審決取消請求事件 » 平成23年(行ケ)10193号 「椅子式マッサージ機」事件

名称:「椅子式マッサージ機」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成 23 年(行ケ)10193 号 判決日:平成 24 年 2 月 27 日
判決:請求認容(審決取消)
関連条文:特許法第 29 条第 2 項
キーワード:容易推考性、周知の技術事項、周知の課題

[概要]
原告は、名称を「椅子式マッサージ機」とする被告の特許について無効審判を請求し
たが、特許庁が請求不成立の審決をしたことから、その取消しを求めた。
[本件発明1]
座部および背もたれ部を有する椅子本体と、
施療子が設けられ前記椅子本体に移動可能に設けた脚載置台と、
この脚載置台を椅子本体に対して移動させる移動手段と、
前記施療子を突出動作させる駆動手段と、
入力手段と、
この入力手段からの信号の入力によって前記駆動手段と前記移動手段を制御する制御
手段とを備え、
マッサージ中において前記施療子を前記脚載置部に載置された被施療部に位置決めす
るための位置決め信号が前記入力手段から前記制御手段に入力された際に、前記制御手
段によって、前記施療子を非突出状態として前記脚載置台を移動させる制御をすること
を特徴とする椅子式マッサージ機。
[相違点A]
本件発明1は、マッサージ中において施療子を脚載置部に載置された被施療部に位置
決めするための位置決め信号が入力手段から制御手段に入力された際に、前記制御手段
によって、前記施療子を非突出状態として前記脚載置台を移動させる制御をするのに対
し、甲1発明は上記構成を有していない点。
[裁判所の判断]
本件発明1の技術的思想は、施療子を移動させる際に非突出状態とするよう制御する
ことで、施療子を設けた脚載置台をスムーズに移動させることができる、移動手段の過
負荷を防止できる、脚部が移動方向に引っ張られて痛みを覚えることを防止できるとい
う作用を生じさせることにあると認められるところ、この点に関し、甲2~甲4公報に
は、次の技術事項が開示されていると認められる。
・・・(中略)・・・甲2公報~甲4公報に開示された上記の技術事項に照らすと、椅
子の背もたれ等に施療子が設けられ、制御回路がスイッチ操作等の入力に基づいて施療
子を移動させる機能を備えたマッサージ機の技術分野において、施療子を移動させる際
に突出量が大きいと、使用者の身体に対する危険がある、あるいは、駆動装置に大きな
負荷がかかるなどといった問題の存在は、当業者にとって広く知られた周知の課題であ
ったと認められ、そのような課題を解決するために、施療子の突出量を最小にして、あ
るいは突出量が小さくなるよう調整して移動させることも、周知の技術事項であったと
認められる。
このような課題は、施療子を人体に沿って移動させることにより一般的に生じるもの
であって、甲2公報~甲4公報に開示されたマッサージ機のように施療子を背もたれ等
に設けた場合に特有の課題ではない。そして、甲1発明のマッサージ機は、施療子が脚
支持台ごと脚部に沿って移動する構成を備えているが、全体としてみると椅子式マッサ
ージ機であって、甲2公報~甲4公報に記載された椅子式マッサージ機とは同一の技術
分野に属するものであり、施療子を設けた場所は異なるとしても、施療子が身体に沿っ
て移動するという点においては技術的に共通するものであるから、当業者が、脚部用の
移動する施療子を設けた甲1発明に接した場合に、施療子の移動に関する上記の一般的
な課題を認識し、これを解決するために周知の技術事項を甲1発明に適用して、スイッ
チ操作等の入力に応じて制御回路が(脚支持台ごと)施療子を移動させる際に、突出量
を最小とする、すなわち非突出状態とすることや、突出量を適宜小さく調整することは、
甲1公報自体に示唆等がなくとも、適宜なし得ることというべきである。
[コメント]
平成 20 年(行ケ)第 10096 号「回路用接続部材」事件では、「発明が容易想到であ
ると判断するためには、先行技術の内容の検討に当たっても、当該発明の特徴点に到達
できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく、当該発明の特
徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要である」と判
示され、その後も同旨の判決が相次いでいる。
これに対し、本件では、本件発明の技術的思想に関する課題とその解決手段が周知と
認定されたことにより、その周知の技術事項を甲1発明に適用して相違点に係る構成と
することが、甲1公報自体に示唆等がなくても適宜になし得ると判断された。
尚、この判断では、課題が一般的であって、施療子を背もたれ等に設けたマッサージ
機に特有の課題ではないこと、甲1発明のマッサージ機が、甲2公報~甲4公報に記載
された椅子式マッサージ機と同一の技術分野に属すること、施療子を設けた場所は異な
るものの、施療子が身体に沿って移動するという点で技術的に共通すること、を踏まえ
ている点にも注意されたい。
以上