IP case studies判例研究

平成26年(行ケ)10002号「マッサージ機」事件

名称:「マッサージ機」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 26 年(行ケ)10002 号 判決日:平成 26 年 9 月 11 日
判決:請求認容(審決取消)
特許法第29条第2項
キーワード:進歩性、相違点に対する判断
[概要]
原告は、発明の名称を「マッサージ機」とする被告の特許について無効審判を請求したと
ころ、特許庁が請求不成立の審決をしたことから、その取消しを求めた。
[本件訂正発明1]
被施療者が着座可能な座部と、被施療者の上半身を支持する背凭れ部とを備える椅子型の
マッサージ機において、
前記座部の両側に夫々配設され、被施療者の腕部を保持する左腕用の保持部及び右腕用の
保持部を備え、
前記保持部は、形状維持が可能な程度に硬度が高い材料からなる外殻部と、前記外殻部の
内面に設けられ被施療者の腕部を施療する膨張及び収縮可能な空気袋と、を備え、被施療者
の掌を含む前腕を保持可能であり、
左腕用の前記保持部に設けられた空気袋と、右腕用の前記保持部に設けられた空気袋とを
夫々独立に駆動し、被施療者の腕部を片腕毎に施療することを特徴とするマッサージ機。
[本件訂正発明1と甲1発明との相違点1]
拘束手段について、本件訂正発明1は、「形状維持が可能な程度に硬度が高い材料からなる
外殻部」を備えるとともに「被施療者の掌を含む前腕を保持可能」な保持部であるのに対し、
甲1発明は、「合成繊維等で袋状に形成された非弾性カバー部材121」を備えるとともに「被
施療者の掌を含む前腕を収納可能」な収納体12である点。
[審決の判断]
「甲第1号証には、甲1発明の「合成繊維等で袋状に形成された非弾性カバー部材121」
を「形状維持が可能な程度に硬度が高い材料からなる外殻部」とすることについて、記載も
示唆もない。」
「甲第2号証~甲第4号証には、それぞれ上記1(2)~(4)に記載したとおり記載さ
れているにすぎないから、これらの証拠にも「形状維持が可能な程度に硬度が高い材料から
なる外殻部」についての記載も示唆もない。
また、甲第5号証~甲第10号証にも、上記の事項についての記載も示唆もない。」
[裁判所の判断]
「甲7公報及び甲8公報には,腕保持部の材質について明示した記載はないものの,甲7
公報の図1には,マッサージ機の底面から上方へ伸びた側壁部(【図1】では,側壁部を「肘
掛け部22」と称している。)と一体的に保持壁部24a,24bが形成されている。そして,
保持壁部24a,24bは腕保持部24を構成している。また,甲8公報の図2の腕保持部
も側壁部と一体的に形成されている。これらによれば,通常,側壁部は,椅子の基本骨格を
なす部分として,形状維持が可能な程度に硬度が高い材料から成っていると当業者は理解す
るものと解されるから,これと一体的に形成された,甲7公報の腕保持部のうちのマッサー
ジ部を構成しない外側部や甲8公報の腕保持部についても,それぞれのマッサージ機の側壁
部と同様に形状維持が可能な程度に硬度が高い材料から成っていると当業者は理解するもの
と考えられる。さらに,甲9公報の脚保持部についても,その材質について明示した記載は
ないものの,その形状が変化することを窺わせる記載は一切なく,図9において,脚保持部
は均一な厚みを持ち,互いに間隔を保った状態で図示されているから,これを見た当業者は,
脚保持部の底壁及び両側壁は,形状維持が可能な程度に硬度が高い材料から成っていると理
解するものと考えられる。」
「そこで,甲7発明及び甲8発明の甲1発明への適用可能性の点について検討するに,前
記のとおり,甲1発明の非弾性カバー部材121は,その内側に設けられた弾性カバー部材
122との間に膨縮機構11を介設し,膨縮機構11が膨張している際には変化をしない(形
状を維持する)という硬度を有するものであり,これにより,膨縮機構の空気圧をより効率
的に人体手部及び下腕部側へ与えることができ,適度な空気圧マッサージを行うことができ
るという機能を有するものと解される。したがって,膨縮機構11が膨張していないときの
非弾性カバー部材121が変形するかどうかは,手部及び下腕部を非弾性カバー部材121
の内側の膨縮機構によりマッサージするという甲1発明のマッサージ機能又は効果に関わる
ものではない。そのため,甲1公報には,非弾性カバー部材121は膨張しているときに変
化しない(形状を維持する),との記載はあるものの,膨張していないときの非弾性カバー部
材の状態を明示する記載もない。そして,甲1公報には,非弾性カバー部材121について
合成繊維等という材質の記載があるものの(段落【0024】),その具体的な材料は記載さ
れておらず,また材質をこれに限定する記載はないから,甲1公報を見た当業者は,甲1発
明の機能,用途に沿う範囲で,具体的に様々な材料を検討することになると考えられるとこ
ろ,むしろ,外殻部の内面に設けられた空気袋の膨張によってその内側に収容した下腕部に
空気圧を加えてマッサージをする椅子式マッサージ機であるという点において甲1発明と共
通する甲7発明及び甲8発明においては,その空気袋(膨縮機構)を内面に設ける外殻部は,
いずれも形状維持が可能な程度に硬度が高い材料から形成されている。さらに,甲7発明及
び甲8発明のこれらの構成に加え,甲8公報の記載(【段落0002】)によれば,凹部の内
壁に空気袋を取付け,空気袋の膨張収縮により人体の肢体をマッサージするという構成は,
甲8発明の出願時(平成11年7月30日)における従来技術であり,同従来技術における
凹部の内壁も甲8発明と同様に形状維持が可能な程度に硬度が高い材料から成っていたと理
解されること,甲9公報にも,形状維持が可能な程度に硬度が高い材料から成り,空気袋を
収納する脚保持部が開示されていることからすれば,空気袋の膨張による空気圧によりその
内側に収容した人体の肢体をマッサージする椅子式マッサージ機において,空気袋を内面に
設け,肢体を保持する外殻部を形状維持が可能な程度に硬度が高い材料とすることは,周知
技術であったといえる。
そうすると,合成繊維等で構成された外面部の非弾性カバー部材121について,形状維
持が可能な程度に硬度が高い材料とすることは甲1発明の機能や効果に関わることではなく,
甲1公報にも同材料を否定する記載はなく,むしろ非弾性カバー部材121と同様の機能を
有する甲7発明や甲8発明の構成部分についてはそのような材料が採用されており,そのよ
うな材料で肢体をマッサージするための空気袋を内面に設ける外殻部を構成することは周知
技術といえることからすれば,当業者が,甲1発明に甲7発明及び甲8発明を適用して,非
弾性カバー部材121を「形状維持が可能な程度に硬度が高い材料からなる」ものとするこ
とは容易に想到できるものというべきである。」
[コメント]
相違点の認定に誤りはないとしながらも、容易想到性の判断に誤りがあるとして、審決が
取り消された事例である。裁判所の判断では、本件訂正発明1における「保持部」の意義を
検討するとともに、それを踏まえて甲7,8号発明の甲1発明への適用可能性を検討してお
り、進歩性を検討するうえで参考になる。

平成26年(行ケ)10002号「マッサージ機」事件

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