IP case studies判例研究

平成27年(ネ)10076号「円テーブル装置」事件

名称:「円テーブル装置」事件
特許権侵害差止請求控訴事件
知的財産高等裁判所:平成27年(ネ)10076号  判決日:平成27年11月12日
判決:控訴棄却
特許法100条1項、2項、民法709条
キーワード:文言侵害の成否、均等侵害の成否
[概要]
 本件特許発明の「第2段用テーパーカム面」には、「傾斜角度α3=0°」の場合(テーパーでないカム面)を含まないものと解されるから、被告製品は、本件特許発明の構成要件を充足せず、また、均等でもない(均等の第1及び第2要件を満たさない)として、控訴人の特許権を侵害しないと判断された事例。
[事件の経緯]
 控訴人(原審原告)は、特許第3713190号の特許権者である。
 控訴人が、被控訴人(原審被告)の行為が控訴人の特許権を侵害すると主張して、被控訴人の行為の差止め等を求めた(大阪地裁平成26年(ワ)第4号)ところ、大阪地裁が、控訴人の請求を棄却する判決をしたため、控訴人は、原判決を不服として、控訴を提起した。
 知財高裁は、控訴人の控訴を棄却した。
[本件特許発明(訂正後のもの、構成要件ごとに分説している)]
【請求項1】
A 回転軸(5)の軸方向一端にワーク取付部を備え、駆動機構により回転軸(5)を回
  転させ、クランプ機構により所定回転角度で回転軸を固定する円テーブル装置におい
  て、
B 前記駆動機構は、回転軸(5)に設けたウォームホイール(11)と該ウォームホイ
  ール(11)に噛み合うウォーム軸(12)により構成されると共に、ウォーム軸(1
  2)とウォームホイール(11)はオイルバス内に収納され、
C 前記クランプ機構は、
C1 前記ウォームホイール(11)に固着されたブレーキディスク(15)と、
C2 該ブレーキディスク(15)を軸方向の両側から解除可能に挟圧する固定側クラ
   ンプ部材(20)及び可動側クランプ部材(21)と、
C3 可動側クランプ部材(21)を軸方向の固定側クランプ部材(20)側に加圧す
   る流体圧ピストン(25)と、
C4 前記流体圧ピストン(25)を軸方向移動可能に嵌合させているシリンダ形成部
   材(31)と、
C5 該流体圧ピストン(25)と前記可動側クランプ部材(21)と前記シリンダ形
   成部材(31)との間に介在すると共に軸方向及び径方向に移動可能なボール(2
   6)とカム面(28、29、40)よりなる増力機構とを、備え、
D 前記可動側クランプ部材(21)は、リターンばね(30)により、軸方向のアンクランプ側に付勢され、
E 前記増力機構は、
E1 ボール(26)を介してシリンダ形成部材(31)のテーパー面(40)に対向
   している流体圧ピストン(25)の第1段用テーパーカム面(28)のカム作用
   による第1段増力部と、
E2 ボール(26)を介してシリンダ形成部材(31)のテーパー面(40)に対向
   している可動側クランプ部材(21)の第2段用テーパーカム面(29)のカム
   作用による第2段増力部を有することを特徴とする円テーブル装置。
[争点]
(1)文言侵害の成否〔構成要件D及びE2の充足性の有無〕
(2)均等侵害の成否
(3)及び(4)は省略
[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
1.争点(1)(文言侵害の成否)について
(1)『控訴人は、「第2段用テーパーカム面(29)」は、回転軸芯と直角な面、すなわち、同面に対する傾斜角度であるα3が0°の場合を含み、したがって、被告製品の回転軸芯に対して直角を成すクランプリング8の鋼球10との当接面が「第2段用テーパーカム面(29)」に相当するとして、被告製品は本件特許発明の構成要件E2を充足する旨主張する。
 これに対し、被控訴人は、「第2段用テーパーカム面(29)」は、回転軸芯と直角な面、すなわち、同面に対する傾斜角度であるα3が0°の場合を含まないとして、したがって、被告製品のクランプリング8の鋼球10との当接面は「第2段用テーパーカム面(29)」に相当せず、被告製品は本件特許発明の構成要件E2を充足しない旨主張する。』
(2)「テーパーカム面」の語義について
 『(略)・・・「テーパーカム面」とは、「カム面」、すなわち、ある物体において他の物体と直接接触する面であり、この面を介して、上記ある物体の運動を変換し、他の物体に運動を与えるものであって、「テーパー」、すなわち、一定の角度で傾斜したものと解するのが相当である。』
(3)第2段用テーパーカム面の傾斜角度について
 『(略)・・・「テーパー」は、一般用語及び機械用語のいずれにおいても、勾配、すなわち、一定の角度で傾斜したものを表す語として通常用いられているものであることに鑑みると、本件明細書の前記記載中、「テーパー面40」及び「テーパーカム面29」が回転軸芯と直角な面に対して成すα2、α3についての「30°以下の緩やかな傾斜角度」の記載及び「テーパーカム面28のテーパー角α1」についての「30°以下の緩やかな傾斜角」の記載のいずれについても、「30°以下」は、「0°」、すなわち、傾斜していない場合を含まない趣旨と解するのが自然である。
 (略)・・・仮に、α3=0°、すなわち、第2段用テーパーカム面(29)が回転軸芯と直角を成すものとすると、径方向の外方に向く力であるF2が、第2段用テーパーカム面(29)と完全に平行の状態になることから、F2がクランプ方向の押圧力であるF3に増力されることはあり得ず、したがって、「第2段増力部」が増力機構として機能しなくなる。
 この点に鑑みても、α3が0°の場合を含まないものと解するのが相当である。』
(4)被告製品に係る充足性について
 『(略)・・・前記(1)アのとおり、クランプリング8の鋼球10と当接する面は、回転軸芯に対して直角を成しており、したがって、回転軸芯と直角な面に対する傾斜角度が0°であるから、構成要件E2の「第2段用テーパーカム面(29)」に該当しない。ほかに、被告製品の構成中、「第2段用テーパーカム面(29)」に相当するものはない。
 以上によれば、被告製品は、本件特許発明の構成要件E2を充足しない。』
(5)控訴人の主張について
 『(略)・・・控訴人の前記主張は、第2段の増力につき、F2がシリンダ形成部材(31)のテーパー面(40)においてF3に増力され、この反作用として、テーパー面(40)からボール(26)を介して可動側クランプ部材(21)に対してF3と同等の力が生じ、したがって、前記増力については、回転軸芯と直角な面に対するテーパー面(40)の傾斜角度であるα2が問題となるとし、このような増力の仕組みを前提とするものである。
 しかしながら、特許請求の範囲にも本件明細書の発明の詳細な説明にも、控訴人が主張する増力の仕組みは記載されておらず、したがって、同仕組みは、本件明細書の記載に基づかないものといわざるを得ない。』
2.争点(2)(均等侵害の成否)について
(1)『控訴人は、仮に、本件特許発明の構成要件E2の「第2段用テーパーカム面(29)」は、「テーパー」である以上、その傾斜角度は「α3>0°」であって、「α3=0°」を含まないのに対し、被告製品の構成中、本件特許発明の「第2段用テーパーカム面(29)」に相当する面である「クランプリング8の鋼球10と当接する面」は、回転軸芯と直角、すなわち、「α3=0°」である点において本件特許発明の「第2段用テーパーカム面(29)」と相違しており、これに文言上は含まれないとしても、本件においては、均等侵害が成立する旨主張する。』
(2) 前記(2)②の要件(筆者注;第2要件、置換可能性)について
 『そして、本件特許発明は、クランプ機構を構成する増力機構につき、第1段増力部及び第2段増力部を備えたものとし、流体圧ピストン(25)から可動側クランプ部材(21)に働くクランプ方向の力を2段階にわたり増力することによって、空圧ピストンのように低い作動圧のピストンでも十分に回転軸をクランプすることができるようにして、前記課題を解決するものである。・・・(略)・・・
 ウ 第2段の増力に関し、前記2(4)ウ(ウ)のとおり、仮に、α3=0°、すなわち、第2段用テーパーカム面(29)が回転軸芯と直角を成すものとすると、径方向の外方に向く力であるF2が、第2段用テーパーカム面(29)と完全に平行の状態になることから、F2がクランプ方向の押圧力であるF3に増力されることはなく、「第2段増力部」が増力機構として機能しなくなる。
 したがって、第2段用テーパーカム面(29)が回転軸芯と直角、すなわち、傾斜角度が「α3=0°」の場合を含まないという構成を、「α3=0°」の構成に置き換えれば、2段階にわたる増力により空圧ピストンのように低い作動圧のピストンでも十分に回転軸をクランプすることができるようにするという本件特許発明と同一の目的を達することも同一の作用効果を奏することもできなくなることは、明らかというべきである。』
[コメント]
 この事件では、本件特許発明が、被告製品のような「α3=0°」となる場合を含むか否かが問題となった。本判決では、「テーパーカム面」の語義に加え、本件特許発明の「第2段増力部」が増力機構として機能しなくなることに照らし、「α3=0°」となる場合を含まないものと解釈された。
 控訴人は、本件特許発明における増力の仕組みについて、第2段の増力において問題となる角度はα3ではなくα2であるとし、「α3=0°」となる場合を含む旨の主張を行ったが、本件明細書の発明の詳細な説明などに記載されていなかったことから、本件明細書の記載に基づかないものであるとして、採用されなかった。
 装置の一部に過ぎない角度α3を0°とするか否かの違いであり、一見したところでの構成上の差異は小さいが、その僅かな相違が分水嶺となった事例である。
以上
(担当弁理士:椚田 泰司)

平成27年(ネ)10076号「円テーブル装置」事件

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