IP case studies判例研究

昭和55年(ワ)61号「樹皮はぎ機における原木の作業位置調整装置」事件

名称:「樹皮はぎ機における原木の作業位置調整装置」事件
特許権侵害差止等請求事件
旭川地方裁判所:昭和 55 年(ワ)61 号 判決日:昭和 58 年 3 月 24 日
判決:請求認容
特許法70条
キーワード:均等,置換容易、置換可能、作用効果、目的同一、不完全利用
[概要]
実用新案の構成要件のうち「シリンダー機構」と「クランク機構」とは、腕杆を昇降させ
る目的と効果が同一であり、均等であるとして、侵害を認めた事例。高裁および最高裁でも
結論は維持された。
[実用新案登録請求の範囲]
A:軸方向に平行して設けた二つの受輪を原木が支持できる間隔で一対設け、前記それぞれ
の受輪によって形成される谷部に原木を支持して皮はぎ作業を行うようにした皮はぎ機にお
いて、
B:原木の長手方向に直交する方向に複数の腕杆を設け、前記腕杆の一端を機台に固定した
軸受板に軸着し、対向する腕杆を連結した連結杆に設けたクランク板と機台に設けたシリン
ダーのピストンロッドとを連結し、
C:前記それぞれの腕杆に前記原木の長手方向に直行する方向に調整輪を設置し、かつ前記
調整輪は中央部分が小径で側面鼓型を呈し、さらに回転駆動装置を接続したことを特徴とす
る皮はぎ機における原木の作業位置調整装置。
[イ号の構成]
B’:対向する腕杆を連結した連結杆があり、腕杆に軸着したリンクと機台に設けたクランク
軸のクランク板を連結している。
[原告の主張]
ピストン運動とクランク機構の相違に関して、いずれも日本では明治初期には公知になっ
ており、これらの機構の作用効果は同一である。
不完全利用論(吉藤・特許法概説第五版参照)に基づく特殊な均等を主張。
[裁判所の判断]
(不完全利用論に対して)
不完全利用は、同一の技術的思想に基づきながら、請求の範囲のうちの1つで比較的重要
度の低いものを省略し、または技術的効果が劣ることが明らかな他のものと置換することを
要件とする。両者を比較しても、構成上何らの省略も認められず、Bのシリンダー機構がB’
のクランク機構に置換されているが、クランク機構の方が技術的効果が劣ることが明らかで
あるとは言えない。従って、B’はBの不完全利用ではない。
(BとB’は均等か)
Bのシリンダー機構とB’のクランク機構は、腕杆を昇降させる目的は同一である。いずれ
も往復運動するという作用効果において同一であり、腕杆を昇降させる目的も同一と考えら
れる。
クランク機構は、直線運動をもたらす機構として公知の技術であることは明らかであり、こ
れをシリンダー機構に置換することは本件実用新案の出願時における当業者であれば容易に
想到しうる。
(被告の主張に対して)
請求の範囲の文言のみに拘泥するときは、実質的権利侵害の横行を防止することができな
い。よって、記載文言をとおして出願人が意図した意味そのもの、すなわち文言の意味する
真の意味を探求して補充的に解釈することは許される。
① 請求の範囲にシリンダーと記載されている以上、これを駆動機構という上位概念に置き換
えることはできない。
→上位概念に置き換えることを意味するのではなく、補充的解釈を行うことによるもの。
② 電動モータによる腕杆の回動技術とシリンダーとは技術的原理を基本的に異にする。機構
に基づく作用効果も相違して、均等手段とは言えない。
→シリンダーと対比すべきは電動モータではなくクランク機構である。両者は均等である。
③ 電動モータによるクランク機構を含む意図があったのであれば、例えば駆動装置という用
語による表現ができたはずである。しかしあえてシリンダーのピストンロッドと特定して
いる。
→他の手段を意識的に請求の範囲から除外したとは認められない。
腕杆への力の伝達機構の差について→設計上の微差にすぎず、構成要件に差異をもたらすも
のではない。
BのシリンダーとB’の電動モータが動力源として対比して均等か否かを検討せざるを得な
い。→シリンダーは動力伝達機構であって動力源ではないから、両者を対比することは適当
ではない。シリンダーとの対比はクランク機構とすべきものである。

昭和55年(ワ)61号「樹皮はぎ機における原木の作業位置調整装置」事件

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