審決取消請求事件 » 平成31年(行ケ)第10038号「表示装置、コメント表示方法、及びプログラム」事件

名称:「表示装置、コメント表示方法、及びプログラム」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成31年(行ケ)第10038号 判決日:令和2年2月19日
判決:請求棄却
特許法29条2項
キーワード:進歩性、課題、動機付け、技術分野
判決文:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/266/089266_hanrei.pdf

[概要]
 主引用文献と副引用文献に記載された技術事項が、一見、文字を表示する点では共通するものの、各引用文献のシステム構成の技術分野および制御対象とする文字が異なっているから、技術が大きく異なり、さらに、各引用文献の課題が共通せず、動機づけがないため、進歩性がないとは認められないと判断された事例。

[事件の経緯]
 被告は、特許第4695583号の特許権者である。
 当該特許について、原告が、特許無効審判(無効2017-800123号事件)を請求したところ、特許庁が請求不成立の審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
 知財高裁は、原告の請求を棄却した。

[本件発明]
【請求項1】
(1A)複数の端末装置から送信されるコメント情報を受信して各端末装置へ配信するコメント配信サーバと、前記コメント配信サーバに接続され動画を再生するとともに、前記動画上にコメントを表示する表示装置とを有するコメント表示システムにおける表示装置であって、
(1B)コメントと、前記コメントが付与された時点における、前記動画の最初を基準として動画の経過時間を表す動画再生時間をコメント付与時間として前記コメントに対応づけてコメント情報として記憶するコメント情報記憶部と、
(1C)前記コメント配信サーバが前記端末装置からコメント情報を受信する毎に当該コメント配信サーバから送信されるコメント情報を受信し、前記コメント情報記憶部に記憶する受信部と、
(1D)前記再生される動画の動画再生時間に基づいて、前記コメント情報記憶部に記憶されたコメント情報のうち、前記動画の動画再生時間に対応するコメント付与時間が対応づけられたコメントを前記コメント情報記憶部から読み出し、読み出したコメントを動画上に表示するコメント表示部と、
(1E)前記コメント表示部によって表示されるコメントのうち、第1のコメントと第2のコメントとのうちいずれか一方または両方が移動表示されるコメントであり、前記第1のコメントを動画上に表示させる際の表示位置が、当該第1のコメントよりも先に前記動画上に表示される第2のコメントの表示位置と重なるか否かを判定する判定部と、
(1E)前記コメント表示部によって表示されるコメントのうち、第1のコメントと第2のコメントとのうちいずれか一方または両方が移動表示されるコメントであり、前記第1のコメントを動画上に表示させる際の表示位置が、当該第1のコメントよりも先に前記動画上に表示される第2のコメントの表示位置と重なるか否かを判定する判定部と、
(1F)前記判定部がコメントの表示位置が重なると判定した場合に、前記第1のコメントと前記第2のコメント同士が重ならない位置に表示させる表示位置制御部と、
(1G)を有することを特徴する表示装置。

[審決の理由]
 構成1E、1Fが相違点であり、甲1発明、甲2~4技術は技術分野が異なり、解決しようとする課題が異なり、動機づけがあったといえない。相違点は、引用文献から容易に想到し得たものとはいえない(以下省略)。

[原告の主張]
・甲1に、課題が内在している
 甲15及び16には、実際に多くの文字を横に流した結果、各文字が読みにくくなる課題が示されていた。そもそも、発言の数に関する限定はないから、同一の動画に多数の発言が書き込まれることが当然に予想されるため、発言が重なり視認性が低下することは、甲1発明に内在する課題となるが、これは、文字列情報を表示する技術においては周知の課題である。
・相違点は、甲2等技術であり、上記課題を解決する慣用技術

[被告の主張](略)

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
『以上のとおり、甲1発明において、ライブ配信者は、レイアウト(領域)ごとの人数の制限や、レイアウト(領域)ごとの閲覧者の指定による制限を行うことができ、ライブ閲覧者は、閲覧するレイアウト(領域)のみを選択して閲覧が可能であるから、同一の画面に無制限に多数の発言が書き込まれることが当然に予想されるとはいえない。
 甲1の図9のa、cにおいては、レイアウト(領域)6が、レイアウト(領域)2、3、4、5と、一部の領域が重なっているが、レイアウト(領域)とその属性は、ライブ配信者が指定するものであり、ライブ閲覧者は、レイアウト(領域)を選択して閲覧するから、図9に示されたレイアウト(領域)が重なっていることが、直ちに、甲1発明において、多数の発言が重なることが当然であることを示すものではない。
 甲1の段落【0016】は、ユーザが「ライブ画面の好きな所(領域)にメッセージなどの書き込みや動画、静止画などを挿入することができる。」との記載があるが、上記で述べたことからすると、上記段落【0016】の記載があるからといって、同一の画面に無制限に多数の発言が書き込まれることが当然に予想されるとはいえない。
 そして、甲1には、同一の画面上で多数の発言が重なって視認性が低下することについて記載されておらず、そのことを示唆する記載があるとも認められない
 さらに、REALTEXT又はアクション・スクリプトにより、データを移動表示できることが技術常識(甲13~16)であり、甲15及び16には、文字が重なり合う図が記載されており、その図の説明として、それぞれの透明度が連続的に変化する旨の記載があるとしても、それらのみでは、甲1発明において発言が重なり視認性が低下するとの課題が存在していることを認めるに足りる技術常識ということはできない。
 以上によると、甲1発明には、発言が重なり視認性が低下するという課題が存在すると認めることはできない。』
 『また、甲1発明と甲2及び3に記載された技術事項とは、文字を表示する点では共通するものの、表示される文字は、甲1発明では、ライブ閲覧者が入力するチャット文であるのに対し、甲2及び3に記載された技術事項は、メインのテレビ放送の映像に含まれる文字と文字放送の文字であるから、対象とする文字が異なる。
 したがって、甲1発明と甲2及び3に記載された技術とは、技術が大きく異なるといえるのであり、プログラミングに関するものであることや動画と文字情報を配信するものであるということ、文字と文字の重なり合いが生じないようにする技術であることだけでは、甲1発明に甲2及び3に記載された技術を適用する動機付けがあると認めることはできないから甲1発明に甲2及び3に記載された技術を適用して本件特許発明1を容易に発明することができたとはいえない。
 また、甲19及び25には、文字列情報の表示位置の制御については何ら開示されていないから、甲1発明に甲19及び25に記載された技術を適用して本件特許発明1を容易に発明することができたとはいえない。
 キ 原告は、甲1発明と甲2等技術は、視認性の低下という課題が共通すると主張するが、前記のとおり、甲1発明は視認性の低下という課題を有しないため、甲1発明と甲2等技術が課題において共通するとは認められない
 ク 以上によると、その余の点を判断するまでもなく、甲1発明に甲2等技術を適用して本件特許発明1を容易に発明をすることができたと認められないから、本件審決の判断に誤りはない。』

[コメント]
 特許を無効にする立場(審判請求、鑑定書の作成)に立つと、本願と主引用文献甲1との相違点(コメントの重なり判定及び重なり判定時には表示位置を変更する)のみに注目して、相違点を記載する副引用文献を組み合わせてしまう気持ちがある。その時に、相違点を上位概念化してしまうおそれがある(本件では、先に表示される第2コメントの表示位置と、表示させる第1コメントの位置が重なるか否かを、ただ単にコメントの重なり判定と上位概念化すること)。
 相違点を埋めるための引用文献を発見した場合には、相違点を上位概念化していないか否か、主引用文献と副引用文献の技術分野が共通するか否か、主引用文献に動機づけが存在するか否か、技術分野、課題、動機づけに関する深い検討について確認することを失念しないようにしたい。特に、本案件のように主引用文献に動機づけが発生し得ない構成が無いかを必ず確認すべきと、と改めて感じた判例である。

(担当弁理士:坪内 哲也)