IP case studies判例研究

平成25年(ワ)33070号「農産物の選別装置」および「青果物の内部品質検査用の光透過検出装置」事件

名称:「農産物の選別装置」および「青果物の内部品質検査用の光透過検出装置」事件
特許権侵害行為差止等請求事件
東京地方裁判所:平成25年(ワ)33070号  判決日:平成28年5月26日
判決:請求認容
特許法100条1項、2項、709条、102条2項、3項
キーワード:クレームの文言解釈
[概要]
クレームの文言解釈において争いがあったところ、被告の主張が認められず、被告製品の特許権侵害が認められた事例。
[事件の経緯]
原告は、特許第3702110号(「本件特許権1」という)、特許第3249628号(「本件特許権2」という)の特許権者である。
原告は、被告の行為が当該特許権を侵害すると主張して、被告の行為の差止め等を求めた。
東京地裁は、原告の請求を棄却した。
[本件特許権1、2]
(1)本件発明1(本件特許権1の請求項1に係る発明)
1A 搬送手段に連結されていない受皿と,農産物供給位置から農産物包装作業位置に渡って農産物を載せた受皿を搬送する搬送手段とを備え,
1B この搬送手段には,この受皿上の農産物を選別仕分けする情報を計測するために上記搬送手段の途中に設定された計測軌道領域,及び該計測軌道上で計測された仕分け情報に基づいて個々の受皿上の農産物を排出するように所定の仕分区分別の仕分ラインが多数分岐接続されている搬送手段下流側の仕分排出軌道領域を設定し,
1C 前記各受皿に,その上に載せられている農産物の仕分け情報を直接又は識別標識を介して間接的に読出し可能に記録し,
1D 前記仕分排出軌道領域の上流に設けた読出し手段により個々の受皿の農産物仕分け情報を読出して該当する仕分区分の仕分ラインに該受皿を排出する農産物の選別装置において,
1E 前記仕分排出軌道領域から前記仕分ラインに排出されずにオーバーフローした受皿を前記搬送手段の上流側に戻すリターンコンベアを設けると共に,このリターンコンベアにより戻した受皿を前記搬送手段に送り込む位置を,前記計測軌道領域の終端と前記仕分け情報読出し手段の間としたことを特徴とする
1F 農産物の選別装置。
(2)本件発明2-1(本件特許権2の請求項1に係る発明)
2A 搬送コンベアにより水平に搬送面上を移送され,中央部に貫通した穴を有し,その上部に青果物を載せて移送するトレーと,
2B この搬送コンベア上のトレーに載った青果物に対し複数の光源により周囲から光を照射し,照射された青果物から出る透過光を受光するように上記トレーの貫通した穴を通して該青果物の一部表面に対向する受光手段と,
2C この受光手段に上記透過光以外の外乱光が入光するのを阻止するように青果物と上記受光手段の対向位置の間に配置される遮光手段と,
2D 複数の発光光源からの照射光を上記受光手段及び遮光手段の間を除く青果物の周囲から該青果物を照射する投光手段とを備えたことを特徴とする
2E 青果物の内部品質検査用の光透過検出装置。
[被告の行為]
被告は、判決文の別紙ロ号~ヘ号物件目録記載の選果装置を製造販売している。
[争点]
⑴ 被告製品の構成要件充足性
ア 構成要件1B「所定の仕分区分別の仕分ライン」及び1D「該当する仕分区分の仕分ライン」の充足性(ロ号~ホ号物件)
イ 構成要件1E「前記計測軌道領域の終端と前記仕分け情報読出し手段の間」の充足性(ロ号~ホ号物件)
ウ 構成要件2B「トレーに載った青果物に対し……光を照射し」及び「トレーの貫通した穴を通して……対向する受光手段」の充足性(ロ号物件)
エ 構成要件2B「複数の光源」及び2D「複数の発光光源」の充足性(ロ号,ホ号及びへ号物件)
オ 構成要件2C及び2D「遮光手段」の充足性(ホ号及びへ号物件)
[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
(1)争点⑴ア(構成要件1B「所定の仕分区分別の仕分ライン」及び1D「該当する仕分区分の仕分ライン」の充足性。)
『まず,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載をみると,・・・(略)・・・「仕分け情報に基づいて……排出するように」が「所定の……仕分ライン」を修飾していることに照らすと,「仕分ライン」は農産物が載置された個々の受皿の排出先であり,農産物の仕分区分別に設けられるもので,仕分け情報に基づいて上記受皿が排出できるものであることを意味するものと解される。また,受皿の排出先を決めるに当たっては,計測軌道上で計測された仕分け情報に基づくとされるが,それ以外の情報,例えば,排出時にプールコンベアに存在する受皿に関する情報を考慮することは排除されていない。そして,一般に「所定」とは「定まっていること」(乙25)といった意味を有する用語である。そうすると,構成要件1Bの「所定の」とは,仕分け情報に基づいて上記受皿の排出先が決まるように仕分ラインが定まっていることを意味するものと解される。
また,同1Dにつき特許請求の範囲には「仕分排出軌道領域の上流に設けた読出し手段により個々の受皿の農産物仕分け情報を読出して該当する仕分区分の仕分ラインに該受皿を排出する」と記載されているところ,「該当する」は「一定の条件等に当てはまること」といった意味を有する用語である。そして,「読出し手段により……農産物仕分け情報を読出して」に引き続いて「該当する……仕分ライン」と記載されていることに照らすと,構成要件1Dにいう「該当する」とは,ある受皿の農産物仕分け情報を読み出した結果,その受皿がいずれか一つの仕分区分に当てはまることを意味するものと解される。
以上によれば,「所定の」及び「該当する」については,個々の受皿の仕分け情報を読み出した後に排出先が決定される時点でその受皿が排出されるべき仕分ラインが定まっていればよく,あらかじめ固定的に設定されていなくてもよいと解するのが相当である。
念のため本件明細書1(甲2)の発明の詳細な説明の記載を見ると,・・仕分ラインにおける仕分区分の設定をあらかじめ固定するものに限定することは上記目的に反すると考えられる一方,本件明細書1には仕分区分が仕分作業の過程で適宜変更されるものを排除する旨の記載は見当たらない。このような本件明細書1の発明の詳細な説明の記載は,上記イの解釈を裏付けるということができる。』
(2)争点⑴イ(構成要件1E「前記計測軌道領域の終端と前記仕分け情報読出し手段の間」の充足性。ロ号〜ホ号物件)
省略
(3)争点⑴ウ(構成要件2B「トレーに載った青果物に対し……光を照射し」及び「トレーの貫通した穴を通して……対向する受光手段」の充足性。ロ号物件)
『本件発明2-1の構成及び目的に照らせば,青果物は光を照射する箇所に移送されるまで及び照射後はトレーに載せて搬送コンベア上を移送する必要があるが,照射の時点ではトレーに直接載っている必要はないということができる。また,本件明細書2には,上記遮光手段の実施例として穴開き弾性シートが挙げられ,上記トレーの上部全体にこれをかぶせてその上に青果物を載せることが示されている・・そうすると,構成要件2Bの「トレーに載った青果物」は,構成要件2Aの「その上部に青果物を載せて移送するトレー」との記載を受けて,トレーと青果物の移送中の位置関係を規定したものであって,光を照射する箇所までに至るトレーの上に存在していれば足り,照射の時点において青果物の下部がトレーと接触した状態にあることは要しないものと解するのが相当である。
本件発明2-1の特許請求の範囲の記載によれば,「受光手段」は「照射された青果物から出る透過光を受光するように上記トレーの貫通した穴を通して該青果物の一部表面に対向する」とされるところ,一般に「通す」とは「こちら側からあちら側までつきぬく」,「経由する。介する」(広辞苑〔第六版〕1993頁参照)といった意味を有する用語である。また,「受光手段」自体の構成については特許請求の範囲において限定されていないが,・・。本件発明2-1は上記アの目的を実現するためにトレーに貫通する穴及び遮光手段を設け,受光手段を青果物の一部表面に対向させるという構成を採用することにしたものであり・・これにより内部品質検査に供される光は上記の穴を通過した透過光に限られることになる。そうすると,受光手段が「穴を通して該青果物の一部表面に対向する」態様は,受光手段の全体が上記の穴の下側にある場合だけでなく,その先端が上記の穴を突き抜けて対向する場合を含むものと解される。
本件明細書2において,・・・(略)・・・受光手段の先端がトレーの貫通した穴を突き抜けて対向する場合を否定していないということができる。』
(4)争点⑴エ(構成要件2B「複数の光源」及び2D「複数の発光光源」の充足性。ロ号,ホ号及びへ号物件)
『・・・(略)・・・要するに,受光部分において透過光を充分に受光できるようにすることを問題とし,単一の光源を用いる場合と比較して発明の効果を説明するにすぎず,発光光源が複数であること以上にその構成を限定する趣旨の記載とみることはできない。』
(5)争点⑴オ(構成要件2C及び2D「遮光手段」の充足性。ホ号及びへ号物件)
『本件発明2-1は,特許請求の範囲に記載されたとおり,「トレーと」,「受光手段と」,「遮光手段と」,「投光手段とを備えたことを特徴とする……光透過検出装置」であり,「トレー」は「搬送コンベアにより……移送する」もの,「遮光手段」は「この受光手段に……配置される」ものとされている。そうすると,「遮光手段」は,遮光という機能を果たすものであれば全てこれに当たるとみるのは相当でなく,トレーと別個の部材で構成されることを要する。』
[コメント]
本事案では、クレームの文言解釈が争点となっているところ、特許請求の範囲の記載が明確であることを前提として、明細書の発明の詳細な説明を参酌する従来どおりの判断を行っている。裁判所は、クレームの文言を実施形態の構成に限定した解釈を基本的にはしていない。また、本件特許権2では、審査過程において補正で追加された文言が争点となっている。実務的に、発明の詳細な説明に記載された文言をクレームにそのまま追加することが多い。一方で、そのまま使用すると当初クレームをその実施形態で特定された構成に限定解釈される可能性もあると思われるところ、本事案においては、実施形態で特定された構成(作用効果)にまで限定解釈することはしていない。なお、被告が無効審判を請求した原告特許第3249628号の一部無効審決を取り消す審決取消請求が知財高裁に提訴されている(平28(行ケ)10084。本執筆時に未決。)。
以上
(担当弁理士:丹野 寿典)

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