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平成24年(行ケ)第10400号「筋力トレーニング方法」事件

名称:「筋力トレーニング方法」事件(審決取消請求事件)
東京高裁第3部:平成24年(行ケ)第10400号 判決日:平成25年8月28日
判決:無効審決(請求不成立)認容(請求棄却):特許維持
特許法第29条1項柱書、改正前の特許法36条5項2号,6項及び4項
キーワード:未完成発明、反復可能性、産業上利用可能性、明確性、実施可能要件
[概要]
未完成発明等についての理由を主張した無効審決(請求不成立)について、裁判所でも、
その審決が維持された。
[特許請求の範囲](請求項1):下線部は訂正事項
筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を筋肉の所定部位に巻付け,その緊締具の周の長さ
を減少させ,筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ,
もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法であって,筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に
与える負荷が,筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものである筋力トレーニング方法。
[争点]
<取消事由1>:本件発明は,特許法2条1項所定の「発明」に該当するとした判断の誤り。
<取消事由2>:本件発明の,特許法1条及び29条1項柱書所定の「産業の発達に寄与する」,
「産業上利用することができる」との要件充足性を肯定した判断の誤り。
<取消事由3>:改正前の特許法36条5項2号及び6項違反に当たらないとした判断の誤り。
<取消事由4>:新規性の有無についての判断の誤り。
<取消事由5>:進歩性の有無についての判断の誤り。
[裁判所の判断]
<取消事由1>
(1)本件発明は,推測されるべき機序及び効果が示されており,その技術内容は,当該の技術分
野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度
にまで具体的・客観的なものとして示されているといえる。また,本件発明は,緊締具の周の長
さを減少させ,筋肉に流れる血流の阻害とそれに対する生理反応を利用するものであって,生理
反応は自然法則に基くものであるから,発明全体として自然法則を利用しているというべきであ
る。
したがって,本件発明が,具体性・客観性を有しないこと,及び自然法則の利用がないことを理
由として,特許法2条1項所定の「発明」に該当しないとする原告の主張は,採用の限りでない。
(2) 原告は,本件発明は,「筋肉増強」という新たな効果の発見にすぎず,特許法2条1項の「発
明」に該当しないとも主張する。
本件発明は,前記のメカニズムにより,目的筋肉を増強できるとの着想に基づき,特許請求の
範囲の請求項1に記載した構成を採用したことによって,一定の効果を得る方法を開示するもの
であるから,単なる自然法則の発見ではない。
<取消事由2>
(1)本件発明を医療方法として用いることができることについては何ら言及されていないこと
を考慮すれば,本件発明が,「産業上利用することができる発明」(特許法29
条1項柱書)であることを否定する理由はない。
(2)本件発明が,筋力の減退を伴う各種疾病の治療方法として用いられており,被告やその関係
者が本件発明を治療方法あるいは医業類似行為にも用いることが可能であることを積極的に喧伝
していたことが認められる。しかし,本件発明が治療方法あるいは医業類似行為に用いることが
可能であったとしても,本件発明が「産業上利用することができ
る発明」(特許法29条1項柱書)であることを否定する根拠にはならない。
<取消事由3>
従来は、関節等を損傷したりするといった課題が存在したところ,本件発明は,これらの課題
を解決すべく,「目的の筋肉への血行を阻害した状態でトレーニングを行うと,大幅にトレーニン
グ効果が上がる」(【0004】)との知見に基づき,筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を
筋肉の所定部位に巻き付け,その緊締具の周の長さを減少させることにより,筋肉への血行(血
流)を阻害させる締め付け力を調整しつつ目的の筋肉部位へ施し,これによって筋肉に疲労を生
じさせその増大を図るという方法を採用したものである。そうすると,本件特許の特許請求の範
囲には,本件発明の構成に欠くことのできない事項のみが記載されているといえる。
<取消事由4、5>
本件発明は新規性、進歩性、を欠くと縷々主張するが,原告はこれらの文献を審判手続におい
て提出しておらず,これらの文献を審決取消事由として主張することは許されない。
刊行物1に記載の発明と本件発明1との間に,相違点があるとした審決の判断は相当であって,
その判断に誤りはない。
刊行物1に記載の発明の「ニューバンド『平M2m』の活用法」は,筋肉を増大させるトレー
ニング方法に関するものともいえず,この発明を,筋肉を増大させる
方法とすることは容易ではないし,刊行物1に記載の発明の用いる原理と本件発明1につき推測
されるメカニズムとの差異からみて,刊行物1に記載の発明において,前記の相違点に係る構成
を採用することが,当業者が容易になし得たとすることはできない。さらに,甲1や刊行物2,
3のいずれにも,筋肉に流れる血流を止めることなく阻害し,筋肉に疲労を生じさせ,もって筋
肉を増大させることは開示されていない。 そうすると,本件発明は,刊行物1ないし3に記載さ
れた発明に基づき当業者が容易になし得たとすることはできないのであって,審決のこの点に関
する判断は相当であって,その判断に誤りはない。
[コメント]
妥当な判断と思われる。
なお、本件特許の権利期間満了は、2013/11/22 であり、残りわずかである。
また、出願当初の請求項1は下記のとおり(物クレーム)であるが、本件特許では、「筋力
トレーニング方法」で権利取得している。
原告と被告との間に、何らかの、本件特許についての争いがあることが窺えるが、如何な
る権利主張としているのか?
請求項1(出願当初)
「筋肉の所定部位を周囲から締めつけるための締め付けループを所望径サイズに固定的に
形成するためのロック手段を備えた帯状ないし紐状の筋力トレーニング用の緊締具。」

平成24年(行ケ)第10400号「筋力トレーニング方法」事件

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