侵害差止等請求事件 » 令和2年(ネ)第10025号「発光装置と表示装置」事件

名称:「発光装置と表示装置」事件
特許権侵害差止等請求控訴事件
知的財産高等裁判所:令和2年(ネ)第10025号 判決日:令和2年11月18日
判決:原判決変更(一審原告の控訴)
特許法102条3項
キーワード:実施料相当額
判決文:https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/853/089853_hanrei.pdf

[概要]
 特許法102条3項の実施料相当額を算定するに当たり、特許発明に係る物(LED)の額ではなく、当該物を含む製品(テレビ)の販売額をロイヤリティベースとして、実施料率と損害額が決定された事例。

[事件の経緯]
 一審原告は、本件特許権1~3(特許第5177317号、特許第6056934号、特許第5825390号)の特許権者である。
 一審被告は、海外のメーカーが設計、製造等した液晶テレビ(一審被告製品1及び2)を輸入し、譲渡等したところ、一審被告製品には本件LED(一審被告製品1にはイ号LED、一審被告製品2にはロ号LED)が搭載されていた。
 原審は、一審原告の損害賠償請求を1795万6641円等の支払を求める限度で認容し、その余の損害賠償請求並びに差止請求及び廃棄の請求を棄却した。原判決を不服として、一審原告及び一審被告の双方が控訴を提起した。
 知財高裁は、一審原告の控訴理由を認め、原判決の損害賠償請求額を1億3200万円等に変更した。

[本件発明]
(本件特許権1)「白色系を発光する発光ダイオードであって、該発光ダイオードは、・・・(略)・・・発光スペクトルのピークが420~490nmの範囲にあるLEDチップと、・・・(略)・・・ガーネット系蛍光体とを含む、ことを特徴とする発光ダイオード。」
(本件特許権2)「リード及び樹脂部を有し、上側から見た外形が略四角形で4つの外側面を有する発光装置の製造方法であって、・・・(略)・・・工程と、を有することを特徴とする発光装置の製造方法。」
(本件特許権3)「切り欠き部を有するリードと、前記切り欠き部に埋め込まれた光反射性物質が含有される熱硬化性樹脂と、を備える樹脂パッケージを有し、・・・(略)・・・を特徴とする発光装置。」

[原審判決](筆者にて適宜抜粋)
1 本件LEDが本件発明1の技術的範囲に属するか否か(争点1)→属する
2 本件LEDの製造方法が本件発明2の技術的範囲に属するか否か(争点2)→属する
3 本件LEDが本件訂正前発明3の技術的範囲に属するか否か(争点3)→属する
4 本件発明1に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものか(争点4)→有効
5 本件発明2に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものか(争点5)→有効
6 本件訂正前発明3についての訂正の対抗主張の成否(争点7)→訂正対抗を認める
7 損害発生の有無及びその額(争点8)
『上記によれば、被告製品1及び2を通じた製品1台当たりの単価は、約3万4129円となる。
 被告製品は、いずれもデジタルハイビジョン液晶テレビであり、被告製品1及び2には、いずれも1台につき24個のイ号LED又はロ号LEDが搭載されていた。』
『液晶テレビのバックライト用途のLEDの1個当たりの平均価格は、・・・(略)・・・1個当たり9円となり、これに1台の被告製品に搭載されていた個数である24を乗じると216円となる。』
『本件において、被告製品1及び2を通じ、特許法102条3項の実施に対し受けるべき金銭の額は、被告製品1台当たり、消費税相当額を含めて、平成27年10月までの期間については、20円をもって相当であると認め、平成27年11月以降の期間については、30円をもって相当であると認める。』
『以上のとおり、本件において、原告が実施に対し受けるべき実施料として被告製品1台当たり、20円又は30円とするのが相当であるところ、これらは、それぞれ、被告製品の平均的な販売価格の0.058パーセント又は0.087パーセントである(20円÷3万4129円≒0.00058 30円÷3万4129円≒0.00087)。これらに基づき、特許法102条3項に基づく損害額は、以下のとおり、1645万6641円とするのが相当と認める。』

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
『(1)特許法102条3項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」について
 特許法102条3項は、特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定であり、同項による損害は、原則として、侵害品の売上高を基準とし、そこに、実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。
 そして、同項所定の「その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」については、技術的範囲への属否や当該特許が無効にされるべきものか否かが明らかではない段階で、被許諾者が最低保証額を支払い、当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還を求めることができないなどさまざまな契約上の制約を受けるのが通常である状況の下で事前に実施料率が決定される特許発明の実施許諾契約の場合と異なり、技術的範囲に属し当該特許が無効にされるべきものとはいえないとして特許権侵害に当たるとされた場合には、侵害者が上記のような契約上の制約を負わないことや、平成10年法律第51号による同項の改正の経緯に照らし、同項に基づく損害の算定に当たっては、必ずしも当該特許権についての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はない。特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受けるべき料率は、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきであり①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ、②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理的な実施料率を定めるべきである。』
『ア 実施料率を乗じる基礎(ロイヤルティベース)について
(ア)前記(1)で特許法102条3項について指摘した点に加え、①本件LEDは直下型バックライトに搭載されて一審被告製品に使用されていたところ、直下型バックライトは、液晶テレビである一審被告製品の内部に搭載された基幹的な部品の一つというべきであり、一審被告製品から容易に分離することが可能なものとはいえないこと、②LEDの性能は、液晶テレビの画質に大きく影響するとともに、どのようなLEDを用い、どのようにして製造するかは製造コストにも影響するものであること、③一審被告は、後記イのとおり、本件LEDの特性を活かした完成品として一審被告製品を販売していたもので、一審被告製品の販売によって収益を得ていたこと等に照らすと、一審被告製品の売上げを基礎として、特許法102条3項の実施料相当額を算定するのが相当である。
(イ)これに対し、一審被告は、本件特許1~3の貢献が、LEDチップに限定される旨を主張するが、採用することができない。また、一審被告は、LEDチップが独立して客観的な市場価値を有して流通していると主張するが、そうであるとしても、上記(ア)①~③の事情からすると、本件においてLEDの価格をロイヤリティのベースとすることは相当ではない。なお、直下型バックライトについても、独立の市場価値を有するものと認められるが、上記(ア)①~③の事情からすると、直下型バックライトの価格をロイヤリティベースとすることも相当ではない。さらに、一審被告は、最終製品を実施料算定の基礎とすると、本件LEDがより高価な最終製品に搭載されるほど実施料が高額になると主張するが、本件LEDがより高額な製品に搭載されてより高額な収入をもたらしたのであれば、その製品の売上げに対する本件LEDの貢献度に応じて実施料を請求することができるとしても不合理ではない。
『(イ)液晶テレビである一審被告製品は、本件LED以外の多数の部品から成り立っており、上記(ア)の実施料率をそのまま適用することは相当ではないが、前記(ア)cのとおり、本件発明1~3の技術は、液晶テレビのバックモニタ用の白色LEDとして、大きく活かされるものであったということができる上、一審被告製品は、映像美を一つのセールスポイントとするなどして、売れ行きは好調であった(前記(2)ウ(イ)c、d)のであるから、一審被告製品の売上げに対する本件発明1~3の技術の貢献は相当に大きいものであり、前記(2)で認定した白色LEDの価格等に係る事情を考慮しても、平成26年1月から平成28年1月までの間(ただし、本件特許3については平成27年10月23日以後、本件特許2については平成28年12月16日以後)において、一審被告製品の売上げを基礎とした場合の実施料率は、0.5%を下回るものではないと認めるのが相当である。』
『(4)一審原告が一審被告に請求し得る額の算定
 以上を踏まえると、一審原告が一審被告に請求し得る額は、次のとおりとなる。
ア 実施料相当額について、一審被告製品の総売上高は、一審被告製品1が147億1230万5518円、一審被告製品2が102億2138万1519円で、合計249億3368万7037円であり、同額に、上記(3)の実施料率0.5%を乗じると、1億2466万8435円(1円未満四捨五入)となる。
イ 弁護士費用相当額については、原告の主張額である1200万円を認めるのが相当である。
ウ したがって、一審原告は、一審被告に対し、少なくとも損害賠償として、合計1億3666万8435円を請求することができるところ、この金額は、一審原告の請求額を超えているので、消費税相当額の加算について判断するまでもなく、一審原告の損害賠償請求は、全部について理由がある。』
『第4 結論
 よって、1億3200万円及びこれに対する平成29年8月29日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める一審原告の損害賠償請求には理由があるところ、これと異なり、1795万6641円及びこれに対する同遅延損害金の限度で同請求を一部認容し、その余を棄却した原判決は、一部失当であって、一審原告の本件控訴は理由があるから、原判決を変更することとし、一審被告の控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。』

[コメント]
 原審では、特許法102条3項の実施料相当額を算定するに当たり、特許発明に係る物(LED)の額をロイヤリティベースとして、実施料率と損害額が決定されたが、控訴審では、当該物を含む製品(テレビ)の販売額をロイヤリティベースとして、実施料率と損害額が決定された。その際の判断基準として、下記の規範が示されている(この規範自体は、大合議判決(平成30年(ネ)第10063号)を踏襲するものである)。
『特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受けるべき料率は、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきであり、①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ、②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理的な実施料率を定めるべきである。』
 特許法102条3項は、「特許権者又は専用実施権者は、故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対し、その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる」旨を規定するが、これまでは原審のように、特許発明に係る物の額をロイヤリティベースとする考え方が主流であった。また、令和元年改正で、実施料相当額の算定における考慮要素を明確化するために、特許法102条4項が新設されたが、ロイヤリティベースの認定に際しての指標を規定したものではない。
 従って、本判決は、特許法102条3項の実施料相当額を算定するに当たり、特許発明に係る物の販売額がロイヤリティベースになる他に、特許発明に係る物を含む製品が請求項に記載されていなくても、その製品の販売額が、ロイヤリティベースとなり得ることを示した点で、画期的であるといえる。

以上
(担当弁理士:梶崎 弘一)