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平成25年(ネ)第10100号 「特許を受ける権利確認等請求控訴」事件

名称:特許を受ける権利確認等請求控訴事件
知的財産高等裁判所第3部:平成25年(ネ)第10100号
判決日:平成27年3月25日
判決:請求一部認容
特許法第29条1項柱書
キーワード:共同発明者性
[概要]
被控訴人が単独で特許出願を行った発明について、発明の特徴的部分の認定、経緯を詳細に検
討した結果、控訴人の研究者が共同発明者であると判断された事例。
[本件基礎出願発明8]
前記結晶合成工程(1)において、リン酸カルシウム結晶にビニル基を導入し、そして、前記
傾斜架橋工程(5)における架橋が、放射線照射架橋であって、多孔体への放射線照射量を変化
させることにより、生体吸収性が1.5倍以上異なる第1の断片及び第2の断片を切り出すこと
のできる多孔質複合体を作製する、請求項6に記載の多孔質複合体の製造方法。
[争点]
本件基礎出願発明8及び9の特徴的部分は何か(争点1)
本件基礎出願発明8及び9の特徴的部分の創作に対するAの関与の有無及び内容(争点2)
Aは本件基礎出願発明8及び9の共同発明者といえるか(争点3)
[裁判所の判断](筆者にて適宜要約、適宜下線)
1 争点1(本件基礎出願発明8及び9の特徴的部分は何か)について
・・・以上によると、本件基礎出願発明8及び9の特徴的部分は、上記(ウ)の課題、すなわ
ち、骨置換の誘導能と、荷重のかかる部位に使用することができる優れた機械的特性を有するリ
ン酸カルシウム/コラーゲン線維複合体の製造方法を提供するという課題を解決する手段に求め
られるというべきである。
・・・本件基礎出願明細書には、ビニル基導入・放射線照射によって、荷重のかかる部位に使用
することができる優れた機械的特性を有するリン酸カルシウム/コラーゲン線維複合体が得られ
たことが記載されているものと認めることができる。
他方、証拠(甲2)を検討してみても、本件基礎出願明細書には、ビニル基導入・放射線照射
によることなく、傾斜架橋のみで、荷重のかかる部位に使用することのできる優れた機械的性質
を有するリン酸カルシウム/コラーゲン線維複合体が得られたことを示す記載はない。
そうすると、本件基礎出願発明8及び9の課題を解決した手段は、従来から周知の人工骨用素
材である、リン酸カルシウム/コラーゲン複合体に、ビニル基を導入し、放射線を照射したこと、
すなわち、ビニル基導入・放射線照射であり、傾斜架橋は、同発明の課題解決手段とは認められ
ない。
2 争点2(本件基礎出願発明8及び9の特徴的部分の創作に対するAの関与の有無及び内容)
について
・・・これらの事実に照らしてみれば、本件着想はAによるものであり、その具体化に当たって
も、Aは、Cと共に、Sに対し、個別、具体的に指導をし、作業や実験に当たらせていたもので
あり、その結果、遅くとも平成23年2月初めころまでには、本件基礎出願発明8及び9の特徴
的部分が具体的・客観的なものとして構成され、完成に至ったものと認められる。
3 争点3(Aは本件基礎出願発明8及び9の共同発明者といえるか)について
(1) 共同発明者の認定について
・・・発明者とは、当該発明における技術的思想の創作に現実に関与した者、すなわち当該発
明の特徴的部分を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成する創作活動
に関与した者を指すものと解される。
そうすると、共同発明者と認められるためには、自らが共同発明者であると主張する者が、当
該発明の特徴的部分を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成する創作
活動の過程において、他の共同発明者と一体的・連続的な協力関係の下に、重要な貢献をしたと
いえることを要するものというべきである。
・・・本件基礎出願発明8及び9の特徴的部分であるビニル基導入・放射線照射は、遅くとも平
成23年2月初めころまでには、本件共同研究の成果として、これを当業者が実施できる程度に
まで具体的・客観的なものとして構成され完成に至ったものと認められるところ、Aは、ビニル
基導入・放射線照射の着想をしただけでなく、これを当業者が実施できる程度にまで具体的・客
観的なものとして構成するための創作活動の過程において、CやSと共に、一体的・連続的な協
力関係の下に、共同研究者として、重要な貢献をしたものということができる。
したがって、Aは、本件基礎出願発明8及び9の共同発明者であると認めるのが相当である。
(2) 被控訴人の主張について
ア 創作的価値に係る主張について
被控訴人は、ビニル基導入・放射線照射は、創作的価値がないから、ビニル基導入・放射線照
射について、特許法2条1項の「創作」をした者を観念することはできないと主張する(前記第
3の3(2)ア、イ)。
・・・ここでいう「創作」とは、客観的な創作的価値の有無にかかわらず、発明者が、発明時
において、主観的に新しいと認識したものであれば足りる。客観的な創作的価値の有無について
は、特許法29条において、いわゆる新規性及び進歩性の問題として、特許出願時を基準として
検討されるべき事柄であり、共同発明者性の認定に影響を及ぼすものではない。
エ 二段階説に基づく主張その2(着想の公知性)について
被控訴人は、本件着想は本件コラーゲン会議において公知となり、また、その実現手段は、本
件着想とともに本件卒論発表で公知となったものであって、本件基礎出願(平成23年7月4日)
当時、本件着想及びその実現手段のいずれも公知となっていたから、本件着想の提案者が、本件
基礎出願発明8及び9の共同発明者となることはないと主張する(前記第3の3(2)オ)。
・・・提供した着想が新規な場合、その後、その着想が具体化される前に公知となったとしても、
その着想をもとに、着想者と一体的・連続的な協力関係にある者がこれを具体化して発明を完成
した場合において、当該着想者が同発明の共同発明者でなくなる理由はないというべきである。
本件において、本件着想がAによるものであり、本件着想の具体化に当たっても、AがCと共
にSを指導し作業や実験に当たらせており、その結果、本件基礎出願発明8及び9の特徴的部分
が具体的、客観的なものとして構成され完成に至ったものであることは、前記2(2)において
認定したとおりである。
したがって、Aが本件着想を得た後、仮に、同着想が具体化される前に、ビニル基導入・放射
線照射が公知になったとしても、そのことは、本件基礎出願発明8及び9の共同発明者の認定に
影響を及ぼすものではなく、Aが共同発明者ではないとする理由にはならないというべきである。
・・・また、本件基礎出願発明8及び9の特徴的部分の完成後に、本件着想及びその実現手段
が公知になったとしても、これが、同発明の共同発明者の認定に影響を及ぼすものでもない。
[コメント]
共同発明者性の判断を事実認定に基づき詳細に行われた事例として参考になる。Aが具体的に
貢献した発明に係る請求項に限定して確認請求をしたため、原審と判断が変わったと考えられる。

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