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平成28年(ワ)第13239号「冷却する装置」事件

名称:「冷却する装置」事件
特許権侵害差止請求事件
東京地方裁判所:平成28年(ワ)第13239号 判決日:平成29年8月31日
判決:請求棄却
特許法100条
キーワード:文言侵害、均等侵害
判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/055/087055_hanrei.pdf
[概要]
「冷却流体通路(17)」は、2つの壁(熱放散ブリッジと後部軸受け)が対向する部分の空間をいい、冷却流体が流れるその他の空間は含まないとして、それに基づいて、被告製品が本件特許発明の技術的範囲に属さないと判断された事例。
[事件の経緯]
原告は、特許第4392352号等の特許権者である。
原告は、被告の行為が当該特許権等を侵害すると主張して、被告の行為の差止めを求めた。
東京地裁は、原告の請求を棄却した。
[本件発明]
【請求項1】
回転電気機械であって、
1.半径方向の冷却流体排出スロット(4a)(4d)を有する後部軸受け(4)と、
2.少なくとも前記後部軸受け(4)によって支持された回転シャフト(2)上に中心が位置して固定されたロータ(1)と、
3.前記ロータ(1)を取り囲み、回転電気機械の相を構成する巻線を有するアーマチュア巻線(7)を含むステータ(3)と、
4.前記ステータ(3)相の巻線に接続された電力電子回路(15)と、
5.前記電力電子回路(15)を搭載した上面と、上面と反対側で前記後部軸受け(4)の方を向く底面を有する熱放散ブリッジ(16)と、を備えていて、前記底面は、冷却流体通路(17)の長手方向壁を形成し、冷却流体通路(17)の他方の長手方向壁は、前記ステータ(3)を支持している前記後部軸受け(4)により形成されている回転電気機械であって、
イ.前記熱放散ブリッジ(16)の底面は、前記流体通路(17)内に配置された複数個の冷却フィン(18)を有すること、
ロ.前記熱放散ブリッジ(16)は、少なくとも2個の固定スタッド(21)によって後部軸受け(4)に固定されていること、
ハ.前記熱放散ブリッジ(16)に固定された複数個の冷却フィン(18)の全ての軸方向端部は、後部軸受け(4)から所定の間隔を置いた位置にあること、を特徴とする回転電気機械。
【請求項11】
前記ロータ(3)の回転シャフト(2)と熱放散ブリッジ(16)の間に、軸方向流体通路を形成する少なくとも1つの空間が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の回転電気機械。
[争点]
・争点1:「冷却流体通路(17)」の充足性
・争点2:「前記流体通路(17)内に配置された複数個の冷却フィン(18)」の充足性(文言侵害、均等侵害)
・争点3~5については、省略
[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
1.争点1について
『・・・(略)・・・本件発明1は、冷却流体が機械の後部に横方向に導入されて、熱放散ブリッジ及びオルタネータの後部軸受け間に形成された流体流通路内を循環する装置の提供を目的とするものであるところ、その目的のために、熱放散ブリッジの後部軸受け側の面を通路の長手方向壁とし、後部軸受けを上記通路の別の長手方向壁として、冷却手段として熱放散ブリッジに固定されたフィンを上記通路内に配置する構成を採用したものである。したがって、本件発明1は、そのような冷却流体が流れる通路及びフィンの配置に技術的意義があるものであり、当該通路及びフィンが配置される部分を特定するためにフィンが配置される通路が上記の2つの長手方向壁を有するものであることを定めたと解することができる。
・・・(略)・・・2つの壁が対向する部分が当該通路17に当たることが示されており、他の部分がこれに当たることを示唆する記載は見当たらない。
これらによれば、発明の詳細な説明の記載等を見ても、「冷却流体通路(17)」は、熱放散ブリッジの後部軸受けの方を向く底面を一方の長手方向壁とし、後部軸受けを他方の長手方向壁とする空間をいい、冷却流体が流れるその他の空間は含まれないと解するのが相当であり、前記アの解釈に符合するということができる。
・・・(略)・・・上記③及び④の部分は
「後部軸受け(4)」に相当する上側ベアリング自体が露出した部分であり、かつ、構造上それらの部分において横方向の冷却流体の流れがないわけではないから、これらもいずれも「後部軸受け(4)」が「冷却流体通路(17)の他方の長手方向壁」になっているといえる。他方、上記⑤の部分は、開口部である以上、上側ベアリングの構成部材によって長手方向壁を形成しているといえず、前記⑵に照らし、「冷却流体通路(17)」といえる部分ではない。』
『 原告は、・・・(略)長手方向壁は空気の流れを横に方向付ける機能的な観点から規定したものであって通路の境界を画する趣旨でないことなどから、前記⑤の部分も「冷却流体通路(17)」に当たると主張する。
しかし、・・・(略)・・・特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の記載等を見れば、「冷却流体通路(17)」は、熱放散ブリッジの後部軸受けの方を向く底面を一方の長手方向壁とし、後部軸受けを他方の長手方向壁とする空間をいい、冷却流体が流れるその他の空間は含まず、2つの長手方向壁は機能的な意義を越えて通路の特定のための要素とみるのが相当であるから、上記原告の主張は採用することができない。』
『 被告は、・・・(略)・・・前記③及び④は被告製品の冷却のために無意味な構造であって横方向の空気が流れないことを挙げて、それぞれ「冷却流体通路(17)」に当たらないと主張する。
しかし、前記③及び④の部分について、これを前記②の部分と一体としてみればいずれも熱放散部材の底面と上側ベアリングを長手方向壁とし、これに画された部分である上、それらの部分に横方向の空気の流れがないわけではなく、被告製品の冷却のために無意味な構造であるということはできない。したがって、被告の主張は採用することができない。』
以上のように、③及び④の部分は、冷却流体通路(17)であり、⑤の部分は、冷却流体通路(17)でないと判断された。
2.争点2について
(1)文言侵害
『・・・(略)・・・「熱放散ブリッジ(16)」に相当する熱放散部材に形成され、上側ベアリングの開口部に対応した部分に配置されている。しかし、被告製品の上側ベアリングの開口部は、前記3⑷のとおり、「冷却流体通路(17)」に当たらない。したがって、被告製品の冷却フィンは構成要件1Hの「前記流体通路(17)内に配置された」を充足しない。』
以上のように、冷却フィンが、⑤の部分にあるため、「前記流体通路(17)内に配置された」を充足しない、と判断された。
(2)均等侵害
『・・・(略)・・・本件発明1は、熱放散ブリッジにフィンを設け、これに冷却空気を触れさせて電気部品の冷却を図る構成につき、熱放散ブリッジと後部軸受けの間に冷却流体通路を設けて冷却空気を循環させることとし、当該通路内に冷却フィンを設けるオルタネータ/スタータの構成とすることによって、熱放散ブリッジにスロットが設けられない場合であっても十分に熱放散ブリッジを冷却させることができる効果を生じさせることとしたというものである。このことに照らすと、冷却流体の通路及び冷却フィンの配置について上記構成を採用したことに本件発明1の意義があるということができるから、冷却フィンがどこに配置されるかを含めたその配置は、本件発明1の本質的要素に含まれると解するのが相当である。
そうすると、被告製品において冷却フィンが冷却流体通路でなく、熱放散部材の底面であって上側ベアリングの開口部と対応する部分に配置されている構成は、本件発明1と本質的部分において相違するというべきである。したがって、被告製品が本件発明1の構成と均等であるということはできない。』
『これに対し、原告は、本件発明1の本質的部分は後部軸受けと熱放散ブリッジの間に長手方向の、回転シャフトと熱放散ブリッジの間に軸方向の各冷却流体通路を備えた点にあると主張する。
しかし、上記イのとおり、本件明細書1は熱放散ブリッジにフィンを設け、これに冷却空気を触れさせて電気部品の冷却を図る構成を従来技術として明示しており、フィンによって熱放散ブリッジと冷却空気が触れる表面積を増やし、これによって冷却効果を図る構成を採用することが前提とされていること、フィンの配置は冷却効果の程度に影響すると解されることに照らすと、当該配置も本件発明1の意義に含まれるというべきである。
したがって、原告の主張は採用できない。』
以上のように、冷却フィンの配置が本件発明1の本質的要素に含まれるとして、被告製品が本件発明1の構成と均等であるということはできない、と判断された。
[コメント]
詳細には分からないが、原告(特許権者)は、本件発明の出願時の思想として、被告製品の形態を含んでいたのかもしれない。
しかしながら、特許請求の範囲や明細書に、そのような思想が開示乃至示唆されていない以上、本件発明の技術的範囲に含まれないとした、裁判所の判断は、妥当であろう。
以上
(担当弁理士:鶴亀 史泰)

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