IP case studies判例研究

平成29(ネ)第10072号「人脈関係登録システム、人脈関係登録方法と装置、人脈関係登録プログラムと当該プログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体」事件

名称:「人脈関係登録システム、人脈関係登録方法と装置、人脈関係登録プログラムと当該プログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体」事件
損害賠償請求控訴事件
知財高裁:平成29(ネ)第10072号 判決日:平成30年1月25日
判決:請求棄却
特許法70条1項または2項、特許法施行規則24条の4、様式第29の2
キーワード:用語の解釈
判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/419/087419_hanrei.pdf
[概要]
「送信したとき」の「とき」を条件又は時(時間)のいずれに解釈したとしても、「送信した」という文言が用いられていることからすれば、「送信」を先に実行し、その後に「関連付け」を実行することを規定するものと解釈するのが相当であるとして、被控訴人サーバは構成要件を充足せず、よって、発明の技術的範囲に属しないとして控訴人(特許権者)の控訴が棄却された事例。
[事件の経緯]
(1)「人脈関係登録システム、人脈関係登録方法と装置、人脈関係登録プログラムと当該プログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体」とする二つの特許権(第3987097号及び第3987098号)を有する原告が、被告の提供するサービスにおいて使用されているサーバが、各特許権に抵触するとして被告に対し損害賠償請求として、実施料相当額及び弁護士費用の合計114億1140万円のうち1億円等の支払いを求めた。
(2)原審(平成28(ワ)第14868号)は、被控訴人サーバは構成要件1D、1F及び2Dを充足せず本件発明1及び2の技術的範囲に属しないとして、控訴人の請求を全部棄却したため、これを不服として控訴人が本件控訴をした。
[本件発明]
【請求項1】(紙面の都合上、一方の特許権のみを記す。)
1A:登録者の端末と通信ネットワークを介して接続し、
1B:登録者ごとに、当該登録者の識別情報と、当該登録者と人間関係を結んでいる他の登録者の識別情報とを関連付けて記憶している記憶手段と、
を備えたサーバであって、
1C:第一の登録者が第二の登録者と人間関係を結ぶことを希望している旨の第一のメッセージを第一の登録者の端末(以下、「第一の端末」という)から受信して第二の登録者の端末(以下、「第二の端末」という)に送信すると共に、第二の登録者が第一の登録者と人間関係を結ぶことに合意する旨の第二のメッセージを第二の端末から受信して第一の端末に送信する手段と、
1D:上記第二のメッセージを送信したとき、上記第一の登録者の識別情報と第二の登録者の識別情報とを関連付けて上記記憶手段に記憶する手段と、
1E:上記第二の登録者の識別情報を含む検索キーワードを上記第一の端末から受信し、この第二の登録者の識別情報と関連付けて記憶されている第二の登録者と人間関係を結んでいる登録者(以下、「第三の登録者」という)の識別情報を上記記憶手段から検索し、検索した第三の登録者の識別情報を第一の端末に送信する検索手段と、
1F:上記第一の登録者が上記第三の登録者と人間関係を結ぶことを希望している旨の第一のメッセージを上記第一の端末から受信して上記第三の登録者の端末(以下、「第三の端末」という)に送信すると共に、第三の登録者が第一の登録者と人間関係を結ぶことに合意する旨の第二のメッセージを第三の端末から受信して第一の端末に送信したとき、上記記憶手段に記憶されている上記第一の登録者の識別情報と上記第三の登録者の識別情報とを関連付ける手段と、
1G:を有してなることを特徴とする人脈関係登録サーバ。
[被告サーバ](構成要件1Dに相当する構成を示す。)
被告サーバは、第二のメッセージを受信したことを条件として「マイミク」であることを記憶し、「マイミク」である旨の記憶をしたことを条件として「第二のメッセージ」を送信する構成を有する。(つまり、第二のメッセージを送信したことを条件として「マイミク」であることを記憶するものではない。)
[争点]
(1)構成要件1D、1F及び2Dの充足性に関し、「送信したとき」の解釈の誤り
[原告の主張]
『ア「送信したとき」の解釈の誤り
(ア)原判決は、本件発明1の構成要件1D、1F及び本件発明2の構成要件2Dの「送信したとき」の「とき」は条件を示すものと解釈したが、同解釈は発明の属する技術分野や明細書の記載などを全て離れて、専ら辞書的な意味において、そのような意味にも理解できるということを述べているにすぎず、特許請求の範囲の文言解釈の手法としても結論としても明らかに誤っている。
・・・(略)・・・
(イ)以下に述べるとおり、本件各発明の属する技術分野における通常の用法や、本件明細書等1及び2における「送信したとき」という構成が持つ技術的意義に照らせば、これを原判決のように限定して理解するのは誤りであって、メッセージの送信処理と関連付けして記憶する処理との先後関係を問わず、これらが一定の幅を持った時間の中で行われていれば(「同じころ」に行われていれば)「送信したとき」に当たると解釈すべきである。すなわち、控訴人は、本件各発明の属する情報通信の分野において「送信したとき」という語がどのような意味に解釈されるのか、3名の専門家(日本大学大学院知的財産研究科教授P、動視化技術研究所代表Q、スタツィオーネ合同会社代表社員R)にそれぞれ意見を求めた
・・・(略)・・・
(ウ)なお、上記のような専門家の意見は、「とき」の解釈について「ある程度の幅を持った時間の概念を意味する」と解釈した甲11の審決の認定とも合致する。』
『イ 被控訴人サーバが「送信したとき」を充足すること
(ア)原判決は、上記のような誤ったクレーム解釈を前提として、被控訴人サーバが構成要件1D、1F及び2Dの「送信したとき」を充足しないと判断したものである。
しかし、上記のとおり、本件各発明の属する技術分野の当業者の理解に照らせば、「送信」と「記憶」のどちらの処理が先に行われても、又は、そのいずれかの処理が先に行われたことを確認した上で次の処理を行うとしても、いずれも「送信したとき」に含まれるのであり、被控訴人サーバのように先に「記憶」を行い、その後「送信」が行われるとしても「送信したとき」を充足する。』
[被告の主張]
『イ 控訴人は、原判決が示した解釈について、「専ら辞書的な解釈に終始」しているなどと論難するが、原判決は、特許請求の範囲の文言の辞書的な解釈のみならず、控訴人の主張や本件明細書等1の記載を十分考慮した上でその判断を示しているのであり、「専ら辞書的な解釈に終始」しているわけでも「限定して解釈」しているわけでもないから、失当である。
ウまた、控訴人は、専門家3名の意見書(甲15~17)という新たな証拠を提出して、原判決の「送信したとき」の理解は当業者の理解とは明らかに異なったものであると主張する。
しかし、これらの証拠はいずれも本件各発明から離れて一般的に、専ら技術的観点からサーバの構成としてあり得るか否かを論じているにすぎず、いずれの見解も特許請求の範囲の記載に基づく解釈から大きくかい離しており、本件各発明の技術的範囲を解釈する上で全く参考とならないものである。』
[裁判所の判断](筆者にて判決文から適宜抜粋)
『2 付加判断
構成要件1D、1F及び2Dの充足性に関し、必要な限度で判断を加える。
(1)「送信したとき」の解釈
・・・(略)・・・
イ よって検討するに、そもそも、特許権の効力の及ぶ範囲は特許発明の技術的範囲によって画されるものであり、特許発明の技術的範囲は、願書に添付された特許請求の範囲の記載に基づいて定められるものである(特許法70条1項)。そして、その特許請求の範囲の記載は、第三者の予測可能性や法的安定性などを確保する見地から、技術的に正確かつ簡明に記載すること、技術用語は学術用語を用いること、用語はその有する普通の意味で使用することなどが求められている(特許法施行規則24条の4、様式第29の2)。したがって、特許権の効力の及ぶ範囲の解釈は、第一義的には、特許請求の範囲の記載文言に基づいてこれを行う必要がある。
・・・(略)・・・
そして、原判決が適示する広辞苑第六版(甲9)、大辞林第三版(甲10)、用字用語新表記辞典(乙22)及び最新法令用語の基礎知識改訂版(乙23)の各記載によれば、構成要件1D及び1Fにおける「送信したとき」の「とき」は、条件を示すものと解釈するのが日本語的に素直な解釈であるというべきであり、この点に関する原判決の認定判断に誤りがあるとは認められない。
また、仮にこれが時(時間)を表す表現であると解釈したとしても、先後関係を問わない、ある程度幅をもった表現といえる「送信するとき」ではなく、あえて過去形であり動作が完了していることを表す表現である「送信したとき」という文言が用いられていることからすれば、「送信」と「関連付け」との先後関係については、やはり「送信」が「関連付け」に先行すると読むのが日本語的に素直な解釈であるというべきである。
したがって、構成要件1D及び1Fにおける「送信したとき」の「とき」を条件又は時(時間)のいずれに解釈したとしても、特許請求の範囲の記載は、「送信」を先に実行し、その後に「関連付け」を実行することを規定するものと解釈するのが相当である。
・・・(略)・・・
本件明細書等1のどこをみても、「送信したとき」という文言について、通常の用法とは異なり、「条件」ではなく「時間」を意味することや、過去形が用いられていても「送信」と「関連付け」との先後関係は一切問わないものであることをうかがわせる記載は存しない。
そうすると、本件明細書等1の記載から、構成要件1D及び1Fにおける「送信」と「関連付け」との先後関係を読み取ることはできないというべきであり、少なくとも、特許請求の範囲の記載文言について、あえて日本語としての通常の用法とは異なる解釈をすべき根拠となるような記載があると認めることはできない。』
[コメント]
明細書でしばしば「とき」を用いる。通常解釈では「条件」であると判断され、一方「時」は「時刻」を意図するものであるため注意が必要である。明細書中に限定解釈されないように「とき」および「時」について限定されないような説明を盛り込む場合もある。
本事案では、「送信したとき」の文言解釈を広げることで、被告サーバの侵害を主張したものの文言侵害は否定された。原審の訴訟理由あるいは争点整理段階において均等侵害の予備的主張をしておらず、控訴審において初めてその主張をすることは時機に遅れた攻撃防御方法に当たるとして却下されている。訴訟戦略上、文言侵害と同時に均等侵害の検討は必須である。
以上
(担当弁理士:丹野 寿典)

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