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平成28年(ワ)第20818号「連続貝係止具とロール状連続貝係止具」事件

名称:「連続貝係止具とロール状連続貝係止具」事件
特許権侵害差止請求事件
東京地方裁判所:平成28年(ワ)第20818号 判決日:平成29年4月19日
判決:請求認容
特許法100条
キーワード:特許権侵害行為差止
判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/708/086708_hanrei.pdf
[概要]
被告製品が原告の特許権に係る本件特許発明の構成要件を全て充足するうえ、被告製品が本件特許発明の作用効果を奏しないと断ずることはできないとして、被告製品は原告の特許権を侵害するとして、差止が認められた事例。
[事件の経緯]
原告は、特許第4802252号(以下、「本件特許」)の特許権者である。
原告は、被告らの行為が当該特許権を侵害すると主張して、被告らの行為の差止め等を求めた。東京地裁は、原告の請求を認容し、被告の行為の差止めを認めた。
[本件発明]
【請求項1】(本件発明1;構成要件1A~1Hに分説)
1A:ロープと貝にあけた孔に差し込みできる細長の基材(1)と、その軸方向両端側の夫々に突設された貝止め突起(2)と、夫々の貝止め突起(2)よりも内側に貝止め突起(2)と同方向にハ字状に突設された2本のロープ止め突起(3)を備えた貝係止具(11)が基材(1)の間隔をあけて平行に多数本連結されて樹脂成型された連続貝係止具において、
1B:前記多数本の貝係止具(11)がロープ止め突起(3)を同じ向きにして多数本配列され、
1C:配列方向に隣接する貝係止具(11)のロープ止め突起(3)の先端が、他方の貝係止具(11)の基材から離れて平行に配列され、
1D:隣接する基材(1)同士はロープ止め突起(3)の外側が可撓性連結材(13)で連結されず、ロープ止め突起(3)の内側が2本の可撓性連結材(13)と一体に樹脂成型されて連結され、
1E:可撓性連結材(13)はロープ止め突起(3)よりも細く且つロール状に巻き取り可能な可撓性を備えた細紐状であり、
1F:前記2本の可撓性連結材(13)による連結箇所は、2本のロープ止め突起(3)の夫々から内側に離れた箇所であり且つ前記2本のロープ止め突起(3)間の中心よりも夫々のロープ止め突起(3)寄りの箇所として、
1G:2本の可撓性連結材(13)を切断すると、その切り残し突起(16)が2本のロープ止め突起(3)の内側に残るようにした
1H:ことを特徴とする連続貝係止具。
※請求項2(本件発明2)及び請求項3(本件発明3)は、請求項1に従属するため省略
[被告の行為]
被告各製品の製造販売。被告各製品は、写真2(係止具の連続体を3本の単位で切断した形態の一部〔中央部分〕)のとおり、ロープ止め突起は、細長の基材の両端に突設された貝止め突起よりも軸方向内側に設けられ、貝止め突起と同方向にハ字状に突設されている係止具。
写真2:(判決文から引用)
[争点](ここでは、争点1のみを紹介)
(1) 被告各製品は本件各発明の技術的範囲に属するか(争点1)
ア 被告各製品は構成要件1Dを充足するか(争点1-1)
イ 被告各製品は構成要件1Eを充足するか(争点1-2)
ウ 被告各製品は構成要件1Fを充足するか(争点1-3)
エ 被告各製品は構成要件1Gを充足するか(争点1-4)
オ 被告各製品は、本件各発明の作用効果を奏しないために、本件各発明の技術的範囲に含まれないといえるか(争点1-5)
(2) 本件各発明についての特許は特許無効審判により無効とされるべきものと認められるか(争点2)
(3) 被告各製品に対する本件特許権の行使が、前訴和解の効力により否定されるか(争点3)
[裁判所の判断]
(1) 被告各製品は構成要件1Dを充足するか(争点1-1)について
『ここで、構成要件1Dにいう「ロープ止め突起(3)」とは、構成要件1Aに係る特許請求の範囲の記載からして、細長の基材において、両端に突設された貝止め突起よりも軸方向内側に、貝止め突起と同方向にハ字状に突設された突起であることを要し、「ロープ止め突起」という語の意義からして、ロープに差し込んだ貝係止具を抜け止めすることを目的とする突起部分をいうと解される。』
『イ ・・・(略)・・・被告製品1における原告の主張に係る「ロープ止め突起」・・・(略)・・・は、細長の基材の両端に突設された貝止め突起よりも軸方向内側に設けられ、貝止め突起と同方向にハ字状に突設されていることが認められる。そして、被告製品1の「ロープ止め突起」が、ロープに差し込んだ貝係止具を抜け止めする作用を奏することは、被告らも・・・(略)・・・争うものではない。』
『ウ これに対し、被告らは、被告製品1の可撓性連結材をピンセッターで切断すると、その切り残し部分の形状は下図の符号20のようになって、この場合には同切り残し部分が第1次的にロープを抜け止めするから、被告製品1において本件各発明の「ロープ止め突起(3)」に相当するのは「可撓性連結材」であると主張する。
しかしながら、被告製品1の可撓性連結材は、(切断される前は)基材と連結されているのであるから、「貝止め突起と同方向にハ字状に突設された突起」ということはできず、本件各発明の「ロープ止め突起(3)」に当たるということはできないし、切断された可撓性連結材の切り残し部分がロープを抜け止めすることがあったとしても、そのことのみをもって被告製品1における「ロープ止め突起」が、本件各発明にいう「ロープ止め突起(3)」に当たらなくなるというものでもないから、被告らの上記主張は採用することができない。』
(2) 被告各製品は構成要件1Eを充足するか(争点1-2)について
『ここで、「細紐状」とは、「紐」という語が有する一般的な語義(物をしばったり束ねたりするのに用いる細長いもの。乙35、36)などからして、細長い形状を意味するものと解される。』
『イ 証拠(甲21)によれば、被告製品2を構成する被告製品1において、可撓性連結材の太さが0.7ミリメートルであるのに対し、ロープ止め突起の太さは0.8ミリメートルであることが認められる。また、・・・(略)・・・被告製品1の可撓性連結材は、わずかに屈曲しており、基材上部との連結点において膨出連結部を有するものの、いまだ細長い形状を有しているものと認められる。』
『ウ これに対し、被告らは、構成要件1Eの「細紐状」との限定は、本件特許の出願人がした平成21年8月10日付け手続補正書(乙7)に係る補正により加えられたものであり、同日付け意見書(乙8)は、同補正の根拠を出願時明細書等の【図8】(a)に求めているところ、・・・(略)・・・構成要件1Eの「可撓性連結材(13)は・・・細紐状であり」とは、当該連結材が、貝係止具の配列方向(基材(1))と直交する方向に直線状に沿い、基材(1)を介して長く連続していることを意味すると主張する。
しかしながら、上記意見書は、特許請求の範囲に「可撓性を備えた2本の細紐状」との発明特定事項を付加する補正に際して、「可撓性を備えた2本の細紐状」の連結材が、出願時明細書等の【図8】(a)や段落【0026】等に開示されていることを補正の根拠とする旨を説明するにとどまり、本件各発明の技術的範囲を、上記【図8】(a)に具体的に示される特定の構成そのもののみに限定する趣旨のものと解することはできないし、特許請求の範囲の記載上、連結材の形状を基材を介して長く連続することを要する旨の記載もないのであるから、被告らの上記主張は採用することができない。』
(3) 被告各製品は構成要件1Fを充足するか(争点1-3)について
『ここで、本件各発明は、前記1(3)で述べたとおり、貝係止具を一本ずつ切断するときに可撓性連結材の一部が切り残し突起となって基材に残って突出しても、貝係止具を手で持って貝へ差し込むときなどに手(指)が切り残し突起に当たらないため手が損傷したり、薄い手袋を手に嵌めて作業しても手袋が破れたりしにくいとの効果を奏するものであるところ、可撓性連結材の連結箇所がロープ止め突起から「内側」に離れた箇所とすることの技術的意義は、かかる構成を採用することにより、貝係止具を手で持って作業する際に、可撓性連結材が切断されて切り残し突起が基材上に残存していたとしても、ロープ止め突起が障壁となって手が当該切り残し突起に当たりにくくなることにあると解される。そうすると、可撓性連結材の連結箇所がロープ止め突起から「内側」に離れた箇所にあるとは、当該連結箇所が、ロープ止め突起からみて、基材の軸方向内側に位置することを意味するものと解するのが相当である。』
『 イ 被告製品2を構成する被告製品1の構成は、・・・(略)・・・、2本の可撓性連結材と基材とが連結する箇所(膨出連結部)は、ロープ止め突起からみて、基材の軸方向内側に位置しているものと認められる。また、膨出連結部が、2本のロープ止め突起の間の(基材の軸方向)中心よりもそれぞれのロープ止め突起寄りに位置していることも明らかである。』
『ウ これに対し、被告らは、可撓性連結材による連結箇所のうち、根元部(基材の上部、上記写真にいう「膨出連結部」)は、ロープ止め突起の先端を基準とすると、同先端からロープ止め突起の根元側、すなわち、外側に離れた箇所にあると主張する。
しかしながら、既にみた可撓性連結材の連結箇所がロープ止め突起から「内側」に離れた箇所とすることの技術的意義(・・・(略)・・・)からして、連結箇所がロープ止め突起の「内側」にあるかの判断に際して、殊更ロープ止め突起の「先端」を基準にする必要はないというべきであるから、被告らの上記主張は採用することができない。』
(4) 被告各製品は構成要件1Gを充足するか(争点1-4)について
『ここで、切り残し突起(16)が2本のロープ止め突起(3)の「内側」に残るようにすることの技術的意義は、上記(3)アで述べたとおり、・・・(略)・・・
イ ・・・(略)・・・被告製品1の構成は、・・・(略)・・・、2本の可撓性連結材と基材とが連結する箇所は、基材の上部・下部とも、ロープ止め突起からみて、基材の軸方向内側に位置しているものと認められる。したがって、可撓性連結材が切断されて切り残し突起が残ると、当該切り残し突起は、いずれもロープ止め突起からみて、基材の軸方向内側に位置することが明らかである。』
『ウ これに対し、被告らは、構成要件1Gの「2本の可撓性連結材(13)を切断すると、その切り残し突起(16)が2本のロープ止め突起(3)の内側に残るようにした」との限定は、本件特許の出願人がした平成23年6月27日付け手続補正書(乙18)に係る補正により加えられたものであり、同日付け意見書(乙19)は、同補正の根拠を出願時明細書等の段落【0026】及び【図8】(b)(下図)に求めているところ、上記段落【0026】及び【図8】(b)の記載を斟酌すると、①切り残し突起の左右方向の位置は、基材1の上側と下側とで同じ位置にあることを要し、また、②切り残し突起の突出長さは、ロープ止め突起の突出長さと比して短いことを要すると解すべきなどと主張する。
しかしながら、上記意見書は、特許請求の範囲に「2本の可撓性連結材(13)を切断すると、その切り残し突起(16)が2本のロープ止め突起(3)の内側に残るようにした」との発明特定事項を付加する補正に際して、可撓性連結材の切り残し突起が2本のロープ止め突起の内側に残る構成が、出願時明細書等の段落【0026】及び【図8】(a)に開示されていることを補正の根拠とする旨を説明するにとどまり、本件各発明の技術的範囲を、上記【図8】(a)に具体的に示される特定の構成そのもののみに限定する趣旨のものと解することはできないし、特許請求の範囲の記載上、切り残し突起の左右方向の位置が基材1の上側と下側とで同じ位置にあることを要するとか、切り残し突起の突出長さがロープ止め突起の突出長さと比して短いことを要する旨の記載もないから、被告らの上記主張は採用することができない。』
(5) 被告各製品は、本件各発明の作用効果を奏しないために、本件各発明の技術的範囲に含まれないといえるか(争点1-5)について
『被告らは、要するに、被告各製品は切断機械(ピンセッター)を用いて切断し、個別の貝係止具となることが想定された製品であるところ、被告各製品を切断機械で切断した場合には、可撓性連結材の切り残し突起が下図の符号20のようにロープ止め突起よりも高く突出することとなり、貝係止具をロープに差し込むなどの作業時に、当該切り残し突起が邪魔になり、また、手に当たって怪我したり作業用手袋が破れたりする可能性があるから、被告各製品は、本件特許発明の作用効果を奏しないと主張する。
しかしながら、・・・(略)・・・、被告各製品においても、可撓性連結材による基材の連結箇所を2本の各ロープ止め突起からみて軸方向内側の箇所とし、可撓性連結材を切断した際の切り残し突起も2本の各ロープ止め突起からみて軸方向内側に残るような構成となっているのであるから、貝係止具を手に持って作業する際に、ロープ止め突起が障壁となって手が当該切り残し突起に当たりにくくなるのであって、本件各発明の作用効果を奏しないということはできない。
なお、被告らの主張するとおり、被告各製品の可撓性連結材を切断した際に、その切り残し突起がロープ止め突起よりも高く突出した場合には、これが突出しない場合と比べて、切り残し突起が手に当たる可能性が高くなることが考えられるものの、そのことをもって、被告各製品が本件各発明の作用効果を奏しないと断ずることはできないというべきである。』
[コメント]
裁判所は、請求項の文言の解釈、本件特許発明の技術的意義の解釈を分かりやすく検討しており、更に被告の反論に対しても丁寧に判断している。被告は、意見書及び補正に基づき本件特許発明の技術的範囲が実施例に限定されることを主張している。しかし、補正に係る請求項の文言は実施例に限定した要件を記載しているわけではないため、被告の主張は筋が通りにくいと考えられる。裁判所の判断は、技術的範囲の解釈として妥当であると思われる。
以上
(担当弁理士:坪内 哲也)

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