侵害差止等請求事件 » 平成22年(ネ)10076号「チュッパ チャプス」事件 商標権侵害差止等請求控訴事件

名称:「チュッパ チャプス」事件
商標権侵害差止等請求控訴事件
知的財産高等裁判所:平成 22 年(ネ)10076 号 判決日:平成 24 年 2 月 14 日
判決:控訴棄却
商標法2条3項,25条,37条,36条1項
キーワード:商標の使用,商標権侵害

[概要]
一審原告である控訴人が,一審被告である被控訴人に対し,一審被告の運営するインター
ネットショッピングモール(楽天市場)において,本件商品1~6を展示又は販売すること
は,一審原告の上記商標権を侵害又は一審原告の商品を表示するものとして周知又は著名な
「チュッパ チャプス」,「Chupa Chups」の表示を利用した不正競争行為(不正競
争防止法2条1項1号・2号)に該当すると主張して,商標法36条1項又は不正競争防止
法3条1項に基づく差止めと,民法709条又は不正競争防止法4条に基づく損害賠償と遅
延損害金の支払を求めた事案。
[裁判所の判断]
当裁判所は,原判決と同じく,一審原告の請求を棄却すべきものと判断する。
その理由は,以下のとおりである。
1 出店者による本件商標権の侵害
本件標章1~4及び本件商品1~6は本件商標権1~3の商標及び指定商品と類似すると
認められるから,前記出店者による「楽天市場」への出店は,「商品・・・に標章を付したも
のを・・・譲渡若しくは引渡しのために展示した」(商標法2条3項2号)ものとして,一審
原告の上記商標権を侵害することになる(同法37条)。
2 一審被告による「楽天市場」の運営は一審原告の本件商標権侵害となるか
ア 本件における被告サイトのように,ウェブサイトにおいて複数の出店者が各々のウェブ
ページ(出店ページ)を開設してその出店ページ上の店舗(仮想店舗)で商品を展示し,こ
れを閲覧した購入者が所定の手続を経て出店者から商品を購入することができる場合におい
て,上記ウェブページに展示された商品が第三者の商標権を侵害しているときは,商標権者
は,直接に上記展示を行っている出店者に対し,商標権侵害を理由に,ウェブページからの
削除等の差止請求と損害賠償請求をすることができることは明らかであるが,そのほかに,
ウェブページの運営者が,単に出店者によるウェブページの開設のための環境等を整備する
にとどまらず,運営システムの提供・出店者からの出店申込みの許否・出店者へのサービス
の一時停止や出店停止等の管理・支配を行い,出店者からの基本出店料やシステム利用料の
受領等の利益を受けている者であって,その者が出店者による商標権侵害があることを知っ
たとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったときは,その後の
合理的期間内に侵害内容のウェブページからの削除がなされない限り,上記期間経過後から
商標権者はウェブページの運営者に対し,商標権侵害を理由に,出店者に対するのと同様の
差止請求と損害賠償請求をすることができると解するのが相当である。
けだし,(1)本件における被告サイト(楽天市場)のように,ウェブページを利用して多く
の出店者からインターネットショッピングをすることができる販売方法は,販売者・購入者
の双方にとって便利であり,社会的にも有益な方法である上,ウェブページに表示される商
品の多くは,第三者の商標権を侵害するものではないから,本件のような商品の販売方法は,
基本的には商標権侵害を惹起する危険は少ないものであること,(2)仮に出店者によるウェブ
ページ上の出品が既存の商標権の内容と抵触する可能性があるものであったとしても,出店
者が先使用権者であったり,商標権者から使用許諾を受けていたり,並行輸入品であったり
すること等もあり得ることから,上記出品がなされたからといって,ウェブページの運営者
が直ちに商標権侵害の蓋然性が高いと認識すべきとはいえないこと,(3)しかし,商標権を侵
害する行為は商標法違反として刑罰法規にも触れる犯罪行為であり,ウェブページの運営者
であっても,出店者による出品が第三者の商標権を侵害するものであることを具体的に認識,
認容するに至ったときは,同法違反の幇助犯となる可能性があること,(4)ウェブページの運
営者は,出店者との間で出店契約を締結していて,上記ウェブページの運営により,出店料
やシステム利用料という営業上の利益を得ているものであること,(5)さらにウェブページの
運営者は,商標権侵害行為の存在を認識できたときは,出店者との契約により,コンテンツ
の削除,出店停止等の結果回避措置を執ることができること等の事情があり,これらを併せ
考えれば,ウェブページの運営者は,商標権者等から商標法違反の指摘を受けたときは,出
店者に対しその意見を聴くなどして,その侵害の有無を速やかに調査すべきであり,これを
履行している限りは,商標権侵害を理由として差止めや損害賠償の責任を負うことはないが,
これを怠ったときは,出店者と同様,これらの責任を負うものと解されるからである。
もっとも商標法は,その第37条で侵害とみなす行為を法定しているが,商標権は「指定
商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する」権利であり(同法25条),
商標権者は「自己の商標権・・・を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し,その侵
害の停止又は予防を請求することができる」(同法36条1項)のであるから,侵害者が商標
法2条3項に規定する「使用」をしている場合に限らず,社会的・経済的な観点から行為の
主体を検討することも可能というべきであり,商標法が,間接侵害に関する上記明文規定(同
法37条)を置いているからといって,商標権侵害となるのは上記明文規定に該当する場合
に限られるとまで解する必要はないというべきである。
イ そこで以上の見地に立って本件をみるに,一審被告は,前記(1)のようなシステムを有す
るインターネットショッピングモールを運営しており,出店者から出店料・システム利用料
等の営業利益を取得していたが,前記(2)イの番号1,2の展示については,展示日から削除
日まで18日を要しているが,一審被告が確実に本件商標権侵害を知ったと認められるのは
代理人弁護士が発した内容証明郵便が到達した平成21年4月20日であり,同日に削除さ
れたことになる。また,前記(2)イの番号3~8の展示については,展示日から削除日まで約
80日を要しているが,一審被告が確実に本件商標権侵害を知ったと認められるのは本訴訴
状が送達された平成21年10月20日であり,同日から削除日までの日数は8日である。
さらに,前記(2)ウの番号9~12の展示については,展示から削除までに要した日数は6日
である。
以上によれば,ウェブサイトを運営する一審被告としては,商標権侵害の事実を知ったと
きから8日以内という合理的期間内にこれを是正したと認めるのが相当である。
以上によれば,本件の事実関係の下では,一審被告による「楽天市場」の運営が一審原告
の本件商標権を違法に侵害したとまでいうことはできないということになる。
以上