IP case studies判例研究

平成 26 年(行ケ)10150 号 「オーバーヘッドホイスト搬送車」事件

名称:「オーバーヘッドホイスト搬送車」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 26 年(行ケ)10150 号 判決日:平成 27 年 5 月 27 日
判決:請求認容(審決取消)
特許法第29条第2項
キーワード:動機付け、後知恵
[概要]
原告は、発明の名称を「オーバーヘッドホイスト搬送車」とする特許出願の拒絶査定に対
して不服の審判を請求したところ、特許庁が請求不成立の審決をしたことから、その取消し
を求めた。
[本件発明と刊行物2発明との相違点]
(相違点1)本件発明では、「下方にホイスト把持部が取り付けられた移動ステージを有し、
前記移動ステージは、前記ホイスト把持部に把持されたカセットポッドがオーバーヘッドホ
イスト搬送車内に位置する第1の位置と、前記ホイスト把持部に把持されたカセットポッド
の全部がオーバーヘッドホイスト搬送車の外に位置する第2の位置との間で、前記ホイスト
把持部を水平方向に移動させ、前記ホイスト把持部は、前記第1の位置及び第2の位置から
異なる高さの位置に下降してカセットポッドを取り上げ又は配置する」ように構成している
のに対し、刊行物2発明では、移動ステージを有していない点。
[裁判所の判断]
刊行物2発明は、移動体と物品保持部との間及び移動体とステーション(加工装置)との
間の物品の各移載手段を、単一の昇降移動手段で兼用し、構成の簡素化を図ることをその技
術的意義とするものである。一方、相違点1に係る本件発明の構成は、オーバーヘッド搬送
車からその真下に位置する処理加工治具ロードポートへは、オーバーヘッド搬送車の移動ス
テージ下方に取り付けられて物品を把持するホイスト把持部が下降して、物品を移送するが、
オーバーヘッド搬送車の側方に配置される固定棚へは、ホイスト把持部が移動ステージによ
って固定棚の上方へ水平方向に移動させられてから下降して、物品を移送するものであり、
移動体側に物品の昇降移動と横幅移動の双方の手段を兼ね備え、ロードポートと固定棚への
物品移載手段を互いに異なる動作で行うものであり、単一の昇降移動手段で兼用しているも
のではない。
そうすると、刊行物2発明において、把持具が昇降移動する構成に加えて、水平方向に移
動する構成を適用し、物品載置台及び加工装置へ異なる移動手段で物品を移載するという相
違点1に係る構成とすることは、刊行物2発明の技術的意義を失わせることになる。そして、
そもそも刊行物2発明においては、物品載置台11が揺動移動する構成となっており、移動
体3の直下に位置することが可能であるため、物品移載手段BMの把持具3dは昇降移動の
みで物品載置台11との間の物品の移載が可能となるにもかかわらず、あえて把持具3dを
水平方向に移動させる構成を追加する必要性がなく、そのような構成に変更する動機付けが
あるとは認められない。
[コメント]
主引例記載の発明に副引例記載の構成を適用すると、その主引例記載の発明の技術的意義
が失われることに加え、主引例記載の発明においては、あえて副引例記載の構成を適用する
必要性がないため、そのように構成を変更する動機付けがないと認められた。進歩性を主張
したい場面での理論構成として参考になる事例である。

平成 26 年(行ケ)10150 号 「オーバーヘッドホイスト搬送車」事件

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