審決取消請求事件 » 令和2年(行ケ)第10011号「カテーテル組立体」事件

名称:「カテーテル組立体」事件
拒絶審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:令和2年(行ケ)第10011号 判決日:令和3年2月17日
判決:審決取消
特許法29条2項
キーワード:引用発明の認定
判決文:https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/032/090032_hanrei.pdf

[概要]
 引用発明は、本願発明の「前記第2弁部材は、二方弁であり、流体が、前記カテーテルハブの前記内室を通って近位方向及び遠位方向の両方向に流れることが可能となるように開口可能であ」るとの構成を有しない点で、本願発明と相違するという理由により、審決における一致点の認定の誤り及び相違点の看過があるとして審決が取り消された事例。

[事件の経緯]
 原告が、特許出願(特願2015−242055号)に係る拒絶査定不服審判(不服2018−6969号)を請求して補正したところ、特許庁(被告)が、請求不成立の拒絶審決をしたため、原告は、その取消しを求めた。
 知財高裁は、原告の請求を認容し、審決を取り消した。

[本願発明]
【請求項1】
 ・・・(略)・・・カテーテル組立体であって、
 前記バルブ組立体は、
   前記延長チューブの遠位端を閉じる一方、前記延長チューブ内の加圧された流体の作用により開口可能な第1弁部材と、
   流体が、前記内室を介して、前記カテーテルハブの近位端へ流入し又は前記カテーテルハブの近位端から流出するのを阻止する第2弁部材とを備えていて、
   前記第2弁部材は、二方弁であり、流体が、前記カテーテルハブの前記内室を通って近位方向及び遠位方向の両方向に流れることが可能となるように開口可能であり、
 ・・・(略)・・・ことを特徴とするカテーテル組立体。

[審決]
 引用文献1には「隔壁の遠位部は、針が引き出された場合に密閉されて流体がその中空部を介してカテーテル・アダプタの近位端へ流入し又はカテーテル・アダプタの近位端から流出するのを阻止するとともに、該流入及び流出を可能とするように開口可能なスリットを有している」との技術的事項が記載されていると認定した。

[取消事由]
 本願発明の進歩性の判断の誤り

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
『1 本願明細書の記載事項について
 ・・・(略)・・・
 イ 「本発明」のカテーテル組立体のバルブ組立体は、延長チューブの遠位端を閉じる一方、延長チューブ内の加圧された流体の作用により開口可能な第1弁部材と流体が内室を介してカテーテルハブの近位端へ流入し又はカテーテルハブの近位端から流出するのを阻止する第2弁部材を備えており、第1弁部材が開かれると、延長チューブからカテーテルハブの内室への流体の流入が可能となり、第2弁部材が開かれると、カテーテルハブの近位端からカテーテルに向かって遠位方向に流体を供給することが可能となり、又はカテーテルからカテーテルハブの近位端に向かって近位方向に流体を引き抜くことが可能となるものであり、このように第2弁部材は、カテーテルハブの近位端への又は該近位端からの流体の流れを制御(調節)する二方弁として動作することができる(【0019】、【0030】)。
2 引用文献の記載事項について
 ・・・(略)・・・
3 一致点の認定の誤り及び相違点の看過について
 (1) 原告は、本件審決は、引用文献1記載の【0012】、【0023】、【0044】及び図26を根拠として挙げて、引用発明は、「隔壁」の「遠位部」に「該流入及び流出を可能とするように開口可能なスリットを有して」いると認定した上で、引用発明が「隔壁」の遠位部に「該流入及び流出を可能とするように開口可能なスリット」を備えていることは、本願発明の「前記第2弁部材は、二方弁であり、流体が、前記カテーテルハブの前記内室を通って近位方向及び遠位方向の両方向に流れることが可能となるように開口可能であ」るとの構成(本件構成)に相当するとして、本件構成は、本願発明と引用発明の一致点である旨認定したが、引用文献1には、「隔壁」の遠位部が「該流入及び流出を可能とするように開口可能なスリット」を有することについての記載はなく、引用文献1記載のカテーテル及びイントロデューサ針アセンブリは、本件構成を有しない点で本願発明と相違するから、本件審決には、上記一致点の認定の誤り及び相違点の看過がある旨主張する。
 ア そこで検討するに、本件審決は、引用文献1には、「i 隔壁の遠位部は、針が引き出された場合に密閉されて流体がその中空部を介してカテーテル・アダプタの近位端へ流入し又はカテーテル・アダプタの近位端から流出するのを阻止するとともに、該流入及び流出を可能とするように開口可能なスリットを有している(【0012】、【0023】、【0044】、図26)。」(6頁)との技術的事項が記載されていると認定した。
 しかるところ、引用文献1の【0012】には、・・・(略)・・・との記載がある。
 上記記載から、引用文献1において、隔壁アセンブリに設けられた隔壁410は、カテーテル・アダプタ24の近接端からの流体の漏れを防ぐために設けられたものであること、隔壁410の遠位部460には、そこを通るイントロデューサ針の挿入を簡単にするように、スリット462を備えることができることを理解できる
 そして、図26(別紙2参照)には、隔壁410の遠位部460に、厚み方向の略中央付近に、その近接端から遠位端まで長手軸方向に設けられたスリット462が図示されている。
 一方で、引用文献1の【0012】、【0023】、【0044】には、スリット462が流体の「流入及び流出を可能とするように開口可能」であることについての記載はない
 また、図26記載のスリット462の形状に照らすと、図26から、スリット462が流体の「流入及び流出を可能とするように開口可能」であることを直ちに看取することはできない。
 さらに、引用文献1の記載全体(図面を含む。)をみても、スリット462が流体の「流入及び流出を可能とするように開口可能」な構成であることをうかがわせる記載はない。
 イ かえって、引用文献1には、隔壁に関し、前記【0012】のほか、「本発明の隔壁は、針の保管及び使用中にイントロデューサ針を中心としてシールを提供し、その後、針が流体の漏れを防ぐために引き抜かれる場合にアセンブリを密封する。」、「遠位部は、装置のユーザから最も離れて、患者の最も近くに位置決めされて、1次シールとして働き、カテーテルからの血液の漏れを防ぐ。」、「隔壁の近接部は、キャビティからの材料の漏れを防ぐ2次シールとして働き、キャビティを密封し、引き出されているときに針を拭き取る。」(【0010】)、「組み立てられた場合、隔壁10はカテーテル・アダプタ24の近接端を密封して、カテーテル・アダプタ24の近接端からの流体の漏れを防ぐ。」(【0024】)、「本発明の隔壁10は、カテーテル・アダプタ24内に嵌合するようになっている一体型装置である。」、「アセンブリ20の使用中に、隔壁10は、患者内への挿入後にアセンブリ20からの流体の漏れを防ぐように働き、その後、針30が患者から引き出された場合に流体の漏れを防ぎ続けて、カテーテル22を定位置に残す。」(【0025】)との記載がある。
 上記記載から、引用文献1記載の隔壁は、針の保管及び使用中に針の周りにシールを提供し、患者内への挿入後にアセンブリ20からの流体の漏れを防ぐように働き、針が患者から引き出された場合に密閉されるように隔壁アセンブリ内に設けられてことを理解できる。
 また、引用文献1には、「スリット」に関し、・・・(略)・・・との記載がある。
 上記記載から、隔壁の遠位部に備えたスリットは、隔壁の遠位部を通るイントロデューサ針の位置決めをし、その挿入を簡単にするために設けられたものであることを理解できる。
 ・・・(略)・・・
 ウ 以上によれば、引用文献1記載の隔壁は、針の保管及び使用中に針の周りにシールを提供し、針が引き出された場合に密閉されるように隔壁アセンブリ内に設けられたものであって、隔壁の遠位部に備えたスリットは、そこを通るイントロデューサ針の挿入を簡単にするために設けられたものであるから、隔壁の遠位部は、流体の「該流入及び流出を可能とするように開口可能なスリットを有して」いると認めることはできない
 そうすると、引用文献1記載の「隔壁」の遠位部は、本願発明の「前記第2弁部材は、二方弁であり、流体が、前記カテーテルハブの前記内室を通って近位方向及び遠位方向の両方向に流れることが可能となるように開口可能であ」るとの構成(本件構成)に相当するものといえず、引用文献1記載のカテーテル及びイントロデューサ針アセンブリは、本件構成を有しない点で本願発明と相違するから、この点において、本件審決には、一致点の認定の誤り及び相違点の看過があるものと認められる。
 (2) これに対し被告は、①引用文献1には、カテーテル及びイントロデューサ針アセンブリについて、従来より、流体を患者に注入することができるとともに、患者の循環系からの流体の除去を可能にするものであることが述べられていること(【0002】)、②流体の患者への注入及び患者の循環系からの流体の除去は、カテーテルハブの中空部に配置された、「二方弁」として機能する「スリットを備えた隔壁」を介してされることが技術常識であること(例えば、甲3、乙6)からすれば、当業者は、引用文献1記載のカテーテル及びイントロデューサ針アセンブリの「隔壁」の遠位部は、本件構成に相当すると当然把握するから、本件審決における一致点の認定に誤りはない旨主張する。
 ・・・(略)・・・
 上記記載から、カテーテル組立体において、流体の患者への注入及び患者の循環系からの流体の除去は、カテーテルハブの中空部に配置された「二方弁」として機能する「スリットを備えた隔壁」を介してされ得る技術が、本願優先日当時、一般に知られていたことが認められる。
 一方で、上記記載から、カテーテルハブの中空部に配置された「スリットを備えた隔壁」が常に「二方弁」として機能するとまで認めることはできないから、上記技術が一般に知られていたことを踏まえても、前記(1)ウの認定を左右するものではなく、当業者は、引用文献1記載のカテーテル及びイントロデューサ針アセンブリの「隔壁」の遠位部は、本件構成に相当すると当然把握するものと認めることはできない
 ウ まとめ
 前記ア及びイによれば、本件審決における一致点の認定に誤りはないとの被告の前記主張は理由がない。
4 小括
 以上によれば、本件審決には、一致点の認定を誤り、相違点を看過し、ひいては、この相違点についての容易想到性の判断をすることなく、本願発明の進歩性を否定した判断の誤りがある。この誤りは、本件審決の結論に影響を及ぼすものであることが明らかである。
 したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告主張の取消事由は理由がある。』

[コメント]
 本願発明において、「前記第2弁部材は、二方弁であり、流体が、前記カテーテルハブの前記内室を通って近位方向及び遠位方向の両方向に流れることが可能となるように開口可能であ」るという機能的な表現となっている。この機能は、本願明細書によれば、第2弁部材に設けられたスリットによって実現される。
 そのため、特許庁は、引用文献1の「スリットを備えた隔壁」が、本願発明と同様に、流体の流入及び流出を可能とする「二方弁」としての機能を当然に有すると認定したようである。その結果、特許庁は、「前記第2弁部材は、二方弁であり、流体が、前記カテーテルハブの前記内室を通って近位方向及び遠位方向の両方向に流れることが可能となるように開口可能であ」るとの構成(以下「本件構成」)は、本願発明と引用発明の一致点であると認定した。
 一方、裁判所は、引用文献1の隔壁に設けられたスリットは、そこを通るイントロデューサ針の挿入を簡単にするために設けられたものであり、「スリットを備えた隔壁」は「二方弁」としての機能を有さないため、本件構成は相違点であると認定した。裁判所は、引用文献1の記載に基づいて丁寧に引用発明の認定を行ったといえる。
 機能的表現を用いたクレームは、上位概念化したクレームを容易に作成できる点で有用であるが、審査の場面では本件のように新規性及び進歩性が否定されたり、その他サポート要件が問題となったりする可能性が高く、また権利行使の場面では具体的な実施形態に限定解釈され得ることにも注意する必要がある。

以上
(担当弁理士:吉田 秀幸)