侵害差止等請求事件 » 令和3年(ネ)第10058号「遠隔監視方法および監視制御サーバ」事件

名称:「遠隔監視方法および監視制御サーバ」事件
損害賠償等請求控訴事件
知的財産高等裁判所:令和3年(ネ)第10058号 判決日:令和3年11月25日
判決:控訴棄却
特許法70条2項
キーワード:特許請求の範囲に記載された用語の意義、均等侵害、発明の本質的部分
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/714/090714_hanrei.pdf

[概要]
明細書に「携帯端末」の表示装置が非常に小さいと記載されていることなどを理由に、被控訴人の行為が、控訴人の特許権に係る特許発明の構成要件を充足していないとして、控訴人の特許権を侵害しないとされた事例。

[事件の経緯]
控訴人(原審原告)は、特許第4750927号の特許権者である。
控訴人が、被控訴人(原審被告)の行為が当該特許権を侵害すると主張して、被控訴人に対して損害賠償請求等を求めた(東京地裁令和元年(ワ)第21597号)ところ、東京地裁が、控訴人の請求を棄却する判決をしたため、控訴人は、原判決を不服として、控訴を提起した。
知財高裁は、控訴人の控訴を棄却した。

[本件発明]
【請求項1】
施設中の所定の位置に配置された監視装置からの情報を受理し、当該監視装置からの情報に基づき、所定のデータを関連する携帯端末に伝達するように構成された遠隔監視方法であって、
監視装置による異常検出によって前記監視装置により撮影された画像を受理するステップと、
前記受理された画像を監視装置と関連付けて記憶するステップと、
前記受理された画像のうち、少なくとも所定の部分をコンテンツとして形成するステップと、
前記監視装置の顧客の所持する携帯端末を特定するステップと、
前記携帯端末に通知すべきメッセージを作成するステップと、
前記通知すべきメッセージ、および、前記コンテンツを、前記携帯端末に伝達するステップと、を備え、
前記コンテンツは、初期的に受理された画像のうち、略中央部分の画像の領域から構成され、
前記コンテンツを受理した携帯端末からの遠隔操作命令であって、前記受理された画像のうち、他の領域の画像を参照することを示す命令であるパンニングを含む遠隔操作命令を受理するステップと、
前記パンニングを含む遠隔操作命令にしたがって、前記受理され或いは記憶された画像のうち、前記中央部分の画像の領域から縦横左右の何れかにずらした画像の領域を特定し、当該特定された画像の領域から構成されるコンテンツを形成するステップと、
前記特定された画像の領域から構成されるコンテンツを前記携帯端末に伝達するステップと、を備えたことを特徴とする遠隔監視方法。

[争点]
1 文言侵害の成否
2 均等侵害の成否

[控訴人の主張]
被告製品は、「固定式のモニタ」であるデスクトップ型のパソコンのみに対応した仕様とはいえず、「携帯」可能なノート型パソコンの利用も当然想定しているから、被告製品を「固定式のモニタ」に限定した原判決の判断は誤りである。本件特許出願時は既にノート型パソコンが主流となっていたから、「パソコン」を本件各発明における「携帯端末」と称しても何ら差し支えず、被告製品は、本件各発明における「携帯端末」を充足する。
被告製品が採用する「KIDSシステム」の取扱説明書には、「画像拡大表示機能」として「ズームアップして表示」、「ズームアップしている映像をこの全景映像に戻して表示」といった処理方法が明示されている。これらの処理は、カメラ画像を1枚の大きな全景画像としてデータベース化しておき、1枚の大きな画像の任意の部分を遠隔操作(指示)して拡大又は縮小することで、カメラを左右、上下、前後に機械的又は物理的に駆動(パン、チルト、ズームイン・アウト)することなく、同じような画像として表示させる「パンニング」技術を用いて初めて実現するものであり、このことは、被告製品が「パンニング」技術を用いていることを示している。したがって、被告製品は、本件各発明における「パンニング」の文言を充足する。

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
1.文言侵害の成否
『(1) 構成要件1A、1D、1E及び1Gの充足性
ア 構成要件1A、1D、1E及び1Gの「携帯端末」の意義について
(ア) 本件発明1は、①監視装置からの情報に基づきデータを関連する「携帯端末」に伝達するように構成された遠隔監視方法であり、・・・(略)・・・④前記「携帯端末」から他の領域の画像を参照するよう遠隔操作命令を受理するステップと、遠隔操作命令により縦横左右のいずれかにずらした画像の領域から構成されるコンテンツを形成するステップと、前記特定された画像の領域から構成されるコンテンツを前記「携帯端末」に伝達するステップをその発明特定事項に含むものであるところ、ここでいう「携帯端末」は、通常の用語からすると、携帯することが可能である端末であると理解することはできるが、携帯することが可能である端末は種々のものが想定されるため、その端末の種別は特許請求の範囲からは必ずしも一義的に明確に定義することはできない。
(イ) そこで、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するために、本件明細書の記載についてみると、本件明細書には、・・・(略)・・・「なお、上記コンテンツは、CCDカメラ14にて撮影されキャプチャされた画像全体ではなく、中央部の所定の範囲の画像とするのが望ましい。これは、携帯端末の表示装置は非常に小さいため、全体を表示すると、顧客により認識不可能な画像となる可能性があるからである。・・・」(【0023】)、・・・(略)・・・「…上記ステップ704、714は、特に、携帯端末28にて画像を参照しているときに有用である。或いは、パーソナルコンピュータなどにて画像を参照している場合には、上記ステップ704、714を省略して、顧客の側において画像をプリントアウトしてもよい。」(【0033】)との記載があり、【図1】には「携帯端末28」として携帯電話が描かれている。
このように、本件明細書においては、「携帯端末」は、「表示装置は非常に小さい」もの(【0007】、【0019】)であり、・・・(略)・・・「パーソナルコンピュータ」とは別の端末(【0019】、【0031】、【0033】)としてその用語が用いられている。
したがって、本件発明1の「携帯端末」は、表示装置が小さい端末であり、典型的には携帯電話端末を念頭に置いたものであり、少なくともパソコンとは別の端末であると解することができる。
・・・(略)・・・
したがって、被告製品は、構成要件1A、1D、1E及び1Gの「携帯端末」を充足するものではなく、・・・(略)・・・。』
『控訴人は、引用に係る原判決の第2の3(1)イ(ア)のとおり、本件各発明における「パンニング」とは、広角カメラの画像1枚の大きな全景画像としてサーバに送信することでデータベース化しておき、ディスプレイに表示するに際して、ユーザが指定する領域をズームアウトした拡大画像とし、あるいはズームインした全景画像として表示するものである旨主張し、当審における補充主張(前記第2の3(1)ウ(ア))でも同旨の主張をする。
しかし、本件各発明における「パンニング」とは、・・・(略)・・・ユーザが指定する領域の拡大、縮小を示す「ズームイン」及び「ズームアウト」とは異なる概念であり、本件明細書の【0029】においても、「ズームイン」及び「ズームアウト」は、「パンニング」とは別の画像領域の参照方法として記載されている。
したがって、控訴人の上記主張は理由がない。』

2.均等侵害の成否
『(2) なお、事案に鑑み、念のため、被告製品の均等論の第1要件の充足について判断する。
本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本件明細書の開示事項を総合すれば、・・・(略)・・・本件発明1の本質的部分は、①何れの場所においても顧客が携帯し得るものとして、監視装置からの異常検出によって監視装置により撮影された画像データの伝達を受ける端末を「携帯端末」とし、②「携帯端末」に伝達する画像は、略中央部分の画像領域から構成され、③携帯端末からの「パンニング」を含む遠隔操作命令を受理し、その領域の画像を携帯端末に伝達するステップを含むことにより、④表示装置が小さい携帯端末でも、顧客により十分に認識可能な画像を表示することができ、さらに、携帯端末からの遠隔操作命令により、顧客が参照したい領域を特定して携帯端末に提示することができるようにした点にあるものと認められる。・・・(略)・・・
これに対し、被告製品は、監視装置からの異常検出によって監視装置により撮影された画像データを伝達する端末は、携帯電話のような表示装置が小さい端末ではなく、また、端末からの遠隔操作命令により受理された画像のうち他の領域の画像を参照すること示す命令である「パンニング」を含む遠隔操作命令を受理し、その領域の画像を携帯端末に伝達するステップを含まないため、・・・(略)・・・本件各発明の効果を奏するものと認めることはできない。
したがって、被告製品は、本件各発明の本質的部分を備えているものと認めることはできず、被告製品の相違部分は、本件各発明の本質的部分でないということはできないから、均等論の第1要件を充足しない。』

以上のように、裁判所は、被控訴人の行為は控訴人の特許権を侵害しないと判断した。

[コメント]
本判決では、文言侵害の判断において、明細書の記載を参酌し、本件発明における「携帯端末」は表示装置が小さいものであると判断された結果、本件発明に係る「携帯端末」には「パソコン」が含まれないと判断された。さらに、いわゆる「ズームイン」・「ズームアウト」等の画像参照方法は、本件発明に係る「パンニング」とは別の方法であると判断された。
また、均等侵害の判断において、「表示装置が小さい携帯端末でも、顧客により十分に認識可能な画像を表示することができる」こと等が、本件発明の本質的部分と認定された。
その結果、被控訴人の各製品は、控訴人の特許権を侵害しないと判断された。
本判決による上記判断は妥当であると考えられる。
本判決における判断は、特許法70条2項に沿ったものであり、本判決の判断手法に特筆すべき点はないように思う。しかし、控訴人(特許権者)の主張から推察するに、本件発明は少なくともパソコンのような端末に対しても適用が可能である、と控訴人は考えていたようである。
したがって、本件の例に限らず、明細書の記載が、特許請求の範囲に記載された用語の意義及び発明の本質的部分の認定に影響することについて、改めて確認しておくことは重要であると再認識した。
以上
(担当弁理士:廣田 武士)