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平成 25 年(行ケ)10310 号「付箋」事件

名称:「付箋」事件 審決取消請求事件
知的財産高等裁判所第2部:平成 25 年(行ケ)10310 号 判決日:平成 26 年 7 月 9 日
判決:請求容認(審決取消)
実用新案法第3条第1項第1号、2号
キーワード:公知性・公用性の立証方法
[概要]
原告(請求人)が請求した実用新案登録無効審判請求に対する不成立審決(維持)につい
て、被告(権利者)が製造発注した事実に基づき、公知性・公用性が認められて審決が取り
消された事例。
[公然実施が認められる要件と必要な証拠]
(※判決を理解しやすくするために、パテント 2009 Vol.62 No.3 牧山先生の記事を参考に、
以下に要約した。)
<要件>
①製品・技術等が出願前に、不特定の者が知り得る状況で実施されていた事実
②当該製品・技術等と特許発明・考案とが同一であることの証明
→書類又は現物で証明する。
→出願後に当該製品・技術等を分析して特許発明・考案と同一であることを証明する場合
には、改変されていないことの証明が必要
<公然実施の事実の立証に必要な証拠>
・ 書類の場合:商品名と販売日の記載が必要(パンフレット、購入伝票、商品カタログ、日付入り写
真等)
→改変が問題となるが、複数の書類を用いることにより心証がよくなる。
・ 検証物の場合:現物の存在と、現物が納入されたことを裏付ける記録、証言の組合せ
→製造年月日により証明。改変が行われていないことを裏付ける書類 or 証言が必要
<公然実施品と発明・考案との同一性の立証に証拠>
・ 出願前の書類・現物等による立証:(カタログ、写真入り企画書と商品仕様書等)
→公然実施品の外観、材料、特定などが記載された書類と特許発明・考案を比較
・ 公然実施品を分析して同一性を立証&公然実施品が改良されていないことの証明
→証人の証言、分析結果と特許発明・考案の対比で立証
[本件考案:請求項1] ※括弧内は筆者が記入。下線部が審決で相違点と認定
付箋紙を多数枚積み重ねて互いの重なり面が接着剤で剥離可能に接合されている付箋紙束
が複数冊に亘って積み重ねられていると共に,付箋紙束を形成している付箋紙が,個々の付
箋紙束ごとに異なる色に着色されていて,かつ,個々の上記付箋紙束において付箋紙の重な
り面同士を剥離可能に接合している上記接着剤は,互いに接合されている一方側の付箋紙の
裏面に保持されて他方側の付箋紙の表面に対して剥離可能になっていると共に,付箋紙の積
重ね層の中間部分に位置している色の付箋紙だけを剥離しても,他の付箋紙が分離してばら
ばらになることのないように,個々の上記付箋紙束が,多数枚の上記付箋紙の端縁の集まり
によって形成されている上記付箋紙束の面状の端面に剥離可能に接合された帯状の連結材に
よって連結されていることを特徴とする付箋。
[審判での原告の主張](判決文 P.3)
甲1製品(甲1の写真及び付箋仕様書で特定される製品)、甲2製品(甲2の写真及び付箋
仕様書で特定される製品)を丸石製紙へ製造を発注し、丸石製紙はこれを秘密保持契約なく
受注し、各所へ納品した。新規性無し。
[審判での原告の証拠]
甲1号証;1 頁:写真「カラー:8色アソート(各色 50 枚シート)」の記載あり
2頁:付箋仕様書「4 色天ノリ」の記載あり
甲2号証:1 頁:写真「1 パッド=50 枚、カラー:8色アソート」の記載あり
2頁:付箋仕様書「貼ってはがせる ふせん紙」「カラーパレット(ブロック)」「4 色天ノリ」
の記載あり
「品名 ニチリュウ PB 発注数 10,000 冊」の記載あり
甲3号証:納品書 控「納品書日付 2003 年 9 月 9 日、出荷日 2003 年 8 月 18 日、
商品名・規格名:ニチリュウ 15*50 カラーパレットブロック、400.00 袋 1 個」
甲4号証:特開平 11-1042 号公報
甲5号証:誓約書<丸石製紙社長、甲3号証は、甲 2 号証に係る付箋紙を製造し、
納品したときの納品書である旨>
[審決での判断]
1)甲1及び甲2考案の公知公用について(判決文 P.4~5)
・ 甲1の写真には、日付に関する記載がない。甲1の仕様書には、「15.11.14」、「1
5.5.2」との記載があるが、これが製造日等といった日付に関する記載とは認めら
れない。
・ 甲1の写真と甲1の仕様書に記載の JAN コードが一致しているが、JAN コードを変更
せずに、商品構成を変更できるので、JAN コードの同一性を根拠として、甲1及び甲2
の写真がそれぞれの仕様書に記載された仕様そのものとは必ずしも言えない。甲1仕様
書が「15年11月14日」に作成されたとしても、甲1製品がそのころに製造、販売、
納品されたとは言えない。
・ 甲3の納品書と、甲2とは、商品名及びその数量が一致していないので、甲3の納品書
は甲2の納品書と推認できない
・ 甲5の A(丸石製紙の社長)の陳述書は、証拠調べを経たものではなく、請求人の主張
の事実を推認できるには足りない。
2)甲1製品と甲2製品の構造(判決文 P.6)
・ 上記下線部について、甲1から明らかではないので、考案特定事項を具備していない。
<原告の主張>(判決文 P.7)
1)公知公用について
・ 甲1及び甲2の仕様書について、あらゆる文書において右上の角部に日付を書くのはあ
たりまえ。20から始まれば西暦、2桁であれば平成等の元号を表す。
・ 納品書控(甲3)、売上明細一覧(甲21)をみれば、甲1・2製品が平成15、16年
に販売されていたとわかる。
2)構成について
・ 審決は誤り。製品は、いずれも本件連結構成を具備する。
<被告の主張>(判決文 P.8)
1)公知公用について(判決文 P.8 前半)
・ これらは通常の日付形成に見えない。「H15。11.14」や「平成15年11月14
日」と記載するのが一般的。
・ 原告の証拠(納品書控(甲3)、売上明細一覧(甲21)、誓約書など)は、丸石製紙が
作成したもので、同社が原告を通じて本件無効審判を請求する実質的な当事者で、利害
関係を有するので証拠としての信憑性に欠ける。
2)構成について(判決文 P.8 後半)
・ 甲1-1写真に写されたものは、原告の主張によれば、平成22年11月ごろの在庫品
である。出願前に存在した付箋でない。甲2-1写真に写されたものは、誓約書によれ
ば、平成16年8月ころの在庫品とのことであるが、丸石製紙が作成した書面であるか
ら、信憑性に疑念がある。
・ 技術的効果証明書(甲16)は、おそらく甲1・甲2対象物の写真と思われるが、その
ようなものがあったとしても、その在庫品の付箋の仕様が出願前に存在した付箋と同一
の付箋の仕様であることの証明がなされていない。途中でその構造が変更された可能性
もあるので、現存する甲1・甲2対象品の構造をもって、出願前に販売されたという甲
1・甲2製品の仕様を証明することはできない。
<裁判所の判断>(判決文 P.9~)
1)甲1及び甲2対象品が本件考案1の構成を備えているか
技術的効果証明写真(甲16)及び係争付箋紙の機能説明用DVD(甲27)によれば、
本件連結構成を有しているといえる。
2)公知公用について
・ 証拠(大幅に追加、証人B)によれば、被告、丸石製紙、トップフォームほか数社が、
プロモスティックジャパンを共同で設立し、かつて、プロモスティックジャパンを介し
て付箋取引を行っていた。
・ 甲2製品の発注の事実:被告が丸石製紙に対して発注。秘密保持契約なし。
・ 甲1製品の発注の事実:被告が丸石製紙に対して依頼。秘密保持契約なし。
・ 丸石製紙は、甲1・甲2製品を製作し、納品
・ 甲1・甲2対象品は、上記製造後の平成24年ころ、丸石製紙の倉庫内に、包装プラス
チックケースに入った状態で保管された。
3)被告の主張に対し
・ 被告は、丸石製紙へ発注した事実は認めるが、具体的な製品取引は不知として、甲1・
2製品の製造発注及び時期を争う。
・ しかし,証拠(甲3,21,証人B)及び弁論の全趣旨によれば,丸石製紙は,・・・被
告の指示で,合計9600個納入したこと(以下「第1取引」という。)・・・10万7
6000個納入したこと(以下「第2取引」という。)が認められる。
・ 第1取引に係る品名は,甲2仕様書に示された「ニチリュウPB」の品名とほぼ一致し
ている。
・ 甲2仕様書の右上に記載された「15.5.2」は,第1取引の売上計上日の始期が平
成15年11月26日であることからすると,「15.5.2」は,「平成15年5月2
日」という日付を示すものと考えて矛盾がない。甲1も同様。
・ なお,審決は,・・・甲2仕様書は,製作発注の際に用いられる仕様書であり,納品書控
は,実際に商品を客先の指示する宛先に都度,納品したことを示すものであって,発注
した数量が一度に納品される場合でない限り,数量が一致しないことは何ら不自然なこ
とではなく,・・・・・・甲2仕様書の商品名欄の「ニチリュウPB」とは,甲2製品が
販売元を日本流通産業とするものであることを併せ考えると,単に,「日本流通産業のプ
ライベートブランド」を示すものにすぎず,・・・甲3に記載された「ニチリュウ 15
*50 カラーパレットプロック」との製品の同一性を優に認めることができる。
・ しかし,在庫の存在時期について,証人Bは,・・・・その旨の証言に不自然な点はなく,
在庫品の存在時期について疑いを差し挟む事情も見当たらない。
・ また,被告の主張するように,商品包装におけるJANコードを同一としたまま,中身
の商品の仕様が変更になる場合があり得ないではないとしても,証拠(甲1,2,証人
B)及び弁論の全趣旨によれば,甲1対象品の販売元は被告自身であり,・・・,甲2製
品の仕様が変更されたとはおよそ考え難い。
・ ・・・・「天ノリ」は,製本の際に,製本の連結部分の背面に糊を塗ることであると解さ
れることからすれば,「4色天ノリ」は,4色組付箋紙束ブロックの面状の端面に糊を塗
ることによって,結合していることを示すものと推認できる。・・・・本件連結構成は,・・・・
製造の当初から備わっていたものと推認される。
・ ・・・証拠(甲1,2,16,27)から窺われる色や形が酷似していることを考慮す
ると,その対象物が同一製品であったこと自体は信用できるものである。
[コメント]
権利化実務において公知公用を理由とすることが極めて少なく、大半の弁理士にとって経
験がない又は少ないと考えられ、係争段階において公知公用を理由とする場合に必要な証拠
については注意が必要である。本件について、審判段階では、証拠自体が少なく、上記[公
然実施が認められる要件と必要な証拠]に挙げる証拠が足りなかったようである。特に、人
的証拠は誓約書では足りず、証拠調べを経て証人の証言としなければならない。訴訟段階で
は、不足している証拠を補充したこと、被告の実施であるのに被告が積極的に反論しないこ
とが原告側に有利に立証形成されたのではないかと推測する。

平成 25 年(行ケ)10310 号「付箋」事件

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