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平成26年(行ケ)10089 号 「商標IGZO(標準文字)」事件

名称:「商標 IGZO(標準文字)」事件
無効審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 26 年(行ケ)10089 号 判決日:平成27年2月25日
判決:請求棄却(無効審決を維持)
商標法3条1項3号
キーワード:自他商品識別機能,商標権の分割
[概要]
本件商標は,請求に係る指定商品に使用した場合,その商品の原材料を表したものとして
認識されるものであるから,自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないとする無効審
決は妥当であると判断された事案。
[商標]IGZO(標準文字)
[指定表品]
一部の指定商品について無効審決がなされたため,下記を指定商品とする商標権1~9に
分割した。
①「携帯電話機等を除く電気通信機械器具及び電子応用機械器具」
②「電子応用機械器具の部品,電池,配電用又は制御用の機械器具」
③「電気アイロン,電気式ヘアカーラー,電線及びケーブル」
④「液晶テレビジョン受信機」
⑤「ノートブック型コンピュータ」
⑥「ノートブック型コンピュータ,タブレット型携帯情報端末を除くコンピュータ」
⑦「タブレット型携帯情報端末」
⑧「スマートフォン」
⑨「携帯電話機」
[無効審決の理由]
本件商標の登録査定時において,本件商標を構成する「IGZO」は,上記商品を構成す
る原材料の一つを示すものとして使用され,上記商品に係る事業者(取引者・需要者)の間
において認識されていたといい得るものである。そうすると,本件商標は,請求に係る指定
商品に使用した場合,その商品の原材料を表したものとして認識されるものであるから,自
他商品の識別標識としての機能を果たし得ない。
[争点]
本件各商標がその商品の原材料を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるかど
うか。
[裁判所の判断]
1 商標権の分割について
一件の無効審決の対象となっている商標登録に係る指定商品又は指定役務が複数の場合で
あっても,当該無効審決は,もともと個々の指定商品又は指定役務ごとに効力を有するもの
と解すべきものであるから,無効審決後,商標権が分割され,個々の指定商品又は指定役務
ごとに異なる商標権の登録がされたとしても,当該無効審決の効力は当然に分割後の各商標
権に及び,分割が無効審決の効力を左右するものではないと解するのが相当である。
2 認定事実
①「IGZO」の語は,平成7年に,新規な物質として公表された「In(インジウム),
Ga(ガリウム),Zn(亜鉛)及びO(酸素)からなる酸化物」(本件酸化物)を指す語とし
て紹介され,使用されるようになったこと,②平成16年頃からは,本件酸化物についての
研究,開発がディスプレイ分野や半導体分野のエレクトロニクス業界の企業等で活発に行わ
れるようになり,平成22年1月に東京工業大学で開催された国際ワークショップには,国
内の多数の企業関係者が出席し,本件酸化物(半導体)に関する研究内容を紹介したこと,
③本件商標の登録査定時には,既に,多数の大手企業が,本件酸化物に関する研究開発を実
施し,1000件以上の本件酸化物に関する特許出願をしていたのみならず,本件酸化物(材
料)自体の製造や,本件酸化物を用いた半導体素子を製造する設備の展示会等での展示や受
注,本件酸化物を使用した技術の開発,実用化に向けた試作等を行っていたものであり,デ
ィスプレイ分野や半導体分野のエレクトロニクス業界に属する企業等において,半導体材料
としての本件酸化物への関心が高まっていたこと,④具体的には,本件酸化物を使用したT
FTは,当時,液晶テレビ,スマートフォン等の製造に使用される液晶パネルや有機ELパ
ネルの機能を大幅に向上させることが可能なものとして注目されるとともに,多くの新しい
特徴を持つ期待の新材料として,ディスプレイの分野だけではなく,太陽電池,不揮発性メ
モリー,紫外線センサーの分野での利用も見込まれていたほか,電子荷札(ICタグ)に使
用するRFID(無線自動識別)チップ,パワー半導体,小型の電子ペーパーなどの携帯端
末における利用の技術開発も進んでおり,本件酸化物を用いた半導体素子の応用開発,研究
がされ,今後幅広い範囲の電子デバイスの性能を向上させ得るものとして期待されていたこ
と,⑤このような本件酸化物の研究開発の進展,広がりに伴って,本件酸化物を指す語とし
ての「IGZO」の語も,本件商標の登録査定時には,既に上記のとおり幅広い企業の特許
出願書類中において使用されるようになっていたのみならず,上記企業による製品の開発状
況等を報道する新聞,雑誌や企業広報等においても,本件酸化物を指す語として「IGZO」
の語が使用されるようになっていたことが認められる。
以上によれば「IGZO」の語は,本件商標の登録査定時には,技術者だけではなく,デ
ィスプレイや半導体を用いる分野のエレクトロニクス業界に属する企業等の事業者において,
新規な半導体材料である「インジウム・ガリウム・亜鉛酸化物(本件酸化物)」を意味する語
として,広く認識されていたものといえる。
そして,本件商標(IGZO)が,本件商標4~9の指定商品について用いられた場合,
これらの指定商品は,いずれもその構成部品の一つとしてディスプレイパネルを含むのが通
常であり,また,ディスプレイパネルの性能が商品の品質に重要な影響を及ぼすものである
から,これらの指定商品に係る商品を製造,販売する企業等,すなわち,これらの指定商品
の取引者であり,また,需要者の一部にも含まれる者である事業者は,本件商標の表示する
本件酸化物が,各指定商品のディスプレイパネルに使用されているものと一般に認識するも
のといえる。したがって,本件商標4ないし9は,取引者及び需要者が,本件商標4ないし
9の指定商品が,商標の表示するもの(本件酸化物)を原材料の一つとしているであろうと
一般に認識するものであるから,指定商品との関係で自他商品識別力を有するということが
できない。
本件商標1~2の指定商品には,ディスプレイパネル自体が含まれるほか,デジタルカメ
ラやビデオカメラ,等も含まれるため,本件商標1及び2も,それらの指定商品との関係で
自他商品識別力を有するということはできない。
本件商標は,ディスプレイパネルや半導体素子が原材料として認識され得る本件各商標の
指定商品に係る商品の取引に際して,必要適切な表示として,何人もその使用を欲するもの
であるといえるから,特定人によるその独占使用を認めることが公益上適当であるともいえ
ない。
したがって,本件各商標は,法3条1項3号が規定する「商品の原材料を普通に用いられ
る方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するから,審決の判断は相当であり,原告
の主張する取消事由には理由がない。
[コメント]
本判決では,自他商品識別機能を判断するに当たって,最終消費者のみでなく,取引者も
考慮しているため,識別機能なしと判断されている。また,原告から3条2項該当性(いわ
ゆる使用による特別顕著性)の主張はされていないが,これによって結論が変わる可能性が
あるのではないかと考える。

平成26年(行ケ)10089 号 「商標IGZO(標準文字)」事件

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