IP case studies判例研究

平成23年(行ケ)10323号「INSIDE」事件

名称:「INSIDE」事件
商標権審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 23 年(行ケ)10323 号 判決日:平成 24 年 3 月 28 日
判決:控訴棄却
商標法4条1項15号,同7号
キーワード:商標の出所混同,公序良俗
[概要] 原告が、自ら有する商標登録「intel 及び inside の文字を上下二段」を引用商標と
して、被告が有する商標登録「KDDI、Module、inside の文字を上下三段」に基づく商標登
録の無効審判(無効理由なしの審決)に対して、その取消し(商標法4条1項15号等)を
求めたが、無効理由はない旨の審決が維持された。
指定商品:電気通信機械器具用モジュール等
[争点]①商標法4条1項15号の判断の誤り。②商標法4条1項7号の判断の誤り。
[裁判所の判断]
<商標法4条1項15号>
「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をそ
の指定商品又は指定役務に使用したときに,当該商品又は役務が他人の業務に係る商品又は
役務であると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品又は役務が上記他人との間
にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を
営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信される広義
の混同を生ずるおそれがある商標が含まれる。そして,上記の「混同を生ずるおそれ」の有
無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度
や,当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質,用途
又は目的における関連性の程度並びに商品の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情な
どに照らし,当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる
注意力を基準として,総合的に判断されるべきものである(最高裁平成10年(行ヒ)第8
5号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁)。
≪本件商標≫
「KDDI」との文字は—-著名なものとなっていたといえるから,—-出所識別標識として強
く支配的な印象を与えるものである。他方,—-「Module」の文字及び「inside」の文字は,
自他商品の識別のために格別の意義を有するものとはいえない。—-「INSIDE」の文字が他
の文字に比してやや大きく表示されていることからして,「インサイド」との称呼も生じ得る
ものといわなければならないが,その称呼だけでは,単に「内側の,内部の」との意味を想
起させるにとどまり,それ以上に,何か具体的な観念を生じさせるものではない。
≪引用商標≫
「intel」の文字と「inside」の文字を結合した「intel inside」は,原告製造に係る製品を
表示するものとして,広く認識されていたものといえるから,引用商標1からは,構成文字
全体に相応した「インテルインサイド」との称呼が生じる。—-「インサイド」との称呼が生
ずるとまではいえない。
「inside」の文字は,「内側の,内部の」等の意味合いを持つ,一般的な語であり,「intel」
以外の文字と結合させることも含め,多様な用法が想定できることからすると,「intel」以外
の文字と「inside」の文字を結合した「・・・inside」という商標の構成が,当該商標が使用さ
れた商品又は役務が直ちに原告の製造に係る商品又は役務であると誤信するおそれを生じさ
せるほどの強い出所識別機能を有しているとまでは認められない。
≪引用商標の周知著名及び独創性の程度≫
本件商標と引用商標とは,いずれも「INSIDE」の文字をその構成の一部に含むものであ
るが,その外観は全体として類似するものではなく,称呼,観念も相違する。また,引用各
商標中の「intel」の文字や「intel inside」の文字は,原告又は原告製造に係る製品の表示と
して広く認識されているものの,「・・・inside」又は「・・・INSIDE」という表示形式が,当該
商標が使用された商品又は役務が直ちに原告の製造に係る商品又は役務であると誤信するお
それを生じさせるほどの強い出所識別機能を有しているとまではいえず,引用各商標の構成
自体が格別独創性の高いものということもできない。
本件商標中の「KDDI」の文字も,被告を表示するものとして我が国において高度の周知
性を有していることを併せ考慮すると,本件指定商品と引用各商標の指定商品とに重複する
ものがあり,そのため,両者の取引者及び需要者が共通することを考慮しても,本件商標が
これに接した取引者及び需要者に対し引用各商標を連想させて商品の出所につき誤認を生じ
させるものということはできないし,本件商標が引用各商標の持つ顧客吸引力へのただ乗り
(いわゆるフリーライド)やその希釈化(いわゆるダイリューション)を招く結果を生ずる
おそれがあるとまでいうこともできない。
<商標法4条1項7号>
本件商標の登録出願時において,引用各商標は世界的に広く知られていたから,被告が「・・・
INSIDE」との表示形式を持つ本件商標を偶然採択したものとはいえず,被告は引用各商標
の世界的な名声にフリーライドして取引者,需要者の注意,関心を集め,自己の取扱商品の
宣伝広告及び営業活動を有利に展開して商業的利益を得ようとの不正の目的を有するものと
推認されるとか,原告を容易に想起させる本件商標を原告と無関係の者が使用すれば,世界
的に著名な引用各商標の出所表示力が希釈化され,そのブランド価値が低下し,原告の資産
に重大な損害を及ぼすなどとして,本件商標は商標法4条1項7号に該当すると主張する。
しかしながら,本件商標が引用各商標の持つ顧客吸引力へのただ乗り(いわゆるフリーライ
ド)やその希釈化(いわゆるダイリューション)を招く結果を生ずるおそれがあるとは認め
られず,原告の主張は理由がない。
なお,引用各商標を構成する「intel inside」又は「INTEL INSIDE」との表示は,本件商
標の登録出願時には原告又は原告製造に係る製品を示すものとして既に高度の周知著名性を
有していたから,被告は,この表示の存在を知った上で本件商標の登録出願に及んだものと
推認されなくもない。しかし,最終製品の内蔵されているため外観上はその存在を見て取る
ことができない製品についての広告表現として, 同製品が最終製品の内部に装備されている
ことを示唆する「・・・inside」という形式の表示が一般的に有効なものであるため,被告もそ
の有効性に期待して敢えてその着想を取り入れて本件商標の登録出願をしたものであったと
しても,本件商標は,これに接した取引者及び需要者に対し引用各商標を連想させて商品の
出所につき誤認を生じさせるものではない。また,前記1(3)のとおり,最終製品に内蔵され
ているため外観上はその存在を見て取ることができない製品に係る商標として,引用各商標
にあるような「inside」の文字又は「INSIDE」の文字を用いた構成とすることが,格別独創
性の高いものであるということもできない。したがって,本件商標が,公正な競争秩序から
逸脱し,公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標であると認めることはできない。
[コメント]:著名商標との結合商標が著名になっていたとしても、その結合商標の一部を構
成する文字についてまで、著名であるとまでは言えないことが示された例である。

平成23年(行ケ)10323号「INSIDE」事件

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