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平成28年(行ケ)第10202号「曲げ可能な構造」事件

名称:「曲げ可能な構造」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成28年(行ケ)第10202号 判決日:平成29年7月27日
判決:請求棄却
特許法29条2項
キーワード:引用発明の認定
判決文:http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/997/086997_hanrei.pdf
[概要]
本願発明の構成に特定されていない事項については、これと対比すべき引用発明の認定を行う必要はないとして、相違点の看過が認められないとされた事例。
[事件の経緯]
原告が、特許出願(特願2010-539329号)に係る拒絶査定不服審判(不服2014-4836号)を請求したところ、特許庁(被告)が、請求不成立の拒絶審決をしたため、原告は、その取消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。
[本件発明]
【請求項1】
曲げ可能な構造であって、前記構造が、
-曲げられるようになっている本体と、
-前記本体内に曲げ力を誘導するためのアクチュエータとを含み、
前記アクチュエータは、一方向性の形状記憶合金(SMA)材料で少なくとも部分的に作製され、かつ予め変形された第1のワイヤと、
一方向性の形状記憶合金(SMA)材料で少なくとも部分的に作製された第2のワイヤとを含み、
前記第1のワイヤおよび前記第2のワイヤが、ブリッジ構造を形成するために前記本体の一部に接触して配置され、
前記本体が、弾性ヒンジあるいは硬いヒンジを含む、前記本体の長手方向に伸長する相互接続された複数のヒンジを含み、前記ブリッジ構造が、前記相互接続された複数のヒンジによって繋がれた前記第1のワイヤおよび前記第2のワイヤによって形成され、
使用時に、前記第1のワイヤが短くされると力学的エネルギが前記第2のワイヤに転移し、それに応じて前記第2のワイヤが伸長し、
前記曲げ可能な構造は、1以上の前記第1のワイヤおよび前記第2のワイヤにおいて、マルテンサイト相からオーステナイト相への、またはオーステナイト相からR相への前記一方向性の形状記憶合金材料の転移を誘導する制御ユニットをさらに含み、前記制御ユニットは、所望の曲げ角度を得るための活性化エネルギの量を印加するために、前記制御ユニットによって制御された継続時間または振幅の電流パルスの印加によって、前記一方向性の形状記憶合金材料における転移を誘導するために準備される曲げ可能な構造。
[審決の要旨]
本願発明は、引用文献1(特開平5-285089号公報)に記載された発明(引用発明)、引用文献1及び引用文献3(実願昭57-96750号(実開昭59-2344号)のマイクロフィルム)の記載事項、並びに、本願優先日前において周知な事項及び慣用されている技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は、特許法29条2項により特許を受けることができない。
[取消事由]
取消事由1:引用発明の認定の誤りに伴う相違点の看過
取消事由2:相違点1の容易想到性の判断の誤り(省略)
取消事由3:顕著な効果の判断の誤り(省略)
[原告の主張](取消事由1のみ抜粋)
引用文献1には、「各SMAワイヤ12への通電には、直流または交流が使用されるが、PWM通電加熱を行い、デューティー比を変えることで通電量を制御し、湾曲部4の湾曲角度を任意の位置で保持する」ことを前提とする可撓管の湾曲機構が記載されている。それにもかかわらず、審決は、引用発明の認定に当たり、上記の点を認定していないから、誤りである。
引用発明に係る可撓管の湾曲機構では、各SMAワイヤ12が二方向性のTi-Ni合金であることから、湾曲部4を湾曲させ、その湾曲させた角度を維持するために、パルスが制御されたデューティー比を有する連続パルス列の各SMAワイヤ12への供給を維持すること、すなわち、各SMAワイヤ12への連続パルス列の供給を継続させなければ、湾曲部4の屈曲を維持することができないことを前提としているが、このような構成こそが本願発明と対比すべき構成である。
[裁判所の判断](取消事由1のみを記載、筆者にて適宜抜粋)
『原告は、審決は、引用発明の認定に当たり、湾曲部4を湾曲させ、その湾曲させた角度を維持するために、パルスが制御されたデューティー比を有する連続パルス列の各SMAワイヤ12への供給を維持すること、すなわち、各SMAワイヤ12への連続パルス列の供給を継続させなければ、湾曲部4の屈曲を維持することができないことを認定していないから、その引用発明の認定には誤りがあり、それに伴いこの構成に係る相違点の看過がある旨主張する。』
『しかしながら、本願発明の要旨は、前記第2の2のとおりであり、一方向性の形状記憶合金材料で少なくとも部分的に作製された第1のワイヤ及び第2のワイヤにおいて、低温のマルテンサイト相から加熱により高温のオーステナイト相への転移を誘導して、所望の曲げ角度を得ることについては、「前記制御ユニットは、所望の曲げ角度を得るための活性化エネルギの量を印加するために、前記制御ユニットによって制御された継続時間または振幅の電流パルスの印加によって、前記一方向性の形状記憶合金材料における転移を誘導するために準備される」と特定されているのみであり、所望の曲げ角度を得た後に、その曲げ角度を維持するための電流パルスの印加の要否については、特定されていない。』
『そうすると、引用発明の認定は、本願発明と対比して、その構成の相違点の有無及び内容を明らかにするために行うものであるから、本願発明の構成として、所望の曲げ角度を得た後に、その曲げ角度を維持するための電流パルスの印加の要否が特定されていない以上、これと対比すべき引用発明の認定に当たり、湾曲部4を湾曲させた後に、その湾曲させた角度を維持するために、電流パルスを供給することを認定する必要はないし、これに伴う相違点の看過も認められない。』
[コメント]
引用発明の湾曲機構には「二方向性のTi-Ni合金からなるワイヤ」が用いられている一方、本願発明には「一方向性の形状記憶合金からなるワイヤ」が用いられており、かかる相違点を効果的に主張するべく、原告は、実際に用いる場合の態様の相違点を主張したものと考えられる。しかし、発明特定事項に現れていない文言によって相違点を主張したとしても、当該主張は的外れなものであり、裁判所の判断は妥当である。
以上
(担当弁理士:佐伯 直人)

平成28年(行ケ)第10202号「曲げ可能な構造」事件

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