IP case studies判例研究

平成25年(ネ)第10098号 「角度調整金具」事件

名称:「角度調整金具」事件
特許権侵害差止等請求控訴事件
知財高裁:判決日27年1月29日、平成25年(ネ)第10098号
判決:請求棄却
(前訴:平成24年(ワ)第3276号)
キーワード:分割要件違反、具体的な構成を捨象して上位概念化
[概要]
分割要件違反により出願日が原出願日まで遡及しなくなった結果、本件特許が無効理由を有す
ることとなり権利行使をすることができなくなった事案である。
[争点]
本件出願の分割要件の適法性
(問題となる要件 審査基準第Ⅴ部第1章第1節 2.2(1)(ⅱ))
(ⅱ)分割出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項が、原出願の出願当初の明
細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内であること
[控訴人と被控訴人の主張]
1.本件出願の請求項1
本件出願の請求項1は、原出願の請求項1と以下の点で異なる。
・原出願の請求項1の要件「くさび形窓部(5)」を「くさび形の空間部」と上位概念化した。
・「くさび形窓部(5)」を要件から削除し、代わりに「くさび面(8)」とした。
これにより、本件出願の請求項1は、くさび形窓部(5)を有さない実施態様をも含むことと
なる。
くさび形窓部を有さない態様が原出願明細書に記載されているかが争われている。
2.控訴人の主張
・本件明細書には,浮動くさび部材を配設することによってくさび作用を発揮させる「くさび
形の空間部」を形成するという技術的事項が開示されている。
・これに対し,実施例のくさび形窓部5を設ける態様は,製品具体化の一例にすぎず,本件明
細書に開示された技術的事項がこの具体化された製品形態に限定される理由はない。
・以上のとおり,原出願明細書には,浮動くさび部材を配設することによってくさび作用を発
揮させる「くさび形の空間部」を形成するという技術的事項が開示されているのであるから,本
件出願は,新規事項を追加するものではなく,分割要件を満たしている。
3.被控訴人の主張
・原出願の特許請求の範囲請求項1及び原出願明細書の記載(段落【0005】,【0006】,
【0011】,【0021】,【0022】,【0023】,【0025】,【0051】,図
4)からは,くさび面はくさび形窓部の外方側の面に形成されるものであることが理解され,く
さび面はくさび形窓部の外方側の面以外の位置に形成されることの説明や示唆は原出願明細書の
どこにもない。
・原判決が,控訴人が主張するように,構成要件Cについて,第1アーム側にくさび形空間部
が形成されていればよく,その具体的構成は問わない(あらゆるくさび形の空間部の形成方法が
包含される)との意義であるとすると,原出願との関係において新たな技術的事項を導入するも
のというべきであって,分割出願である本件特許発明の構成要件Cの解釈として取り得ないとこ
ろであると判断したことは正当である。
[裁判所の判断]
1.結論
本件出願は分割要件に違反するものであるから,本件特許に係る出願日は原出願の時まで遡及
せず,本件特許発明は,その出願前に頒布された刊行物である原出願公開公報に記載された発明
と同一であり,本件特許は特許法123条1項2号,29条1項3号に基づき,特許無効審判に
より無効にされるべきものであると認められるから,控訴人は,被控訴人に対し,本件特許権に
ついての専用実施権を行使することができず(同法104条の3第1項),控訴人の本訴請求は
いずれも理由がないと判断する。
2.争点
・本件特許発明は,「くさび面(8)」を第1アームのケース部にくさび形窓部を形成すること
により設けるという形態のみならず,これを第1アームとは異なる部材により形成する等の他の
形態をも含むものと解される。
・「くさび面」を「第1アームに形成されるくさび形窓部によってその外方側に形成される面」
とする構成以外の構成については,記載も示唆もない。
・浮動くさび部材の当接面が当接する「くさび面」を,第1アームのケース部にくさび形窓部を
形成しないで,異なる構成や部材により形成することで課題を解決することを理解し,かかる解
決手段の構成を想定することができたとまでは認められない。
・第1アームとは異なる部材により形成する等の他の形態をも含むものと解されるから,原出願
明細書に開示された技術的事項を上位概念化するものであって,上位概念化された上記技術的事
項が原出願明細書に実質的にも記載されているということはできない。
・以上によれば,本件出願は,原出願との関係で,特許法44条1項の「二以上の発明を包含す
る特許出願」から分割した「新たな出願」に該当しない不適法なものというべきである。
・控訴人が主張するところの「くさび形の空間部」,すなわち,浮動くさび部材を配設すること
によってくさび作用を発揮させる「くさび形の空間部」を形成するという技術的事項は,原出願
明細書に記載された技術的事項における具体的な構成を捨象して,これを上位概念化するもので
あって,このように上位概念化された技術的事項が原出願明細書に記載されているということは
できない。
[コメント]
本件特許の明細書に「くさび形窓部は第1アームに形成される形態に限らない」と一言でも記
載があれば新規事項追加にはならなかったかもしれない。本件特許の明細書には実施例が一つ開
示されているのみで他の実施例や変形例の記載が皆無である。他の実施例や変形例を充実させた
明細書が重要になると考える。

平成25年(ネ)第10098号 「角度調整金具」事件

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