審決取消請求事件 » 平成24年(行ケ)第100002号「Kawasaki」事件

名称:「Kawasaki」事件
平成24年(行ケ)第10002号 審決取消請求事件
知的財産高等裁判所第3部
判決日:平成24年9月13日
判決:審決取消
関連条文:商標法3条1項3号、4号、同条2項
キーワード:使用による識別性

[概要]
商標法3条1項3号、4号に該当し、商標法3条2項には該当しない、とした特許庁の審決の取
消を求めた事案。

[本件商標]
本件商標:Kawasaki
指定商品:第25類「被服、ベルト、帽子、手袋、ネクタイ、エプロン、リストバンド」
(「リストバンド」は補正により削除)

[審決の概要]
(取消事由1)本願商標は、神奈川県川崎市で製造、販売された商品の産地、販売地を普通に用
いられる方法で表示する標章のみからなる商標であり、商標法3条1項3号に該当する。
(取消事由2)本願商標を構成する「Kawasaki」の文字は、ありふれた氏である「川崎」
を欧文字で表記したものというべき商標であるから、ありふれた氏を普通に用いられる方法で表
示する標章のみからなる商標であり、商標法3条1項4号に該当する。
(取消事由3)申立人(原告)の提出に係る証拠のみをもってしては、本願商標が請求人の業務に
係るアパレル関連の商品を表示する商標として、我が国における取引者、需要者の間に広く認識
され、自他商品の識別力を獲得したものということはできない。

[裁判所の判断]
1.取消事由1(商標法3条1項3号該当性判断の誤り)について
(1)本願商標は、欧文字「Kawasaki」が、エーリアルブラックの書体に似た極太の書
体で強調して書かれており、字間が狭く、全体的に極めてまとまりが良いことから、単なるゴシ
ック体の表記とはいえず、見る者に、力強さ、重厚さ、堅実さなどの印象を与える特徴的な外観
を有するものである。このような外観からすると、本願商標は、単なる欧文字の「Kawasa
ki」の表記とは趣きを異にするから、一般人に、一義的に神奈川県川崎市を連想させるような
表記ということはできない。
(2)神奈川県川崎市を「Kawasaki」、「KAWASAKI」等の欧文字により表記す
ることがしばしば行われるとはいえるが、漢字で「川崎」と表記される場合とは異なり、「Ka
wasaki」、「KAWASAKI」等の欧文字に接した一般人が、通常、当該文字から同市
を商品の産地、販売地として想起するとまでは認められない。
(3)本願商標のみに接した日本国内の18歳から69歳の男女1000人以上を調査したとこ
ろ、半数以上がバイク関係を想起したとするのに対し、神奈川県川崎市を想起した者は総数の3.
1%しかなかったこと、また、本願商標をアパレル商品に付した場合でも、神奈川県川崎市を想
起した者は総数の10.4%しかなかったことが認められる。
(4)以上を総合すると、本願商標が指定商品に使用されたとしても、需要者又は取引者におい
て一般的に地名である神奈川県川崎市を想起するとはいえず、当該指定商品が同市において生産
され又は販売されているであろうと一般に認識することもないというべきである。

2.取消事由2(商標法3条1項4号該当性判断の誤り)について
(1)取消事由1と同様、本願商標は、単なる欧文字の「Kawasaki」の表記とは趣きを
異にするから、一般人に、一義的に姓氏を連想させる表記ということはできない。
(2)さらに、調査結果によれば、本願商標のみを呈示した場合、半数以上がバイク関係を想起
したとするのに対し、本願商標から「個人名」を想起したとの明確な回答はなく、本願商標を「個
人事業・商店のロゴ」と思った旨の回答は全体の1.5%にすぎなかった。
(3)すなわち、本願商標から、氏である「川崎」を想起した者は殆どいないということができ、
このような調査結果からも、本願商標は、ありふれた氏を「普通に用いられる方法で表示する」
ものではないと解すべきである。

3.取消事由3(商標法3条2項該当性判断の誤り)について
(1)審決は、「本願商標を付した商品の過去3年間の売上は5億円程度であって、また、商品
の販売数量、シェア、広告宣伝の状況等について、本願商標の指定商品についての著名性を具体
的に裏付ける証拠は何ら提出されていないに等しく、申立人の提出に係る証拠のみをもってして
は、本願商標が請求人の業務に係るアパレル関連の商品を表示する商標として、我が国における
取引者、需要者の間に広く認識され、自他商品の識別力を獲得したものということはできない。」
旨判断した。

(2)上記判断は、本願商標が商標法3条2項の要件を満たすためには、その指定商品であるア
パレル関連の商品について使用された結果、著名なものとして自他商品識別力を獲得したことを
要するとの前提に立つが、この前提は誤りである。

(3)すなわち、同項は、「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務である
ことを認識することができるものについては、・・・商標登録を受けることができる。」と規定
し、指定商品又は指定役務に使用された結果、自他商品識別力が獲得された商標であるべきこと
を定めていない。また、同項の趣旨は、同条1項3号から5号までの商標は、特定の者が長年そ
の業務に係る商品又は役務について使用した結果、その商標がその商品又は役務と密接に結びつ
いて出所表示機能をもつに至ることが経験的に認められるので、このような場合には特別顕著性
が発生したと考えて商標登録をし得ることとしたものであるから、登録出願に係る商標が、特定
の者の業務に係る商品又は役務について長年使用された結果、当該商標が、その者の業務に係る
商品又は役務に関連して出所表示機能をもつに至った場合には、同条2項に該当すると解される。
そして、上記の趣旨からすると、当該商標が長年使用された商品又は役務と当該商標の指定商品
又は指定役務が異なる場合に、当該商標が指定商品又は指定役務について使用されてもなお出所
表示機能を有すると認められるときは、同項該当性は否定されないと解すべきである。

(4)原告が、本願商標を長年にわたってバイク関係やその他の多様な事業活動で使用した結果、
審決時までに、本願商標は著名性を得て、バイク関係はもとより、それ以外の幅広い分野で使用
された場合にも自他商品識別力を有するようになったといえる。そして、原告の子会社を通じて、
本願商標を使用したアパレル関係の商品が長年販売されていることから、本願商標をアパレル関
係の商品で使用された場合にも自他商品識別力を有すると認めるのが相当である。

[コメント]
商標審査基準では、商標法3条2項を適用して登録が認められるのは、「出願された商標及び指
定商品又は指定役務と、使用されている商標及び商品又は役務とが同一の場合のみとする」と規
定されているが、本判決では、『商標法3条2項の規定は、そもそも出願商標が当該指定商品や
役務について使用された結果、識別力を獲得したものとは定めていないこと』、『特定の者がそ
の業務に係る商品や役務について使用した結果識別性を獲得したものである場合、その商品・役
務が当該出願の指定商品や役務と異なっていたとしても、仮に当該指定商品・役務について使用
された場合にもなお識別力を発揮するであろうと認められる場合には、商標法3条2項が適用さ
れること』を判示しており、大変興味深い判決である。