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平成25年(行ケ)第10259号 「食品保管庫等エチレンガス除去技術」事件

名称:「食品保管庫等エチレンガス除去技術」事件 取消請求事件
知的財産高等裁判所 平成25年(行ケ)第10259号
判決日:平成26年4月24日
判決:請求認容
特許法第29条第2項
キーワード:容易想到性,技術常識,周知技術,動機付け,阻害要因
[概要]
「帯電微粒子水によるエチレンガスの除去方法及びエチレンガス除去装置」に係る本件特許発明につい
て、『引用刊行物1,引用刊行物2に記載された発明及び先行する公開公報等の記載事項等に基づいて当業
者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない』とした本件審決の判断が否認され、審決取
消の請求が認容された事例。
[特許請求の範囲](特許第5010703号)
【請求項1】
水を静電霧化して、ナノメータサイズの帯電微粒子水を生成し、この帯電微粒子水を食品収納庫内の空
気中に浮遊させて当該帯電微粒子水に含まれる活性種とエチレンガスを反応させ、二酸化炭素と水に分解
することを特徴とする帯電微粒子水によるエチレンガスの除去方法。
[取消事由]
(取消事由1)相違点1の判断の誤り
相違点1:本件特許発明1では,帯電微粒子水を食品収納庫内の空気中に浮遊させて当該帯電微粒子水
に含まれる活性種とエチレンガスを反応させ,二酸化炭素と水に分解するエチレンガスの除去方法である
のに対し,甲1発明1では,帯電微粒子水を室内の空気中に浮遊させて当該帯電微粒子水に含まれる活性
種とアセトアルデヒドを反応させて消臭する帯電微粒子水によるアセトアルデヒドの除去方法である点
(取消事由2)相違点7についての判断の誤り
(取消事由3)本件特許発明2ないし5に関する判断の誤り
(取消事由4)相違点4(本件特許発明6)についての判断の誤り
(取消事由5)相違点10についての判断の誤り
(取消事由6)本件特許発明7ないし10に関する判断の誤り
[裁判所の判断]
原告の取消事由1及び4の主張はいずれも理由があり,また,取消事由3及び6の主張の一部には理由
があるので,審決(無効2012-800192号事件)は取り消されるべきものと判断する。その理由
は,以下のとおりである。
(1)取消事由1(相違点1の判断の誤り)について
本件特許発明と引用刊行物(甲1発明1及び2)との一致点と相違点1について審決の認定を容認した
上で、副引用例として甲2~甲5公報、周知技術として甲20~甲25公報等の記載を基に、以下の点か
ら、相違点1についての審決の判断には誤りがあり,原告の取消事由1に係る主張は理由がある。甲1発
明1に甲2公報ないし甲5公報記載の技術並びに技術常識及び周知技術を適用して,本件特許発明1との
相違点に係る構成とすることは,原出願時の当業者において,容易に想到することができたものと認めら
れる。
(1-1)本件特許発明1と甲1発明1は,いずれも,活性種を用いて対象物を除去し空気を清浄する点
では共通するものである。甲2公報ないし甲5公報に記載された技術は,いずれも活性種を利用し空気等
を清浄した点では共通する。そうすると,原出願時の当業者は,いずれも共通の技術分野に属するものと
認識するものと認められる。
(1-2)「活性種を利用した空気清浄技術」という技術分野において,同一の活性種の発生方法(発生装
置)を,空気清浄機や食品収納庫やエアコンや加湿器等の異なる機器の間で転用したり,脱臭や除菌やエ
チレンガスの分解等の異なる目的の用途に利用することは,原出願時において,当業者において通常に行
われていた技術常識であると認められる。
(1-3)一般に,植物の成長促進成分として野菜や果実からエチレンガス及びアセトアルデヒドが出る
ことが知られており,このエチレンガス及びアセトアルデヒドを活性種により分解することは,原出願時
において周知の技術であるものと認められる。甲1発明1並びに甲2公報及び甲3公報に記載された技術
は,いずれも,活性種が水と結合している状態のものを利用して空気等を清浄する点で共通するものと認
められる。
(1-4)甲1発明1において,帯電微粒子水に含まれる活性種につき,アセトアルデヒドと反応させて
消臭することに代えて,エチレンガスの除去に用いること,その際,帯電微粒子水を室内の空気中に浮遊
させ,アセトアルデヒドを消臭することに代えて,帯電微粒子水を食品収納庫内の空気中に浮遊させて当
該帯電微粒子水に含まれる活性種とエチレンガスを反応させ,二酸化炭素と水に分解することは,原出願
時の当業者において容易に想到することができたものと認められる。
(1-5)被告の主張「本件特許発明及び引用発明は技術分野が共通でないと判断されたものと考えられ
るし,エチレンガスが液体状態の水に溶解しないことは原出願時の技術常識であり,液体状態の水に溶け
ないエチレンガスを除去する技術と,液体状態の水である帯電微粒子水を脱臭や除菌に用いる技術とは互
いに相容れないものであるから,甲1発明1と甲2公報等に記載の技術とを組み合わせることには阻害要
因が存在する」および「甲2ないし7,20ないし25公報等のいずれにも,静電霧化により生成した帯
電微粒子水がエチレンガスを分解できることや静電霧化により生成した帯電微粒子水を食品収納庫内の空
気に浮遊させることは記載されていないし,それを示唆する記載もないので,たとえ上記公報等の記載を
考慮しても,甲1発明1を,エチレンガスを分解するために食品収納庫へ適用する動機付けがあるとはい
えない」に対して、
甲1発明1及び前記ア認定の各技術が共通の技術分野に属すること、エチレンガスが液体状態の水に溶解
しないことが原出願時の技術常識であったとしても,食品収納庫内のエチレンガスを除去するという要請
が存在し,活性種を用いてこれを分解する技術が存在していたことに照らすと,甲1発明1を,エチレン
ガスを分解するために食品収納庫へ適用する動機付けはあるものというべきである。また、甲2公報及び
甲3公報に記載された活性種は,「活性種と水が結合したもの」として一定の機能(分解,消臭等)を有す
るものとされており,本件特許発明1及び甲1発明1の帯電微粒子と共通し,これによりエチレンガスを
分解するものであると認められることに照らすと,エチレンガスが水に溶解しにくいことが,甲1発明1
と甲2公報等に記載の技術とを組み合わせることを阻害する要因となるということはできない。
(2)取消事由3(本件特許発明2ないし5に関する判断の誤り)について
本件特許発明2及び3につき,前記(1)において認定したところと同様の理由により,甲1発明1と
の相違点についての審決の判断には誤りがある。また,本件特許発明4及び5の容易想到性に関しても,
同様の理由により,審決の判断には誤りがある。よって,原告の取消事由3に係る主張は,上記の審決の
誤りを主張する部分につき理由がある。
(3)取消事由4(相違点4についての判断の誤り)について
本件特許発明6につき,前記(1)において認定したところと同様の理由により,甲1発明2との相違
点4についての審決の判断には誤りがある。
(4)取消事由6(本件特許発明7ないし10に関する判断の誤り)について
本件特許発明7及び8につき,前記(3)において認定したところと同様の理由により,甲1発明2と
の相違点についての審決の判断には誤りがある。また,本件特許発明9及び10の容易想到性に関しても,
同様の理由により,審決の判断には誤りがある。よって,原告の取消事由6に係る主張は,上記の審決の
誤りを主張する部分につき理由がある。
[コメント]
被告の論理は、拒絶理由通知対応時において「動機づけ」および「阻害要因」を主張する典型的なパタ
ーンであり、審決はこれを認めた。本訴訟では、本願発明の本質部分となる技術(活性種を用いてエチレ
ンを分解する技術)が公知技術あるいは周知技術の組み合わせであるとして、この判断が覆された判決で
あり、参考となる事案である。

平成25年(行ケ)第10259号 「食品保管庫等エチレンガス除去技術」事件

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