の事件と同様に、手続きの看過に対しては、日本の裁判所は厳しい判断をする傾向がある。
一方、優先権書類の提出については、パリルートとPCTルートで異なっており、パリルートではDASを利用できる第1国庁とできない第1国庁がある点や、二国庁間での電子的交換により提出を省略できる場合がある点にも注意すべきである。
以上
(担当弁理士:梶崎 弘一)

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