IP case studies判例研究

平成26年(行ケ)第10020号「太陽電池のバックシート」事件

名称:「太陽電池のバックシート」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成26年(行ケ)第10020号、判決日:平成26年12月18日
判決:請求認容(審決取消)
特許法:29条2項
キーワード:進歩性、相違点の認定の誤り
[概要]
(1)審決は,本件発明1は、刊行物1の実施例2として記載された発明(以下「甲1発明2」
という。)及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない,と判
断した(無効審判請求棄却)。
(2)本件発明1は,次のとおり。
「太陽電池モジュールの封止剤層と反対側の水不透過性シート上に硬化性官能基含有含フッ素ポ
リマー塗料の硬化塗膜が形成されてなる太陽電池モジュールのバックシートであって,水不透過
性シートと硬化塗膜とは直接接着しており,該硬化塗膜中に白色顔料又は黒色顔料が分散してい
る太陽電池モジュールのバックシート。」
(3)審決が認定した本件発明1と甲1発明2の一致点及び相違点は,次のとおり。
一致点:「太陽電池モジュールの封止剤層と反対側の水不透過性シート上に塗膜が形成されて
なる太陽電池モジュールのバックシートであって,水不透過性シートと塗膜とは直接接触してい
る太陽電池モジュールのバックシート」である点。
相違点:「本件発明1では,塗膜が硬化性官能基含有含フッ素ポリマー塗料の硬化塗膜であり,
さらに該硬化塗膜中に白色顔料又は黒色顔料が分散しているのに対し,甲1発明2では,塗膜が
0.03μmの酸化チタン超微粒子5重量部とエチレン-ビニルアルコール共重合体液(固形分
20%溶液)95重量部とからなる点。」
[主な争点]
取消事由3:甲1発明2の認定の誤り及び相違点の認定判断の誤り
[原告の主張]
甲1発明2の塗膜はルミフロンからなる透明フッ素樹脂の樹脂組成物による塗布膜によって構
成される塗膜であるところ,ルミフロンは通常,硬化させて使用されるもので,任意に架橋剤を
添加することが記載されているものであるから,当業者は,当然に硬化塗膜として使用すること
を理解する。また、当業者であれば,甲1発明2の紫外線遮蔽層を介して形成された硬化性官能
基含有含フッ素ポリマー塗料の塗膜を,紫外線遮蔽層を省略して,水不透過性シートに直接接触
させる構成を容易に想到することができる。また、当業者であれば,甲1発明2の塗膜に白色や
黒色の顔料を添加する構成を容易に想到することができる。
[裁判所の判断]
『(1)本件発明1と甲1発明2の対比
本件発明1と甲1発明2の一致点及び相違点は以下のとおりに認定される。
ア 一致点:太陽電池モジュールの封止剤層と反対側の水不透過性シート上に塗膜が形成されて
なる太陽電池モジュールのバックシート。
イ 相違点
(相違点2-1’)
本件発明1では,塗膜が硬化性官能基含有含フッ素ポリマー塗料の硬化塗膜であるのに対し,
甲1発明2は,耐候性層(フッ素樹脂塗布液(商品名,ルミフロン,旭硝子株式会社製)の塗布
膜)である点
(相違点2-2’)
本件発明1では,水不透過性シートと硬化塗膜とが直接接着している構成であるのに対し,甲
1発明2では,水不透過性シートと耐候性層(フッ素樹脂塗布液の塗布膜)との間に紫外線遮蔽
層が存在し,その反対側にプライマー層/防汚層が積層されている点
(相違点2-3’)
本件発明1では,硬化性官能基含有含フッ素ポリマー塗料の硬化塗膜中に白色顔料又は黒色顔
料が分散しているのに対し,甲1発明2では,フッ素樹脂塗布液の塗布膜に白色顔料又は黒色顔
料が分散しているか不明である点
(2)相違点に係る構成の容易想到性について
ア 相違点2-1’について
技術説明資料及び陳述書の記載からすると、ルミフロンはOH基を有しており,このOH基は
本件発明1の「硬化性官能基」に相当すると認められるから,ルミフロンは硬化性官能基含有含
フッ素ポリマーであると認められる。また、文献には、ルミフロンを硬化(メラミン硬化)させ
ると,硬化剤なしの場合と比べて,サンシャインウェザーメーターを用いた促進耐候性試験にお
ける力学的性質(破断強度,伸び)が向上することが記載されている。以上によれば,当業者で
あれば,甲1発明2の耐候性層である「フッ素樹脂塗布液(商品名,ルミフロン,旭硝子株式会
社製)の塗布膜」を,本件発明1の硬化性官能基含有含フッ素ポリマー塗料の硬化塗膜として,
相違点2-1’に係る構成を容易に想到することができると認められる。
イ 相違点2-2’について
刊行物1の記載によれば,防汚層,紫外線遮蔽層,又は耐候性層の1層あるいはそれ以上を任
意に設けることができる旨の記載がされている一方で,これらの任意の1層を設けるに際して特
段の条件があることは記載されていない。したがって,刊行物1に接した当業者であれば,甲1
発明2において,紫外線遮蔽層,防汚層を省略し(これに伴って必然的にプライマー層も省略さ
れる),「裏面保護層」について,「膜厚800Åの酸化アルミニウムの蒸着膜・膜厚200μ
mの環状ポリオレフィン系樹脂シ-トからなる積層体」に直接接着して「耐候性層」のみを設け
ること,すなわち水不透過性シートに耐候性層を直接接着している構成を容易に想到することが
できると認められる。
ウ 相違点2-3’について
刊行物1の「太陽光の透過に影響しない範囲で任意に添加」(【0044】)との記載は,太陽電
池の素子の表側にある層として用いる場合の耐候性層に関する記載であって,太陽電池素子の裏
側にある層として用いる場合に関するものではないため、裏面保護層としての耐候性層に白色顔
料又は黒色顔料が分散している構成とすることの阻害要因にはならないものと認められる。そし
て,本件特許の出願前に頒布された特許文献によれば,太陽電池のバックシートに意匠性を付与
したり,透過した太陽光を光反射あるいは光拡散させて再利用したりするために,白色や黒色等
の顔料を添加することは,本件特許の出願当時,当業者にとって周知の事項であると認められる。
したがって,甲1発明2において,意匠性や光反射性,光拡散性を付与する等の観点から,「耐候
性膜」に任意に添加できるとされる着色剤として白色顔料又は黒色顔料を選択することは,当業
者であれば容易になし得ることである。』と判断して審決を取り消した。
[コメント]
判決では、審決について、「甲1発明2を認定する際には,紫外線遮蔽層のみならず,検討対象
となり得る耐候性層の形成材料等についても認定すべきであり,この点において,過不足のない
ように認定をしていない審決の認定は誤りであり,その結果,審決は相違点の認定判断を誤った
ものである。」と述べている。進歩性の有無の判断をする際には、容易想到性の判断の妥当性を検
討する前に、相違点の認定判断に誤りがあるか否かを十分に検討すべきである。特に、特許庁の
拒絶理由通知書には、一致点・相違点が明確に記載されていないことが多いので、まず一致点・
相違点を十分に検討する必要がある。

平成26年(行ケ)第10020号「太陽電池のバックシート」事件

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