IP case studies判例研究

平成26年(行ケ)10124号「パケット及び製品を箱詰めする方法」事件

名称:「パケット及び製品を箱詰めする方法」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 26 年(行ケ)10124 号 判決日:平成 26 年 11 月 19 日
判決:請求認容(審決取消)
特許法29条2項
キーワード:進歩性、動機付け
[概要]
原告は、発明の名称を「製品保持手段を有する改善されたパケット」とする特許第 4976547
号の特許権者である。
被告が、当該特許の請求項1~13に係る発明についての特許を無効とする無効審判(無
効 2012-800207 号)を請求し、特許庁が、当該請求項1~12に係る発明についての特許を
無効とする審決をしたことから、原告がその取消しを求めた事案。
[本件発明12(請求項12)]
製品を箱詰めする方法であって、
切取線によって区画された切離し部分を有する各々の個包装で各製品を包装し、
上記切離し部分においてシートに上記個包装製品を永久的に接着し、
上記シートを外箱内に挿入するとともに該外箱に永久的に固定し、
消費者が切離し部分を引き裂くことによって上記製品を掴んで小出しすることができるように
上記外箱の形成を完了すること、
を含む方法。
[争点]
本件発明12の進歩性判断の誤り
[特許庁の判断]
1.相違点1
本件発明12は、個包装が「切取線によって区画された切離し部分を有」し、「上記切離し部分
においてシートに上記個包装製品を永久的に接着し」、「消費者が切離し部分を引き裂くことによ
って」、上記製品を掴んで小出しすることができるのに対し、甲2発明Aは、このような構成では
ない点。
2.相違点2
省略
3.進歩性の判断(相違点1のみ抜粋)
甲1の上記技術は、片手で包装体を引っ張るだけで、包装体が切目線の部分で切り離され、包
装体を被包装物の一部が露出した状態で取り出すことができるので、被包装物が食品の場合、露
出した被包装物をそのまま口にくわえて、残りの包装体を引っ張るだけで簡単に残りの包装体が
剥離され、両手を使わなくても被包装物を喫食することができる(【0005】)という、消費者
にとって有用な作用効果を奏するものである。
そして、甲2発明Aに、甲1のこの技術を適用すると、適用後の発明は、この消費者にとって
有用な作用効果を奏することが、当業者に明らかであるから、甲2発明Aに、甲1のこの技術を
適用する動機付けは存在する。
そうすると、甲1のこの技術を、甲2発明Aに適用して、相違点1に係る本件発明12の構成
とすることは、当業者が容易に推考し得たことである。
[裁判所の判断]
1.進歩性の判断(相違点1のみ抜粋)
審決は、甲2発明Aに、甲1の技術を適用すると、適用後の発明は、甲1に記載された上記の
消費者にとって有用な作用効果を奏することが、当業者に明らかであるから、甲2発明Aに甲1
の技術を適用する動機付けは存在するとした。
しかし、これは、両発明を組み合わせることについての動機付けの判断に当たり、具体的な動
機や示唆の有無について検討することなく、単に、組合せ後の発明が消費者にとって有用な作用
効果を奏するとの理由で動機付けを肯定しているものであり、事後分析的な不適切な判断といわ
ざるを得ない。
そこで、甲2発明Aに甲1発明の技術を適用する動機付けについて検討すると、以下のとおり
である。
すなわち、両発明とも、ガムなどの製品(包装体)を箱(収納容器)に収納するパッケージ(容
器入り包装体)であり、同じ技術分野に属するものであって、製品(包装体)が取り外された後
においても箱(収納容器)内で製品(包装体)を保持することができるようにするという点で課
題(効果)を同じくする部分があるものと認められる。
しかし、甲2発明Aは、前記2(2)のとおり、消費者が製品をシート及びハウジングから掴んで
容易に取り出すことができ、かつ、多数の製品が取り外された後でも製品を保持することができ
ることを目的とし、そのために、製品とシートの間の結合(接着)は、製品をシートから容易に
取り外すことのできる「剥離可能な」結合(接着)との構成をとったものである。
これに対し、甲1発明は、容器に収納されている形態の被包装物を、片手で簡便に取り出すこ
とを可能とする容器入り包装体を提供することを目的として、包装体下方部を収納容器に永久的
に固着すること、及び包装体の適宜位置に収納容器底面と略平行な切目線を設けること、の2つ
の要件により、包装体を収納容器から取り出す際、包装体を引っ張るだけで、包装体が切目線の
部分で切り離され、包装体を被包装物の一部が露出した状態で取り出すことができるとの構成を
とったものである。
そうすると、当業者は、製品をシートから容易に取り外すことのできる「剥離可能な」結合(接
着)との構成をとった甲2発明Aにおいて、製品とシート間及びシートと箱間の「接着」を「永
久的」なものとすることによって、包装体が切目線の部分で切り離されるように構成した甲1発
明を組み合わせることはないというべきである。
よって、甲1の技術を、甲2発明Aに適用して、相違点1に係る本件発明12の構成とするこ
とは、当業者が容易に推考し得たことである、との審決の認定は誤りである。
[コメント]
特許庁の判断における動機づけは、「適用後の発明は、この消費者にとって有用な作用効果を
奏することが、当業者に明らか」という理由である。これは、適用するための動機づけとは言え
ず、適用した後の発明からその適用の動機付けを導いているものであって、進歩性を否定する論
理構成としては無理があったように思える。
また、進歩性を否定する際には、主引例と副引例との課題、作用、機能等を上位概念化し
て共通化させることで、副引例を主引例に適用できると判断されることがよくある。それに
対して、本件の裁判所の判断においては、主引例と副引例との接着方法の違い(発明の本質
の違い)により、副引例を主引例に適用できないとの判断を行った。
このように、進歩性の判断における「動機づけ」について、進歩性を肯定する主張をする
際に、参考になる判決である。

平成26年(行ケ)10124号「パケット及び製品を箱詰めする方法」事件

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