審決取消請求事件 » 令和元年(行ケ)第10117号「機械式駐車装置」事件

名称:「機械式駐車装置」事件
特許取消決定取消請求事件
知的財産高等裁判所:令和元年(行ケ)第10117号 判決日:令和2年12月3日
判決:決定取消
特許法120条の5第9項で準用する第126条第5項
キーワード:新規事項の追加
判決文:https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/882/089882_hanrei.pdf

[概要]
特段規定がされていない構成に関し、当該構成が新規事項の追加に当たるかどうかは、明細書や図面に示された実施例のみに基づいて限定的に解釈して検討すべきではなく、実際に存在する構成や、現実的な態様も含めて検討すべきと判断されて、訂正請求を認めなかった特許庁の判断を、誤りであるとした事例。

[事件の経緯]
原告は、特許第6093811号発明の特許権者である。本件特許に対して、特許異議の申立て(異議2017-700814号)がなされたため、原告は、本件特許の特許請求の範囲等について訂正請求をした。
特許庁が、原告の訂正請求に係る訂正の内容は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲を超えるものであるとして、一群の請求項1~9に係る訂正、一群の請求項10~15に係る訂正、一群の請求項16~21に係る訂正を認めず、特許第6093811号の請求項1ないし21に係る特許を取り消すとの取消決定をしたため、原告がその決定の取り消しを求める本件訴訟を提起した。
知財高裁は、原告の請求を容認し、決定を取り消した。

[本件発明]
【請求項1】
A 格納庫へ搬送される車両が載置され、前記車両の運転者が前記車両に乗降可能な乗降室が設けられる機械式駐車装置であって、
B 前記車両の運転席側の領域の安全を人が確認する安全確認実施位置の近辺及び前記運転席側に対して前記車両の反対側の領域の安全を人が確認する安全確認実施位置の近辺のそれぞれに配置され、人による安全確認の終了が入力される複数の入力手段と、
G 前記乗降室の外側に設けられた操作盤に配置され、前記車両の搬送の許可が入力される許可入力手段と、
C 人の前記乗降室への入退室を検知する入退室検知手段と、
D 前記入力手段に前記安全確認の終了が入力されている状態で、前記許可入力手段への操作が行われた後に、前記車両の搬送を実行する制御手段と、
を備え、
E 前記制御手段は、いずれかの前記入力手段に前記安全確認の終了が入力された後から、前記許可入力手段への操作が行われるまでの間に、前記入退室検知手段によって前記乗降室への人の入室が検知された場合、前記入力手段への前記安全確認の終了の入力を解除する
F 機械式駐車装置。

[取消事由]
1.新規事項の追加についての判断の誤り
2-6.刊行物1、3、4、6、8発明に基づく新規性・進歩性判断の誤り
※本件訂正を認めなかった本件決定の判断には誤りがあり、発明の要旨を訂正後各発明のとおりに認定した上で行うべきと判断のため、取消事由2-6については判断されていない。

[原告の主張]
(1) 本件訂正は本件明細書等に根拠を有すること
本件決定は、構成Bに係る本件訂正は、本件明細書等に記載のない新規事項に当たる旨判断した。
しかしながら、構成Bに係る訂正箇所は、安全確認終了入力手段の配置場所が「車両の運転席側の領域の安全を人が確認する安全確認実施位置の近辺及び前記運転席側に対して前記車両の反対側の領域の安全を人が確認する安全確認実施位置の近辺のそれぞれ」であることを限定するものであるところ、本件明細書の【0064】の「安全確認者である運転者が車両12の片側だけでなく、反対側の安全確認も行うこととなるので、より確実に乗降室20内の安全性が確保される。」との記載は、車両の片側(運転席側)の領域と、その反対側(助手席側)の領域において人による安全確認が行われることを明示するものである。そうすると、本件明細書の【0055】の「確認ボタン34が安全確認の実施位置の近辺に配置されるため、」との記載は、運転席側の安全確認実施位置の近辺とその反対側の安全確認実施位置の近辺とのそれぞれに安全確認終了入力手段が配置されることを意味する。
したがって、本件訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、新規事項に当たらない。
(2) 安全確認実施位置の所在場所を訂正要件充足性の問題としたことの誤り
本件決定は、安全確認実施位置が乗降室の内外いずれかを問題にしているが、「安全確認実施位置」は、その文言どおり、車両の右側又は左側の安全の確認をなし得る位置であって、それが乗降室の内外いずれかであるかは、本件訂正の前後いずれの請求項1においても特定していない。したがって、「安全確認実施位置」が乗降室の内外いずれであるかを議論する必要は、もともと存在しない。
(3) 安全確認実施位置が乗降室の内に限られるとの認定の誤り
本発明の第3実施形態に関する本件明細書の【0086】~【0090】【図7】には、安全確認実施位置が乗降室の外にある態様が明示されている。
また、本件明細書の【0055】には、安全確認は、安全確認者が安全確認終了入力手段(確認ボタン34)の位置へ移動する過程において、必然的に周囲を目視することによって行われることが記載されている。そうすると、安全確認実施位置は、目視により乗降室内の安全確認を行うのに適した位置であれば足りるのであるから、安全確認実施位置が乗降室内に存在することは必ずしも必要でない。
以上のとおり、本件明細書等の記載を総合して解釈すれば、安全確認実施位置は、カメラとモニタを介するか否かにかかわらず、乗降室外の位置を含むことが明らかである。
(4) 乗降室外では安全確認が困難であるとの認定の誤り
本件決定は、安全確認実施位置は乗降室の内部に限定される旨認定するに当たり、乗降室外からでは安全確認が困難であることを理由に挙げたが、誤りである。
本発明は「機械式駐車装置」の発明であるところ、JIS(甲18)にいう「機械式駐車装置」は外囲いを含まない概念であるし、機械式駐車装置には、乗降室の内外が壁で隔てられておらず、格子や柵といった、人の出入りは防止するが中が透けて見える構造を採用しているものも多い(甲15。本判決の別紙2)。また、乗降室が壁で囲まれている場合でも、操作盤を操作するまでは入出庫口の扉が開いているから、乗降室の内部の安全確認をその外部から目視で行うことが可能である。

[被告の主張]
(1) 原告の主張は、第1実施形態を説明している【0055】【0064】の記載された事項の一部(特に、作用効果の記載。)から、その構成の意味を拡大して都合良く解釈したものであり、特に「車両12の片側だけでなく、反対側の安全確認を行うこととなるので」との記載をもって、車両の両側の安全確認を実施できる位置に、第1実施形態に記載された以外の位置である乗降室外まで含めようとするのは、明らかに本件明細書等の記載を超えた拡大解釈であるから、原告の訂正の根拠の主張は失当である。
(2) 本件訂正により構成Bに加えられた「安全確認実施位置」に関する特定事項について、当該特定事項では「乗降室」の「内」・「外」を特定していないが、訂正請求書における原告の主張(上記「第3」1(2)第1段落参照。)により、本件明細書等の記載を超えた形態をも含むことを意図されたものであったと判明した。そして、当該特定事項が新規事項を追加するものであるかどうかを当該主張を踏まえて検討した結果、本件明細書等には、乗降室外に安全確認実施位置や安全終了確認入力手段を配置することは記載されていないと判断したものであって、その理由は本件決定に記載したとおりである。
(3) カメラとモニタを介さずに車両の左右を直接目視によって安全確認する第1、第2、第4実施形態について、「安全確認の実施位置」を「乗降室20外」とすることは記載も示唆もされていない。しかも、乗降室の外に所在する「操作盤」の近辺やその他の位置においては、車両の存在等により乗降室内を直接目視する際に死角が生じることは明らかであって、乗降室内において車両の左右両側を移動する場合のような、車両の運転席側及び助手席側の安全を十分に確認できる位置は見当たらない。第3実施形態は、直接目視によって安全確認を行う場合において安全確認実施位置が乗降室外となり得ることを開示しているとはいえない。
したがって、カメラとモニタを介さずに車両の左右を直接目視によって安全確認する場合においても安全確認実施位置の所在場所として乗降室外を含むことは、本件明細書等に記載のない新規事項である。
(4) 本発明は、「格納庫」へ車両が搬送される機械式駐車装置の発明であり(構成A)、図面(特に図1)の内容からみても、乗降室の内外は壁で隔てられ、乗降室の内をその外から視認できない構成であると理解される。してみると、甲15のように乗降室の内外が壁で隔てられていない機械式駐車場が一般的であったとしても、本発明は、そのような機械式駐車場を対象としていない。

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『1 取消事由1(新規事項の追加についての判断の誤り)について
・・・(略)・・・
ところで、訂正後請求項1の構成Bは、「前記車両の運転席側の領域の安全を人が確認する安全確認実施位置の近辺及び前記運転席側に対して前記車両の反対側の領域の安全を人が確認する安全確認実施位置の近辺のそれぞれに配置され、人による安全確認の終了が入力される複数の入力手段と、」と定めるのみであって、安全確認実施位置や安全確認終了入力手段の位置を乗降室の内とするか外とするかについては何ら定めていないから、乗降室外目視構成も含み得ることは明らかである。
そこで、本件明細書等の記載を検討してみると、たしかに、確認者が目視で安全確認を行う場合に関する実施例1、2、4においては、安全確認終了入力手段は乗降室内に設けるものとされ、確認者がカメラとモニタによって安全確認を行う実施例3においてのみ、安全確認終了入力手段を乗降室の内、外に複数設けてもよいと記載されている(【0090】)のであって、乗降室外目視構成を前提とした実施例の記載はない。しかしながら、これらはあくまでも実施例の記載であるから、一般的にいえば、発明の構成を実施例記載の構成に限定するものとはいえないし、本件明細書等全体を見ても、発明の構成を、実施例1~4記載の構成に限定する旨を定めたと解し得るような記載は存在しない。
他方、発明の目的・意義という観点から検討すると、安全確認実施位置や安全確認終了入力手段は、乗降室内の安全等を確認できる位置にあれば、安全確認をより確実に行うという発明の目的・意義は達成されるはずであり、その位置を乗降室の内又は外に限定すべき理由はない(被告は、このような解釈は、本件明細書【0055】【0064】を不当に拡大解釈するものであるという趣旨の主張をするが、この解釈は、本件明細書等全体を考慮することによって
導き得るものである。)。
この点につき、被告は、乗降室の外から目視で乗降室内の安全を確認することは極めて困難ないし不可能であると考えるのが技術常識であるから、本件明細書等において、乗降室外目視構成は想定されていないという趣旨の主張をする。しかしながら、乗降室に壁のない駐車装置や、壁が透明のパネル等によって構成されている駐車装置等であれば、乗降室の外からでも自由に安全確認ができるはずであるし(その1つの例が、別紙2の駐車装置である。なお、被告は、本発明は、「格納庫」へ車両が搬送される機械式駐車装置の発明であることや、本件明細書等の図1の記載から、乗降室の外から乗降室内を目視することはできないと主張するが、「格納庫」が外からの目視が不可能な壁によって構成されていなければならない理由はないし、上記図1は、実施例1の構成を示したものにすぎず、駐車装置の構成が図1の構成に限定されるものではない。)、仮に乗降室が外からの目視が不可能な壁によって構成されている場合でも、出入口付近の適切な位置に立てば(したがって、そのような位置やその近傍を安全確認実施位置として安全確認終了入力手段を配置すれば)、乗降室外からであっても、目視により乗降室内の安全確認が可能であることは、甲19の報告書が示すとおりであり、いずれにせよ被告の主張は失当である。また、仮に被告の主張が、訂正後請求項1は、安全確認実施位置や安全確認終了入力手段が、目視による安全確認が不可能な位置にある場合までも含むものであるという意味において、本件明細書等に記載のない事項を導入するものであるというものであるとしても、「安全確認実施位置」とは、安全確認の実施が可能な位置を指すのであって、およそ安全確認の実施が不可能な位置まで含むものではないと解されるから、やはり、その主張は失当である。
2 結論
本件訂正を認めなかった本件決定の判断には上記1のとおり誤りがあり、新規性・進歩性の判断も、発明の要旨を訂正後各発明のとおりに認定した上で行うべきであるから、その余の取消事由につき判断するまでもなく、本件決定を取り消すのが相当である。』

[コメント]
本件では、具体的に特定されていない「乗降口」や「安全確認実施位置」につき、明細書の記載や、訂正請求書の記載等から導き出すことができないとする被告の主張は支持されなかったが、原告の主張は、具体的な実施態様等を示しつつ説明してはいるものの、明細書において具体的な定義や実施例が明示されていない点を加味すれば、裁判所の判断が妥当であったとは一概には言えないようにも思える。
以上
(担当弁理士:植田 亨)