IP case studies判例研究

平成26年(ネ)10107号「預かり物の提示方法,装置およびシステム」事件

名称:「預かり物の提示方法,装置およびシステム」事件
特許権侵害行為差止等請求控訴事件
知的財産高等裁判所:平成 26 年(ネ)10107 号 判決日:平成 27 年 5 月 14 日
判決:控訴棄却
キーワード:構成要件の充足性、
[概要]
被控訴人の実施方法・装置に対し控訴人が差止め・損害賠償を求めた原審において、控訴
人の請求をいずれも棄却する旨の判決が言い渡された。
控訴人が控訴したところ、特許権の侵害は成立していない、として控訴棄却され、原審の
判断が維持された事案である。
[特許発明]
【請求項1】
クリーニング対象の品物の保管業務における顧客からの預かり物の内容をインターネットを介し
て顧客に提示する預かり物の提示方法であって、
提示者が利用する第1通信装置により、
顧客から預かるべき複数の品物又は顧客から預かった複数の品物の画像データを得て、該複数の
品物の画像データを記憶手段に記憶する第1ステップと、
顧客が直接利用するウェブブラウザ機能を備えた第2通信装置から受信するユーザ情報と前記複
数の品物の画像データに対応付けて前記記憶手段に予め記憶された認証情報とに基づいて認証を
行う第2ステップと、
前記ユーザ情報が前記認証情報と一致する場合に、前記記憶手段に記憶された前記複数の品物の
画像データの中から、前記ユーザ情報に対応するものを一覧出力形式で、品物の顧客による識別
の用に供すべく、前記第2通信装置へ送信する第3ステップと
を有し、
該第3ステップは、品物を識別した顧客の画面上における所定のクリック操作に応じて品物の選
択的な返却要求を前記第2通信装置から送信させるようになしたウェブページに、前記品物に対
応する画像データを含めて送信する
ことを特徴とする預かり物の提示方法。
[被控訴人実施方法]
・旧被告方法:H21.12.16~H25.4.29
・新被告方法:H25.4.30~
・各画像データは「検品済みアイテム」,「保管中アイテム」,「保管期限間近のアイテム」,「返却
処理済みアイテム」にそれぞれ分かれてサーバに記録されており,顧客が例えば「保管中アイテ
ム」というボタンをクリックすると,旧被告方法の場合,「保管中アイテム」についてのみ,その
全ての画像が顧客側に送信され,新被告方法では「保管中アイテム」の画像のうち1枚のみが顧
客側に送付される。
[控訴人主張]
・請求項1及び本件明細書には,画像出力を1回に限定する記載や1送信当たりの画像データ数
についての記載はない。
・請求項1に記載されていないにもかかわらず,画像出力の回数を「1回」に限定する解釈は誤
りである。
・顧客は,預かった複数の品物の全ての画像について,1回で出力する態様であろうと,複数回
に分けて出力する態様(逐次出力)であろうと,全体に一通り目を通すことができる。出力が何
回であっても,顧客は,どのような衣類を預けたかを忘れた場合を含めて,預けている衣類の全
体を正確に把握でき,・・・(中略)・・・本件特許の目的,作用効果を奏することができる。
[被控訴人主張]
・本件各発明が解決しようとする課題は,どの衣類を預けたか忘れている顧客に対して事業者が
預かっている対象物の内容を画像で視覚的に示すことによって,顧客が,預けている衣類を正確
に把握し,その中から返却を要求したい衣類を事業者に対して容易かつ的確に知らせることがで
きるようにする点にあるから,顧客に対し,1回の画像送信により預かっている衣類の全てを示
す必要がある。しかしながら,顧客が各操作をして結果的に全ての画像を閲覧できるようにする
だけでは,どの衣類を預けたか忘れた顧客が,適切に,全ての画像を送信するような操作を行う
ことを期待できない。このような方式は,顧客に対して容易かつ的確に全ての画像を示すことに
はならず,本件各発明が解決しようとする課題を解決できない。
[裁判所の判断]
・本件明細書の記載に鑑みると,送信される画像データと送信されない画像データを区別する基
準を示す文言は存在せず,「一覧出力形式」とは,ユーザ情報に対応する複数の品物の全ての画像
を(【0053】,【0055】),ウェブブラウザの同一画面において閲覧することができる形式を
いう。
・自分が行った1回の呼出操作で全ての商品の画像が同一ウェブページに表示されず,出力され
ていない画像が他に存在する構成に基づく方法では,顧客が,表示されていない品物の存在を失
念している場合には,他のカテゴリーにアクセスしたり,同一カテゴリー内にある他の画像を呼
び出したりすることは考えられないのであって,自分が預けた品物を全て正確に把握するという
上記課題を解決できない。
・1回の呼出操作で全ての商品の画像が同一ウェブページに表示されない新旧いずれの方法につ
いても,被控訴人方法がこの要件を欠くものとなる。
[コメント]
請求項1の「一覧出力形式」とは、ユーザが預けた品物の全画像の出力を指すのか、一部の画
像の出力を指すのかが問題となった。裁判所は、自分が預けた品物を全て正確に把握する、とい
う本件発明の課題を解決するためには、「一覧出力形式」とは、預けた品物の全画像データの一覧
である必要がある、と判断した。請求項の用語の意義を課題の記載から解釈した事例である。

平成26年(ネ)10107号「預かり物の提示方法,装置およびシステム」事件

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