IP case studies判例研究

平成27年(行ケ)第10185号「複数の指示部位で操作可能なタッチパネルシステム」事件

名称:「複数の指示部位で操作可能なタッチパネルシステム」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成27年(行ケ)第10185号 判決日:平成28年7月20日
判決:請求棄却
特許法134条の2第9項(準用131条の2第1項)、134条2第1項ただし書
キーワード:訂正請求書の補正の可否、訂正請求の適否
[概要]
訂正請求書の補正および訂正請求の適否が争われたが、審決の判断に誤りがないとして審決が維持された事例。なお、無効理由に対する判断(進歩性に対する判断)にも誤りはないとされた。
[事件の経緯]
1)被告が、平成26年1月9日に本件特許の請求項1、2、4及び6に係る発明についての特許無効審判請求(無効2014-800005号)をした。
2)特許庁が平成27年1月21日に請求項1、2、4及び6に係る発明の特許を無効とするとの審決の予告をした。
3)原告は、同年3月30日に請求項1、2、4及び6の訂正請求と請求項1の従属項である請求項3、5、7~9及び10を請求項1の記載を引用しない独立項に訂正する訂正請求をした。
4)特許庁が訂正拒絶理由を通知した。
5)原告は、平成27年6月11日付け手続補正書で、本件訂正に係る訂正請求書及び訂正明細書の補正(本件補正)をした。
6)特許庁は、平成27年8月11日、本件補正を却下し、本件訂正を認めず、「平成27年3月30日付け訂正請求に係る、請求項3、5、7、8、9、10についての訂正を認める。特許第3867226号の請求項1、2、4、6に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決をした。
7)原告は、その取消しを求めたが、知財高裁は、原告の請求を棄却した。
[本件発明1(請求項1の分説)]
A:情報処理装置と、該情報処理装置に接続され、複数の指示部位を有する指示体による入力検出面へのタッチ動作を前記情報処理装置へ伝えるための、前記入力検出面にタッチされる指示部位の指示位置を検出する位置検出手段を備えたタッチパネルとを有するタッチパネルシステムであって、
該タッチパネルシステムは、
B:前記タッチパネルの入力検出面に同時に又は順にタッチされる指示部位の数をカウントするカウント手段と、
C:前記位置検出手段により検出される複数の指示部位のうち最外端にある2個所の指示部位の指示位置の間の距離を算出する距離算出手段と、
D:前記カウント手段によりカウントされる指示部位の数に加えて、前記距離算出手段により算出される指示位置の間の距離又は該距離の過渡的な変化に応じて前記情報処理装置が所定の動作を行うようにする制御手段と、を具備することを特徴とする
E:複数の指示部位で操作可能なタッチパネルシステム。
[訂正後構成(補正前構成)] 削除は<->、追加は[ ]で示す。
『D:<前記カウント手段によりカウントされる指示部位の数に加えて、>前記距離算出手段により算出される指示位置の間の距離又は該距離の過渡的な変化[、及び前記カウント手段により前記一定の時間においてカウントされる指示部位の数又は該数の過渡的な変化]に応じて[、特定の時間において算出される指示位置の間の距離又は該距離の過渡的な変化、及び前記特定の時間においてカウントされる指示部位の数又は該数の過渡的な変化に対応した所定の動作から選ばれる所定の動作を、]前記情報処理装置が<所定の動作を>行うようにする制御手段と』
[本件補正の内容]
『D:前記距離算出手段により算出される指示位置の間の距離又は該距離の過渡的な変化、及び前記カウント手段により前記一定の時間においてカウントされる指示部位の数<又は該数の過渡的な変化>に応じて、特定の時間において算出される指示位置の間の距離又は該距離の過渡的な変化、及び前記特定の時間においてカウントされる指示部位の数<又は該数の過渡的な変化>に対応した所定の動作から選ばれる所定の動作を、前記情報処理装置が行うようにする制御手段と、』
[取消事由]
(1)本件補正の可否に関する判断の誤り
(2)本件訂正の適否に関する判断の誤り
(他の取消事由は割愛する)
[原告の主張(筆者にて原告の主張を適宜抜粋)]
1 取消事由1(本件補正の可否に関する判断の誤り)
原告は、『特許法134条の2第9項で準用する特許法131条の2第1項において、訂正請求書の補正が訂正請求書に係る請求の趣旨の要旨の変更になるか否かは、補正前の訂正事項と補正後の訂正事項とを対比し、訂正を求める範囲が補正によって実質的に拡張又は変更されるかどうかの観点から判断されるべきである。本件補正は、「指示部位の数の過渡的な変化」との訂正を含む本件訂正に係る各訂正事項につき、これを、「指示部位の数の過渡的な変化」を除く訂正にとどめるとする趣旨のものであって、減縮的変更に該当するから、訂正を求める範囲が拡張又は変更されたものではなく、要旨の変更には該当しない。』と主張した。
2 取消事由2(本件訂正の適否に関する判断の誤り)
原告は、『特許法134条の2第1項ただし書において、訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるか否かは、訂正前後の発明の要旨を対比し、特許請求の範囲が実質的に拡張又は変更されるかどうかの観点から判断されるべきである。本件訂正は、制御手段のカウント手段によりカウントされる指示部位の数又はその数の過渡的な変化を、「一定の時間」にカウントされるものに限定したものである。そうすると、訂正前構成においては、指示部位の数又はその数の過渡的な変化が「一定の時間」にカウントされるかどうかにかかわらない態様を包含するものであったのに対し、訂正後構成においては、その一部を実施態様とすることになり、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。なお、数の変化は数の存在を前提としており、「指定部位の数の過渡的な変化に応じて」は「指示部位の数に応じて」の実施態様に包含されるものであるから、「指示部位の数の過渡的な変化」を加える訂正は、カウントされる対象の拡張ではなく、限定である。』と主張した。
[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
1.取消事由1について
『本件補正は・・・(略)・・・補正前構成(訂正後構成)において、制御手段が情報処理装置に行わせる所定の動作の選択候補を、次の
① 特定の時間において算出される「指示位置の間の距離」と特定の時間においてカウントされる「指示部位の数」との組合せに対応した所定の動作
② 特定の時間において算出される「指示位置の間の距離」と特定の時間においてカウントされる「指示部位の数の過渡的な変化」との組合せに対応した所定の動作
③ 特定の時間において算出される「指示位置の間の距離の過渡的な変化」と特定の時間においてカウントされる「指示部位の数」との組合せに対応した所定の動作
④ 特定の時間において算出される「指示位置の間の距離の過渡的な変化」と「指示部位の数の過渡的な変化」との組合せに対応した所定の動作
のいずれかとしていたものを、①③のいずれかとする補正後構成に補正するとともに、補正前構成(訂正後構成)において、制御手段が情報処理装置に行わせる所定の動作の選択を、次の
①’距離算出手段により算出される「指示位置の間の距離」及びカウント手段により一定の時間においてカウントされる「指示部位の数」
②’距離算出手段により算出される「指示位置の間の距離」及びカウント手段により一定の時間においてカウントされる「指示部位の数の過渡的な変化」
③’距離算出手段により算出される「指示位置の間の距離の過渡的な変化」及びカウント手段により一定の時間においてカウントされる「指示部位の数」
④’距離算出手段により算出される「指示位置の間の距離の過渡的な変化」及びカウント手段により一定の時間においてカウントされる「指示部位の数の過渡的な変化」
のいずれかに応じてするとしていたものを、①’③’のいずれかとする補正後構成に補正するものである。
そうすると、補正後構成は、所定の動作が何に応じて選択されるか、及び、所定の動作の選択候補を変更するものであり、審理対象が実質的に変更されているものであるから、訂正請求書の趣旨の要旨を変更するものであり、特許法134条の2第9項で準用する同法131条の2第1項規定に違反するものである。』
原告の主張に対し裁判所は、『・・・(略)・・・特許法131条の2第1項は、審理遅延を防止するために、審理対象の変動を禁止したものであるところ、補正前構成(訂正後構成)は、その全体が一体として、制御手段が情報処理装置にさせる所定動作の選択のための条件を規定するものであるから、これを規定する発明特定事項の要素が補正後構成において減少していても、補正前構成(訂正後構成)の全体が変更されていることにほかならない。そうすると、審理対象は変動しており、本件補正は、要旨の変更に該当する。』と説明している。
2.取消事由2について
『本件訂正は、・・訂正前構成において、制御手段が情報処理装置に行わせる所定の動作の選択を、次の
① カウント手段によりカウントされる「指示部位の数」及び距離算出手段により算出される「指示位置の間の距離」
② カウント手段によりカウントされる「指示部位の数」及び距離算出手段により算出される「指示位置の間の距離の過渡的な変化」
のいずれかに応じてするとしていたものを、次の
① カウント手段によりカウントされる「指示部位の数」及び距離算出手段により算出される「指示位置の間の距離」
①’ カウント手段によりカウントされる「指示部位の数の過渡的な変化」及び距離算出手段により算出される「指示位置の間の距離」
② カウント手段によりカウントされる「指示部位の数」及び距離算出手段により算出される「指示位置の間の距離の過渡的な変化」
②’ カウント手段によりカウントされる「指示部位の数の過渡的な変化」及び距離算出手段により算出される「指示位置の間の距離の過渡的な変化」
のいずれかに応じるとし、さらに、
A カウント手段によりカウントされる指示部位の数又は該数の過渡的な変化は「一定時間」においてカウントされるものにし、
B 所定の動作は、「特定の時間において算出される指示位置の間の距離又は該距離の過渡的な変化、及び前記特定の時間においてカウントされる指示部位の数又は該数の過渡的な変化に対応した所定の動作」との組合せから選ばれるものとするとの訂正後構成に訂正するものである。そうすると、本件訂正は、所定の動作が何に応じて選択されるかについて、訂正前においては、上記①②の2つとしていたものを、訂正後においては、①①’②②’の4つにするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえない。』
原告の主張に対し裁判所は、『・・指示部位の数をカウントしても、直ちに当該数の過渡的な変化が判明するわけではなく、数の過渡的な変化を知るためには、特定の時点において数をカウントする構成に加えて、複数の時点の数を比較するという更なる追加の構成を必要とするから、「指示部位の数」は、「指示部位の数の過渡的な変化」を含むものではない。そうすると、本件訂正は、「指示部位の数」に加えて「指示部位の数の過渡的な変化」をも加えた態様を特許請求の範囲に含めるようにしたものである。この付加された態様は、たとえ「一定の時間」という限定を付したとしても、訂正前構成に付加された態様である点に変りはない。』と説明している。
[コメント]
審判便覧第16版51-14 訂正請求書提出後の審理において『3.(3)訂正拒絶理由通知に対しては、訂正事項の削除、軽微な瑕疵の補正等、訂正請求書の要旨を変更しないものであれば補正をすることができる。訂正審判の請求書の補正と同様に、新たに訂正事項を加えることや、訂正事項を変更することは、訂正請求書の要旨を変更するものとして取り扱う』とされている。
従って、『訂正事項の削除、軽微な瑕疵の補正等』以外で補正が認められることは極めて少ないものと思われる。本件の場合、訂正事項の一部要素を削除する補正であって、訂正事項(訂正単位全部)の削除とは異なるため、要旨変更であると判断されたものと思われる。
ところで、本件は、訂正請求当初から訂正後補正事項で訂正請求をしていれば、限定的減縮であるとして訂正請求は認められていたのではないかと思われるため、訂正請求の際には訂正事項について十分な検討が必要である。
以上
(担当弁理士:丹野 寿典)

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