審決取消請求事件 » 平成22年(行ケ)第10407号 「ウインドパークの運転方法」事件

名称:「ウインドパークの運転方法」事件
拒絶査定不服審判審決取消訴訟
知的財産高等裁判所: 平成22年(行ケ)第10407号
判決言渡日: 平成23年12月26日
判決:請求認容(審決取消)
特許法 29 条 2 項
キーワード: 解決課題の相違、動機付けの有無、阻害要因

[概要]
原告は、発明の名称を「ウインドパークの運転方法」とする特許出願(国際特許出願)の拒絶査定
に対して審判を請求したところ、特許庁が請求不成立の審決をしたことから、その取消しを求めた事案
である。
[裁判所の判断]
1 引用発明の認定の誤り(取消事由1)
引用例1で開示された発明において,個々の風力発電設備をその定格出力電力の0から100%
の範囲内で調整する目的は,送電網の電圧に応じて風力発電施設全体の出力電力を送電網の
最大許容送電量とするためであって,風力発電施設全体の出力電力を送電網の最大許容送電
量よりも小さくするためではない。
また,引用例1で開示された発明では,個々の風力発電設備の定格出力電力を合計した風力
発電施設の最大出力電力は,送電網の最大許容送電量よりも大きいことから,風力発電施設全
体の出力電力を定格出力電力の100%と設定すると,送電網の最大許容送電量を超過すること
になり,このように送電網の最大許容送電量を超えた出力電力となるように設定することも想定され
ていない。
したがって,引用例1に,「送電網の電圧に応じて風力発電施設全体の出力電力を(その定格出
力電力の)0から100%の範囲内の所望値に設定する」ことが実質的に開示されているとはいえない。
<判決文 p.14 より>
2 相違点2についての容易想到性の判断の誤り(取消事由2)
ア 本願発明は,相違点2に係る構成を採用することにより,ウインドパークの電力網の周波数や電
圧の変化を回避するとの効果を実現する発明である。
前記のとおり,引用発明は,風力発電施設の全出力電力を送電網の最大許容送電量とする
ために,風力発電施設が送電網の最大許容送電量よりも高い全出力電力が出せるようにした上
で,個々の風力発電設備の出力電力を定格出力電力の0から100%の範囲内で調整するという
構成を備えた風力発電施設の運転方法である。引用発明の解決課題は,従来,全ての風力発
電設備から常に定格出力電力が得られるとは限らず,風力発電施設全体の最大電力出力を連
続して出すことができなかった風力発電施設において,常に送電網の最大許容送電量を出力でき
るようにして,送電網の送電網構成部品が最適化された態様で利用できるようにすることである。
したがって,引用発明と本願発明とは,解決課題において,相違する。<判決文 p.20 より>
イ 課題解決手段をみると,引用発明では,常に送電網の最大許容送電量を出力できるようにした
ものであるのに対し,本願発明では,電力網の周波数や電圧が基準値より高いか又は低いときに,
ウインドパークの供給電力を低減する,すなわち,ウインドパークの供給電力を,送電網の最大許容
送電量との関係によらず,電力網の周波数や電圧により制御するものである点において,両者は,
課題解決手段において相違する。
そうすると,本願発明の課題解決手段は,引用発明の課題解決手段を採用することに対する妨
げになるから,引用発明に相違点2に係る構成を組み合わせることには,阻害要因があるといえる。
<判決文 p.20 より>
ウ 引用例2に開示された技術は,望ましくない電圧変動を防止するために,配電網の電圧が基準
値よりも変動した場合に,供給電力を低減するものであり,引用例3に開示された技術は,発電機
の系統電圧の変動を防止するために,電力網に供給される電流と電圧の間の位相差を,上記電力
網の電圧に依存して変更するものである。したがって,いずれも引用発明とは解決課題が異なり,引
用発明に接した当業者が,引用例2及び3に開示された技術を組み合わせる動機付けが存在する
とはいえない。
被告は,引用発明,引用例2に記載された周知技術及び引用例3に記載された慣用手段は,
電力網に電力を供給する技術であるという点で共通しており,さらに,一般的に電力網の電圧の変
動防止は当然に要求される課題であるから,この課題を解決するために,引用発明に上記周知技
術及び上記慣用手段を適用する動機付けがあると主張する。
しかし,引用発明と引用例2及び3に記載された技術とは,電力網に電力を供給する技術である
という点で共通するとしても,そのような共通点があることのみを理由として,解決課題の異なる引用
発明と引用例2及び3に記載された技術とを組み合わせて,本願発明における相違点2に係る構
成に至ることが容易であるとはいえない。また,電力網の電圧の変動防止が,電力網に電力を供給
する上での当然に要求される課題であったとしても,引用発明は,常に送電網の最大許容送電量
を出力できるようにするとの解決課題を設定して,その解決手段を図ったものであるのに対し,引用
例2及び3に記載された技術は,電力網の電圧の変動防止を解決課題として設定し,その解決手
段を図ったものであるから,引用発明と引用例2及び3に記載された技術とは,解決課題において
異なり,両者を組み合わせる動機付けは存在しない。<判決文 p.21 より>
[コメント]
引用例1及び2共に、本願発明と同一の出願人によるものである。特許庁は構成がほとんど同一で
あると判断して引用例1を主引例と認定したと思われるが、引用例1と本願は明らかに解決しようとす
る課題が異なっていたため、裁判所において審決が取り消されたものと考える。しかし、もし特許庁が引
用例2を主引例と認定し、他の引例を副引例として挙げていた場合には、結論がどうなっていたかは微
妙なところである。本願発明と引用例2は、負荷変動に応じて風力発電の発電出力を調整するという
点においては共通するためである。引用例2は1機の発電機出力を単に調整する構成であるのに対し、
本願発明は発電機出力を調整することでファーム全体の出力を調整する構成である点において異なっ
ている。
内容的に近いと思われる副引例が挙げられている場合であっても、あくまで主引例と本願発明の解
決課題を対比して、主引例に対して副引例の内容を組み合わせることに動機付けがない場合や阻害
要因が存在すると考えられる場合には、争う余地があることを出願人に説明することが重要であると考
える。