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平成29年(行ケ)第10156号「棚装置」事件

名称:「棚装置」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成29年(行ケ)第10156号 判決日:平成30年2月28日
判決:請求棄却
特許法17条の2第3項、同法123条1項1号
キーワード:補正要件
判決文:http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/553/087553_hanrei.pdf
[概要]
当初明細書等に開示された内容に基づき、出願当初の請求項に記載の発明特定事項の限定をなくす補正が、当初明細書等に記載した事項の範囲内でされたものと判断された事例。
[事件の経緯]
被告は、特許第4910097号の特許権者である。
原告が、当該特許の請求項1及び2に係る発明についての特許無効審判(無効2015-800131号)を請求したところ、特許庁が、請求不成立(特許維持)の審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。
[本件発明1]
4本のコーナー支柱と、前記コーナー支柱で支持された平面視四角形で金属板製の棚板とを備えており、前記棚板は、水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成した外壁とを備えている棚装置であって、前記棚板における外壁の先端に、基板の側に折り返された内壁が、当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており、前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており、前記内壁の自由端部は傾斜部になっている、棚装置。
[本件当初発明1]
複数本のコーナー支柱と、前記コーナー支柱の群で囲われた空間に配置された金属板製の棚板とを備えており、前記コーナー支柱は平面視で交叉した2枚の側板を備えている一方、前記棚板は、水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成した外壁とを備えており、外壁の端部をコーナー支柱の側板に密着させて両者をボルトで締結している棚装置であって、
前記コーナー支柱の側板と棚板の外壁とのうちいずれか一方には位置決め突起を、他方には前記位置決め突起がきっちり嵌まる位置決め穴を設けている、棚装置。
[本件補正発明1]
4本のコーナー支柱と、前記コーナー支柱で支持された平面視四角形で金属板製の棚板とを備えており、前記棚板は、水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成した外壁とを備えている棚装置であって、
前記棚板における外壁の先端に、基板の側に折り返された内壁が、当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており、前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられている、棚装置。
[原告主張の審決取消事由]
本件発明1は、当初明細書等に記載した事項の範囲内において補正されたものではなく、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした発明である。したがって、本件特許は、特許法123条1項1号に基づいて、無効とされるべきものである。
[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『・・・(略)・・・当初明細書等には、コーナー支柱で棚板を支持している棚装置に関するものであり(【0001】)、より改善された形態の棚装置を提供することを課題として(【0008】)、4本のコーナー支柱と、コーナー支柱で支持された平面視四角形で金属板製の棚板とを備えており・・・、棚板の剛性を高くして棚装置全体としてより頑丈な構造とするため、・・・棚板における外壁の先端に、基板の側に折り返された内壁が、内壁と外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており、内壁の自由端部である下端部は外壁に向けて傾斜した傾斜部になっている・・・(略)・・・との構成(以下、「構成1」という。)とすることを技術的特徴とする発明が記載されている。
そうすると、本件補正発明1における「4本のコーナー支柱と、前記コーナー支柱で支持された平面視四辺形で金属板製の棚板」との構成を含む全ての構成が当初明細書等に記載されていると認められる。
したがって、コーナー支柱の形状の限定をなくす本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものである。』
『確かに、当初明細書等には、コーナー支柱と棚板との間のガタ付きを改善することを目的として・・・(略)・・・、コーナー支柱は平面視で交叉した2枚の側板を備え・・・(略)・・・との構成が開示されていることが認められる。そうすると、コーナー支柱が「平面視L形」又は「平面視で交叉した2枚の側板を備える」ものであることは、当初明細書等の請求項に係る発明においては、必須の構成となるといい得るのであって、原告が指摘している当初明細書等【0006】~【0009】、【0017】の記載も当初明細書等の請求項の記載に係る発明についてのものであるということができる。
しかし、当初明細書等には、前記1(2)のとおり、棚板の剛性を高くして棚装置全体としてより頑丈な構造とするとの作用効果を奏する構成1も記載されており、この場合には、当初明細書等の請求項に係る発明とは異なり、コーナー支柱が「平面視L形」又は「平面視で交叉した2枚の側板を備える」ものであることは、必須の構成であるとはいえず、構成1と技術的に一体不可分な関係にあるとも認められない。
そして、当初明細書等には、「本願発明は、コーナー支柱で棚板を支持している棚装置に関するものである。」と記載されている(【0001】)。
そうすると、上記の構成1の発明である本件発明1が、コーナー支柱について「平面視L形」又は「平面視で交叉した2枚の側板を備える」と特定していないからといって、本件発明1が当初明細書等に記載されていないものであるとか、当初明細書等の記載を上位概念化したものであるということはできない。』
[コメント]
本判決では、コーナー支柱の形状の限定をなくした補正が、当初明細書等に記載した事項の範囲内でされたものと判断された。コーナー支柱が平面視で交叉した2枚の側板を備えるという事項は、当初の請求項に係る発明においては、必須の構成であるものの、棚板の剛性を高くして棚装置全体としてより頑丈な構造とするとの作用効果を奏する発明においては、必須の構成とはいえない、と認定されたためである。
また、そのように判断された根拠の一つとして、【技術分野】の欄の記載が摘示されており、この欄にコーナー支柱の形状が記載されていた場合は、また違った結論になっていたかもしれない。よって、【技術分野】の欄では、なるべくシンプルな記載を心掛けるべきであり、請求項1の前提部(preamble)を引き写すことは避けた方がよい場合があるといえる。
以上
(担当弁理士:椚田 泰司)

平成29年(行ケ)第10156号「棚装置」事件

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