審決取消請求事件 » 平成28年(行ケ)第10004号「クリーンマスター」事件

名称:「クリーンマスター」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所: 平成28年(行ケ)第10004号 判決日:平成28年6月29日
判決:請求棄却
商標法50条1項乃至3項
キーワード:不使用取消審判、駆け込み使用

[概要]
被告(商標権者)は、原告(審判請求人)からの商標権の譲渡等の交渉を受けた後、商標の使用開始を行った。その後、譲渡等の交渉が決裂後、原告(審判請求人)は、不使用取消審判の請求を行ったが、前記の被告(商標権者)の使用が、商標の使用と認定され不使用取消審判の請求が認められなかった事例。

[事件の経緯]
原告が、商標「クリーンマスター」(第5411194号)に対して、不使用取消審判を請求したところ、特許庁は、「本件審判の請求は,成り立たない。」旨の審決をしたため、原告は、その取消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『(1) 原告は、被告は、平成25年10月に行われた原告との交渉を契機として、原告からの不使用取消審判請求により、本件商標が取り消される可能性を認識し、これを免れるために、急きょ、ホームページ及びパンフレットを平成26年1月頃に改訂し、被告が単体で取引するとは考えられない各種制御基盤について「クリーンマスターⓇ」との標章を付するに至ったと主張する。
(2) 確かに、前記認定事実(3)のとおり、被告は、平成25年10月11日、原告から、本件商標の一部譲渡等について申出を受け、さらに、それがかなえられない場合、原告には、本件商標の不使用を理由とする登録取消審判を請求する意思がある旨知らされたものである。また、改訂後のホームページやパンフレットに取扱商品として掲載された各種制御基盤は、その他の取扱商品として掲載された「クリーナー用床ブラシ」等とは、その商品内容が大きく異なるにもかかわらず、「クリーンマスターⓇ」という同一の標章が付されている。
しかし、前記認定事実(1)のとおり、被告は、平成22年頃には、ダスキンに、自らが設計した充電器用制御基盤を装填した充電器を製造販売しており、また、前記2(3)アによれば、被告は、平成26年4月1日、東芝ホームアプライアンスに、制御基盤を製造販売したものと認められる。そして、これらの事実によれば、被告は、平成25年10月に原告から本件商標の一部譲渡等の申出を受ける前から、実際に、制御基盤を単体で製造販売していたものと認められる。なお、この点について、原告は、被告はダスキンや東芝ホームアプライアンスに、制御基盤を部品の一部とする掃除機等の製品を販売したにすぎず、被告が制御基盤を単体で製造販売したことはないと主張するが、被告が東芝ホームアプライアンスに制御基盤を単体で納品したことは前記2(3)アのとおりであって、また、ダスキンへの製造販売についても、被告は、ダスキンに品名を「GRAND ASSY」とする商品を販売したものであり(乙14の1)、当該商品は充電器用制御基盤(charge_board)に様々な備品を付属させたものであること(乙14の2・3)からすれば、被告が制御基盤を単体で製造販売していたとの事実は、優に認められる。
また、各種制御基盤も「クリーナー用床ブラシ」等も、被告の取扱商品であるという点では共通し、その取扱商品に同一の標章を付することは、不自然なことではない。
さらに、前記認定事実(1)、(4)、(5)のとおり、被告は、家庭用ブラシ及び工業用ブラシの開発、製造を主たる業務としつつ、その応用商品も開発、製造している株_式会社であるから、被告にとって、種々の取扱商品を紹介し、かつ、それに「クリーンマスターⓇ」との標章を付するというホームページやパンフレットの改訂は重要なものである。そうすると、被告は、これらの改訂に当たり、「クリーンマスター」という本件商標に今後の顧客からの信用を蓄積させていくか否か、また、本件商標を付すべき取扱商品をどのように選別するかなどの経営判断にかかる作業を行ったものといえる。また、ホームページやパンフレットの改訂作業においては、その内容や形式の確定、発注、校正等多数の作業も必要である。そして、被告は、このような作業を経てもなお、ホームページやパンフレットを改訂したものである。
仮に、原告からの不使用取消審判請求による本件商標の登録取消しを免れる目的が被告にあったとしても、このような目的と、各種制御基盤に本件商標を使用し、顧客からの信用を得ようとする目的とは併存し得るものである。
(3) したがって、本件商標の使用は名目的なものであるという原告の主張は、採用することができない。
そもそも、いわゆる「駆け込み使用の防止」を定めた商標法50条3項本文は、審判請求前「3月」を駆け込み使用と認める期間の始点としているところ、被告によるホームページの改訂や、改訂後のパンフレットの配布は、審判請求の3月以上前に行われていることからも、原告の上記主張は採用できるものではない。
4 商標法50条所定の使用について
以上のとおり、被告は、要証期間内に、日本国内において「クリーンマスターⓇ」なる標章を制御基盤に使用(商標法2条3項8号)したものである。
そして、「クリーンマスターⓇ」なる標章は、本件商標と社会通念上同一の商標である。また、制御基盤は、本件商標の指定商品である「電子応用機械器具及びその製品」の範ちゅうに属する。
したがって、被告は、要証期間内に、日本国内において、本件審判の請求に係る指定商品である「電子応用機械器具及びその部品」について、本件商標の使用をしたと認められる。』

[コメント]
商標法50条3項には、審判請求前三月から、審判請求の登録の日までの間の商標の使用は、登録商標の使用に該当しないものとする、いわゆる駆け込み使用に関する規定がある。
しかし、本件では、交渉の進捗との関係で、被告(商標権者)の使用開始から相当の期間が経過し、不使用取消審判の請求のタイミングを逃したケースといえる。
したがって、不使用取消審判の請求を絡めて、譲渡などの交渉を行う場合、交渉相手に駆け込み使用の余地を与えないように、交渉の期限を区切る等の事前の戦略が重要である。
以上
(担当弁理士:石川 克司)