IP case studies判例研究

令和元年(行ケ)第10116号「回転ドラム型磁気分離装置」事件

名称:「回転ドラム型磁気分離装置」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:令和元年(行ケ)第10116号 判決日:令和2年5月20日
判決:審決取消
特許法29条1項、29条2項
キーワード:相違点の判断、新規性、進歩性
判決文:https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/515/089515_hanrei.pdf
[概要]
引用文献の明細書の記載及び図面から本件発明の構成が必ずしも認められないとし、本件発明と引用発明との相違点が認められ、本件発明の新規性及び進歩性を否定した審決を取り消した事例。
[事件の経緯]
原告は、平成26年10月1日、発明の名称を「回転ドラム型磁気分離装置」とする発明について特許出願(特願2014-202824号)をし、平成29年10月27日付け及び平成30年3月5日付けで特許請求の範囲等を補正する手続補正をしたが、同年6月12日付けで拒絶査定を受け、同年9月19日、これに対する不服の審判を請求するとともに、同日付け手続補正書により、特許請求の範囲を補正し、特許庁は、これを不服2018-12494号として審理した。
特許庁は、令和元年7月22日、本件補正を却下の上、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を認容し、審決を取り消した。
[本件発明]
【請求項1(補正後)】
複数の磁石を配置した第1の回転ドラムを備え、使用済みクーラント液中の磁性体を分離する回転ドラム型磁気分離装置において、
複数の磁石を配置した第2の回転ドラムを、前記第1の回転ドラムよりも使用済みクーラント液が流入してくる手前側に備え、
前記使用済みクーラント液は、第2の回転ドラムから第1の回転ドラムに向かって流れ、
前記第2の回転ドラムが使用済みクーラント液中の磁性体を磁化することで、該磁性体を互いに吸着させて大きくするとともに、
前記第2の回転ドラムに付着した磁性体を掻き取るスクレパーと、
前記第1の回転ドラム下部の流路を形成する底部材とを備え、
前記スクレパーにより掻き取られた磁性体が大きくなった状態のまま、前記使用済みクーラント液の流れに沿って前記第1の回転ドラムへ誘導されることを特徴とする回転ドラム型磁気分離装置。
[取消事由]
1 本件補正発明の進歩性の判断の誤り
[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『3 取消事由1(独立特許要件違反の有無―本件補正発明の進歩性の有無)について
(1)本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点
・・・(略)・・・
b 相違点2(争いがない。)
本件補正発明は、「複数の磁石を配置した第2の回転ドラムを、前記第1の回転ドラムよりも使用済みクーラント液が流入してくる手前側に備え、使用済みクーラント液は、第2の回転ドラムから第1の回転ドラムに向かって流れ」ることにより、スクレパーにより掻き取られた磁性体が大きくなった状態のまま「使用済みクーラント液の流れに沿って前記第1の回転ドラムへ誘導される」ものであるが、引用発明は、マグネットドラム25からマグネットドラム27に向かって混濁液が流れているか否かが明らかでなく、また、カキ取り板39によって掻き取られた鉄粉が大きくなった状態のまま、混濁液の流れに沿ってマグネットドラム25からマグネットドラム27へ誘導されるものであるかが不明である点
c 相違点3’
本件補正発明では、第1の回転ドラムと底部材との間にクーラント液の流路を形成するのに対し、引用発明は、上記のような流路を形成しているか否かが不明な点
ウ これに対し、被告は、引用文献1においては、タンク17の底部が底部材に相当し、マグネットドラム27とタンク17の底部との間に混濁液の流路が形成されるとして、相違点3は存在しないと主張する。
(ア)しかし、・・・(略)・・・第2の回転ドラムから第1の回転ドラムに向かうクーラント液は、第1の回転ドラム下部に第1の回転ドラムと底部材との間に形成された流路を流れるものであって、スクレパーによって掻き取られた磁性体を第1の回転ドラムに誘導するものであると解される。・・・(略)・・・
したがって、本件補正発明の特許請求の範囲の「流路を形成する」とは、第2の回転ドラムから第1の回転ドラムに向かうクーラント液の流路を形成するものと解すべきである。
(イ)引用文献1には、マグネットドラム27(第1の回転ドラムに相当)とタンク17の底部との間にマグネットドラム25(第2の回転ドラムに相当)からマグネットドラム27に向かう混濁液の流れが生じていることは記載されていない(甲1)から、相違点3’は存在し、被告の上記主張は理由がない。
(2)相違点2、3’の判断について
・・・(略)・・・
イ 引用文献1におけるタンク17内の混濁液の流れについて
(ア)・・・(略)・・・排出口15からタンク17内に投入された混濁液の流れの具体的な方向や大きさについては、投入される混濁液や排出されるクリーンオイルの量や勢い、タンク17内の各部材の具体的な位置関係等によって変わるものと考えられるから、引用文献1の記載のみから、タンク17内の特定の範囲における特定の流れの方向や大きさを読み取ることは困難である。
(イ)・・・(略)・・・排出口15からタンク17内に投入された混濁液の流れが存し、その流れに含まれる鉄粉等の不純物は、仕切板19に沿って真下に沈降するものと認められるから、排出口15からタンク17内に投入された混濁液の流れの勢いは比較的緩やかなものであると考えられ、したがって、排出口15からタンク17内に投入された混濁液の流れがマグネットドラム27とカキ取り板39の間隙にまで流れ込み、カキ取り板39に沿って不純物をマグネットドラム27に誘導するかどうかは明らかではないというべきである。
また、・・・(略)・・・上記の不純物がマグネットドラム25からマグネットドラム27に移動するのは、カキ取り板39の表面に沿って送り出されることによるものであり、混濁液の流れに誘導されるものとは必ずしも認められない。
さらに、・・・(略)・・・マグネットドラム27の回転方向は、マグネットドラム25とマグネットドラム27との間の部分においては、マグネットドラム25とは逆方向の上側方向であると認められること、マグネットドラム25の右側部分においては、カキ取り板39の存在により、マグネットドラム25の回転が混濁液の流れに与える影響は小さいものと認められることからすると、マグネットドラム25とマグネットドラム27の間にあるカキ取り板39の右側(上側)の部分においては、マグネットドラム27の回転方向である下から上に向かった混濁液の流れが生じる可能性が高く、したがって、カキ取り板39に沿ってマグネットドラム27に不純物を誘導する混濁液の流れが生じているとは必ずしも認められない。
(ウ)その他、引用文献1には、マグネットドラム27とタンク17の底部の間に、マグネットドラム25からマグネットドラム27に向かう、スクレパーによって掻き取られた磁性体を誘導する混濁液の流れが生じていることを読み取ることができる記載があるとは認められないから、当業者が、引用文献1の記載から、引用発明について、上記の流れが生じていることを読み取ることはできず、また、上記の流れが生じる構成とすることを容易に想到するということもできないというべきである。
したがって、相違点2、3’は、いずれも実質的な相違点であり、かつ、当業者は、これらを容易に想到することができたとは認められない。
ウ 被告の主張について
(ア) 被告は、乙1文献について主張する。
・・・(略)・・・
乙1文献には、液(9)の流動する方向については記載されていない(乙1)。そして、乙1文献に記載された技術においては、液(9)を流動させる目的は、液(9)中に存在する磁性微粒子を満遍なく円環(3)に接近させるためであると認められ、この目的からすると、液(9)を掻き回すことで足り、液(9)を特定の方向に流動させる必要はないというべきである。
一方、前記イのとおり、引用発明において、タンク17内に混濁液の流れが生じるとしても、その具体的な方向、すなわち、マグネットドラム27とタンク17の底部の間に、マグネットドラム25からマグネットドラム27に向かう、スクレパーによって掻き取られた磁性体を誘導する流れが生じることを読み取ることはできないのであって、この点が、相違点2、3’の内容をなすものであるから、乙1文献に記載された上記技術を適用しても、相違点2、3’は依然として相違点として残るというべきである。
そして、上記のとおり、乙1文献に記載された技術は、液(9)を特定の方向に流動させる技術ではないから、乙1文献に記載された上記技術を前提としても、当業者が、引用発明について、混濁液を上記のとおりマグネットドラム25からマグネットドラム27に向かって流れるようにすることを容易に想到することはできないというべきである。
(イ)被告は、引用発明は、混濁液の流れによりマグネットドラムに接近して吸引されるような機会を与えることにより、混濁液内に浮遊する微細な鉄粉を、タンク内に複数個設置されたマグネットドラムの組合せによって除去しようとするものであると主張する。前記2(1)で認定した引用文献1の記載からすると、引用文献1に記載された装置は、混濁液内に浮遊する微細な鉄粉等の不純物をもマグネットドラムに吸着させて分離排出するものであることが認められるが、そうであるからといって、必ずしも、混濁液をマグネットドラム25からマグネットドラム27に向かって流れるようにする必要はない。
したがって、被告の上記主張は理由がない。
(3)以上のとおり、本件補正発明が新規性又は進歩性を欠如するということはできない。
したがって、原告の主張する取消事由は理由がある。
4 以上のとおりであるから、原告の請求は理由がある。』
[コメント]
裁判所は、本件発明の構成が引用文献に記載されているか否かについて示し、本件発明が独立特許要件(新規性及び進歩性)を有するか否か判断した。即ち、裁判所は、『引用文献1には、「前記使用済みクーラント液は、第2の回転ドラムから第1の回転ドラムに向かって流れ」ることが一切記載されていないだけでなく、そもそも本件補正発明の使用済みクーラント液に相当する「混濁液」の流れについて記載も示唆もされていない』という原告の主張を支持し、『引用文献1の記載のみから、タンク17内の特定の範囲における特定の流れの方向や大きさを読み取ることは困難である。』と示し、本件発明が独立特許要件(新規性及び進歩性)を有すると判断した。『混濁液に含まれる不純物の流れにおける引用文献の明細書の記載及び図面から、不純物の流れと同方向に混濁液の流れがある』とした被告の主張は、例えば、混濁液の流れに逆らって不純物が流れることも考えられることから、必ずしも認められないと考えられる。
引用発明が引用文献の図面から認定された場合、当該認定が必ずしも正しいとは限らないので、図面から本件発明の構成が認定できるか否か検討すべきである。
以上
(担当弁理士:冨士川 雄)

令和元年(行ケ)第10116号「回転ドラム型磁気分離装置」事件

PDFは
こちら

Contactお問合せ

メールでのお問合せ

お電話でのお問合せ