IP case studies判例研究

平成26年(行ケ)第10068号「ポリウレタンフォームおよび発泡された熱可塑性プラスチックの製造」事件

名称:「ポリウレタンフォームおよび発泡された熱可塑性プラスチックの製造」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所第 3 部:平成 26 年(行ケ)第 10068 号 判決日:平成 27 年 1 月 28 日
判決:請求認容(無効審判請求不成立審決の取消)
行政事件訴訟法33条1項、特許法29条2項
キーワード:判決の拘束力、発明の容易想到性
[概要]
特許の無効審判請求不成立審決について,本件審決には,第1次取消判決の拘束力に抵触する
判断をした誤りがあるとともに,相違点2に係る本件訂正発明の構成の容易想到性についての判
断にも誤りがあるとして,無効審判請求不成立審決を取り消した事案。
[経緯]
特許庁は,第1次審決として,無効審判請求事件について不成立審決をしたが,知的財産高等
裁判所は,これを取り消す判決(第1次取消判決)をした(H23 年(行ケ)第 10191 号)。その後,
特許庁は,第2次審決として,特許無効審決をしたが,知的財産高等裁判所は,これを取り消す
判決(第2次取消判決)をした(H25 年(行ケ)第 10152 号)。その後,特許庁は,本件審決とし
て,訂正後の発明について無効審判請求不成立とする本件審決をした。原告は,本件審決の取消
しを求め,本件訴えを提起した。
[本件訂正発明]
[請求項1]
a)1,1,1,3,3-ペンタフルオルブタン(HFC-365mfc)30質量%以下
および
b)1,1,1,3,3-ペンタフルオルプロパン(HFC-245fa)を含有するか
または該a)およびb)から成る発泡剤組成物(但し,HFC-134a又はHCFC-141
bを含まない)。
[本件訂正発明と甲1発明との対比]
[相違点2]本件訂正発明は「(但し,HFC-134a又はHCFC-141bを含まない)」
との特定事項を有しているのに対し,甲1発明はHCFC-141bを含む旨を特定している点。
[争点]
取消事由1:第1次取消判決の拘束力に抵触する判断をした誤り
取消事由2:相違点2に係る本件訂正発明の構成の容易想到性についての判断の誤り
[裁判所の判断]
当裁判所は,本件審決には,第1次取消判決の拘束力に抵触する判断をした誤り(取消事由1)
及び相違点2に係る本件訂正発明の構成の容易想到性についての判断の誤り(取消事由2)があ
り,これらの誤りはいずれも審決の結論に影響を及ぼすものであるから…本件審決は取消しを免
れないと判断した。
(取消事由1)
(第1次審決)
甲1には,硬質ポリウレタンフォーム用発泡剤を,HCFC-141bから,HFC-245
fa,HFC-365mfcなどに代替していく方向性は示されているといえるが,このような
方向性を踏まえたものとして,具体的に示されている発泡剤組成物は,その成分として,代替物
である「HFC-245fa」及び「HFC-365mfc」とともに「HCFC-141b」
を依然として含有するものであって,この発泡剤組成物から,さらに熱的性能,防火性能に優れ
る「HCFC-141b」を完全に除去することは,当業者が予測できるとはいえない。以上を
踏まえ,甲1…から本件発明を当業者といえども容易に想到できるとはいえないと結論付けた。
(第1次取消判決)
甲1には,オゾン層に悪影響を与えるHCFC-141bの代替物質としてHFC-245f
a及びHFC-365mfcを発泡剤としての使用が提案されていることが認められる。なお,
HCFC-141bを,その熱的性能,防火性能を理由として,依然として含有させるべきであ
るとの見解が示されているわけではないと解される。そうすると,甲1において,HCFC-1
41bの代替物質としてHFC-245fa及びHFC-365mfcが好ましいとの記載から,
混合気体からHCFC-141bを除去し,その代替物としてHFC-245faないしHFC
-365mfcを使用した発泡剤組成物を得ることが,当業者に予測できないとした審決の判断
は,合理的な理由に基づかないものと解される。したがって,原告の上記①及び②の主張は理由
があり,…甲1に記載された混合気体から,本件訂正発明…が備える発泡剤成分事項…を,当業
者といえども容易に想到できないとした審決の判断は誤りであると判断した。
(本件審決)
甲1発明において,HCFC-141bは,HCFC-141b/HFC-245faおよび
HCFC-141b/HFC-365mfcの体積分率の比を測定することで,HFC-245
fa及びHFC-365mfcに対する放散を比較調査するために含有されたものであり,HC
FC-141bを除去すると,もはや上記比較調査ができなくなってしまう。…甲1発明は,相
違点2に係る構成に格別の技術的意義を見いだすことはできないものの,甲1発明からHCFC
-141bを除去することには,阻害事由があるというべきである。以上を踏まえ,本件審決は,
…甲1発明を主たる引用発明として,当該発明から当業者が容易に発明できたものであるという
ことはできないと結論付けた。
(検討)
第1次審決は,甲1混合気体の使用目的については特に認定していないものの,甲1文献の記
載内容に照らして,これが放散比較調査に用いるためのものであることは明らかであり,同審決
が,かかる使用目的を甲1混合気体の使用目的から積極的に排斥する趣旨であったとは認め難い。
そうすると,第1次審決取消後の新たな審判手続において,第1次取消判決が引用したのとほぼ
同じ甲1文献の記載内容から,甲1発明として,HCFC-141b,HFC-245fa及び
HFC-365mfcという3つの組成物を含む点で甲1混合気体と実質的に同一の混合物を認
定しただけでなく,第1次審決や第1次取消判決の認定と異なり,その使用目的を新たに認定し,
この使用目的に照らして,同混合物からHCFC-141bを除去することに当業者が容易に想
到し得ないと判断することは,第1次取消判決の上記認定判断に抵触するものというべきである。
(第1次取消判決の付言について)
第1次取消判決は,付言として,…別途の主張ないし認定がされた場合には,…改めて,相違
点に係る容易想到性の有無を判断した上で,結論を導く必要が生じることになる旨付言すると判
示する。この判示は,第1次審決取消後の本件審判請求事件の審理の結果,甲1文献から第1次
審決が把握したのとは全く別個の引用発明を認定した場合や,第1次審決が容易想到性の判断の
対象とした甲1混合気体と第1次訂正発明の構成との相違点(HCFC-141bを含むか否か)
とは別の新たな相違点を認定した場合等には,改めて容易想到性についての判断をして結論を導
く必要があることを述べたにすぎず,本件審決のように,第1次審決と,放散比較調査の目的の
点…を除くほかは実質的に同一の引用発明を前提に,実質的に同一の相違点に関して進歩性の有
無を判断した場合であっても,第1次取消判決の拘束力が及ばないことを意味するものではない。
[コメント]
本件のようにオゾン破壊物質であるHCFC類を全廃しHFC類への代替が進む大きな流れが
ある場合,新たな使用目的を除くほかは実質的に同一の引用発明で実質的に同一の相違点に関す
る進歩性の判断には,第1次取消判決の拘束力が及ぶと判断したことは妥当であると思われる。

平成26年(行ケ)第10068号「ポリウレタンフォームおよび発泡された熱可塑性プラスチックの製造」事件

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