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平成25年(行ケ)第10215号 「洗濯物を湿潤処理するための装置」事件

名称 : 「洗濯物を湿潤処理するための装置」事件
拒絶審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 25 年(行ケ)第 10215 号 判決日:平成 26 年 4 月 23 日
判決:請求棄却(拒絶審決維持)
特許法第29条第2項
キーワード:動機付け,容易想到性,阻害要因
[概要]
原告の主張が退けられ拒絶審決が維持された事例。
[特許請求の範囲](下線は争点:筆者付記)
洗濯をするため,トンネル式洗濯装置 ( 10 ) と,少なくとも1つの脱水装置とを備えた洗濯
物を湿潤処理するための装置において,前記トンネル式洗濯装置(10)が,前洗いゾーン ( 1
5 ) および主洗いゾーン ( 17 ) のみを備え,前記洗濯物は少なくとも1つの脱水装置にて濯が
れ,前記脱水装置は回転乾燥機 ( 18 ) として構成されていることを特徴とする装置。
[争点箇所](下線は筆者付記)
1.動機付け
引用発明1は,大量の洗濯物を一度に処理するための複数の連続するチャンバを備えた大
型業務用トンネル式洗濯装置の技術分野に属する発明であり,最適な設置数とされた洗滌ユ
ニットにより洗濯物の連続的処理を行うことで洗滌処理能力や洗滌効率を向上させることを
課題としており,一方,引用発明2は,少量の洗濯物を単一のチャンバによりすすぎ洗いと
脱水をする小型家庭用洗濯機の技術分野に属する発明であり,小規模な設備により能率的に
二浴式洗濯を行うことを課題としている。両発明は,技術分野及び課題を異にするのであ
り,・・・当業者が引用発明1の課題の解決のために引用発明2を検討の対象にすることはな
い。
2.容易想到性
引用発明1に引用発明2を適用しただけでは,引用発明1の連続洗滌装置Dの下流に引用
発明2のすすぎ洗い装置兼脱液装置が配置された構成となり,すすぎ洗いが,引用発明1の
連続洗滌装置と引用発明2のすすぎ洗い兼脱液装置とで行われるだけであり,直ちに,引用
発明1の連続洗滌装置の複数の洗滌ユニットを,前洗いのみを行う洗滌ユニットと主洗いの
みを行う洗滌ユニットだけで構成することにはならない。
3.阻害要因
複数の洗滌ユニットにより洗濯物の洗滌からすすぎまでの全工程を連続的に行う引用発明
1の連続洗滌装置の下流側に配置された脱水装置に,単一のチャンバ内で洗濯物のすすぎと
脱水をバッチ式に行う引用発明2のすすぎ洗い兼脱液装置を適用すると,バッチ式のすすぎ
洗い兼脱液装置における洗濯物のすすぎと脱水を完了した後でなければ,連続洗滌装置にて
連続的に処理された洗濯物をすすぎ洗い兼脱液装置に投入することができない。そうすると,
連続洗滌装置で連続的に処理される各洗滌ユニット当たりの洗滌処理時間よりも,バッチ式
のすすぎ洗い兼脱液装置におけるすすぎ時間と脱水時間の合計の方が長い場合,連続洗滌装
置から連続的に順次送られてくる洗濯物が,すすぎ洗い兼脱液装置の手前で滞留することに
なり,連続洗滌装置の洗滌処理能力の低下を招来することが予想される。したがって,連続
洗滌装置の下流側にバッチ式のすすぎ洗い兼脱液装置を配置することは,洗滌処理能力の向
上及び洗滌効率の向上を図ることができるとする連続洗滌処理装置の利点を損なう。
[裁判所の判断]
1.動機付け
引用発明1と引用発明2とは,事業用の洗濯装置という点で技術分野を同じくするととも
に,装置を小規模にする,装置の効率を上げるという点で課題も共通する。そして,①洗い,
②すすぎ,③脱水,④乾燥からなる洗濯工程のうち,引用発明1の装置は,複数の洗滌ユニ
ットが連結された連続洗滌装置Dが①洗いと②すすぎを,脱水機Eが③脱水を,乾燥機Fが
④乾燥とを処理する装置であるところ,引用発明2は,洗剤液の除脱,すすぎ洗い及びすす
ぎ洗い液の除脱と乾燥(②~④)が行われるすすぎ洗い兼脱液装置であることから,当業者
であれば,引用発明1に引用発明2を用いようとする動機があると認められる。
2.容易想到性
公知文献によれば,複数の洗滌ユニットで順次洗滌処理をする連続洗滌装置においては,
洗滌(洗濯)がその上流側から前洗い(予洗い),主洗い(本洗い),すすぎと領域を分けて
行われることは周知技術といえ,引用発明1の複数の洗滌ユニットを,順に,前洗いのみ,
主洗いのみ,すすぎのみを行う洗滌ユニットとして,機能を分担して構成することは,当業
者であれば適宜設定できると認められ・・・る。したがって,装置を小規模にすることや装
置の効率を上げるとの課題に従って,・・・引用発明1の連続洗滌装置の後側に適宜設定し得
るすすぎのみを行う洗滌ユニットに着目し,・・・引用発明1の連続洗滌装置に引用発明2の
すすぎ洗い兼脱液装置を適用し,この際,より機能が多く装置効率の良い引用発明2のすす
ぎ洗い兼脱液装置にすすぎを担わせ,これに伴い,引用発明1の連続洗滌装置のすすぎを行
う洗滌ユニットを廃止することは,当業者としてごく自然な創作である。そして,引用発明
2のすすぎ洗い兼脱液装置は,すすぎと脱水と内胴の回転による乾燥を行う装置として構成
されているのであるから・・・回転乾燥機といえる。
3.阻害要因
引用発明1は,洗滌処理能力を向上し洗滌物を効率的に処理する連続洗滌装置を提供する
ものであ(る)。・・・ここにいう連続的な洗滌処理とは,各洗滌ユニットが連結されて適宜
のユニットにおいて洗濯物の洗滌からすすぎ洗いまでの処理を行うことであり,その後,脱
水及び乾燥までの一連の処理が行われるものであると解されるが,当該洗濯物が,洗滌,す
すぎ洗い,脱水及び乾燥と間断なく移送されることを意味するものと解すべき根拠はない。
また,引用発明1において,洗滌,すすぎ洗い,脱水及び乾燥の各所要時間は,洗濯物や洗
滌液,各工程の必要性等に応じて適宜設定できることが明らかである。そうすると,引用発
明1において,洗滌,すすぎ洗い,脱水などの工程の終了後,洗濯物が一時的に滞留するこ
とが必ずしも排除されているわけではなく,また,引用発明2を適用した結果,洗滌の終了
後,洗濯物が一時的に滞留される事態を軽減しようと考えれば,洗滌に要する時間とすすぎ
洗い及び脱水に要する時間を適時調整すればよいことであって,当業者にとってそのような
操作は容易なことといえる。・・・したがって,引用発明1に引用発明2を適用した場合に,
洗いの工程とすすぎの工程の間に洗濯物の滞留時間が生じることがあるとしても,それゆえ
に引用発明1に引用発明2を適用することに阻害要因があるとはいえない。

平成25年(行ケ)第10215号 「洗濯物を湿潤処理するための装置」事件

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