審決取消請求事件 » 平成30年(行ケ)第10032号「直接法による複合材料部品の製造のための一定の幅を有する新規の中間材」事件

名称:「直接法による複合材料部品の製造のための一定の幅を有する新規の中間材」事件
特許取消決定取消請求事件
知財高裁:平成30年(行ケ)第10032号 判決日:平成31年3月26日
判決:決定取消
特許法120条の5第9項、126条5項
キーワード:新規事項の追加
判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/549/088549_hanrei.pdf

[概要]
明細書に記載した事項の範囲内においてしたものではなく新規事項の追加に当たるとして訂正を認めず特許取消決定されたことに対して、当該訂正は、明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないものと認められるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものというべきとして、決定が取り消された事例。

[事件の経緯]
原告は、特許第5854504号の特許権者である。
当該特許について、特許異議の申立て(異議2016-7006889号)がされ、原告は、訂正請求を請求したところ、被告は、当該特許を取り消したため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を認容し、決定を取り消した。

[特許請求の範囲の記載]
【請求項1】
両端部を有すると共に、
両側に面を有し、端部間にてリボンの幅を確定する二つの端部を有する前記リボンを含む、熱硬化性マトリックスを含有する複合材料部品を直接法で製造するための材料である中間材を製造するための方法であって、前記リボンは、リボンの長さに平行な方向に伸長する強化ストランド又は長繊維を含み、その全長にわたり本質的に一定な所与の幅を有し、
a)拡幅バーを有する拡幅器、次いで複数のストランド又は長繊維に寸法取りをする開口部を規定する寸法取りコームの寸法取り器に、複数のストランド又は長繊維を通過させることによって、複数のストランド又は長繊維間に間隔が存在しないようにし、リボンの幅がその全長にわたり本質的に一定であるような端部を有するリボンを提供する工程;
b)リボンの各面に、加熱により軟化して粘着性を有し、加熱後に冷却されるときリボンの均一な密着を確実にする不織布又は布材料を、予備加熱後に1超から10の圧縮比で適用する工程であって、加熱及び圧縮された不織布又は布材料の幅はリボンの幅より広く、その結果、不織布又は布材料はリボンの端部を超えて外側に伸びて、リボンの両側にて各端部に沿って不織布又は布材料がはみ出している工程、
c)リボンの各端部に沿って位置する不織布又は布材料のはみ出し部分に沿って、リボンを封入するように不織布又は布材料を共に接着する工程、及び
d)工程c)と同時に、端部に沿って位置する不織布又は布材料のはみ出し部分を加熱された切断器で切断し、リボンの端部に切断を及ぼすことなく、はみ出し部分の一部分を除去することで、リボンの幅をその全長にわたり本質的に一定であるように維持する工程であって、不織布又は布材料の総重量(1m²あたり)が中間材の総重量(1m²あたり)の(6/132)×100%未満であり、はみ出し部分の切断済み端部が中間材の端部を構成する工程を含む、上記方法。

[取消事由]
取消事由1(訂正要件の判断の誤り)
・訂正事項2:請求項1の「複数のストランド又は長繊維間に間隔が存在しない」という事項(事項A)
・訂正事項3:請求項1の「布材料を…1超から10の圧縮比で適用する工程」という事項(事項B)
・訂正事項4:請求項1の「不織布又は布材料の総重量(1m²あたり)が中間材の総重量(1m²あたり)の(6/132)×100%未満であり」という事項(事項C)
※取消事由2~5は、省略。

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
『ア 訂正事項2に係る訂正について
(ア)・・・(略)・・・
本件決定は、本件特許明細書等には、本件訂正後の請求項1の「複数のストランド又は長繊維間に間隔が存在しない」という事項(事項A)についての直接的ないし明示的な記載がなく、この事項が具体的にどのような技術的事項を意図しているのかを明確に把握するために必要な記載も見当たらないため、本件特許明細書等の記載を総合しても、事項Aを導くことができるとはいえないから、訂正事項2に係る訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められず、新規事項の追加に当たり、訂正要件に適合しない旨判断した。
(イ)・・・(略)・・・
これらの記載事項によれば、本件明細書には、「本発明」の実施の形態として、1つのストランド(長繊維の集合体)又は複数のストランド(各々が長繊維の集合体)から成る「リボン」を作製するに当たり、1つ又は複数のストランドを、拡幅バーにより幅を拡幅し、次いで、拡幅したストランドを所与の幅の開口部を規定する寸法取り器(ローラーに切れ込む平底の溝を有する寸法取り器、寸法取りコーム、又は2個の歯を有する寸法取り器)上を通過させることによって、所望の幅を有する一方向層が得られること、これにより一方向層の層の幅は、材料中のいかなる間隔又は重なり部分をも最小にし、さらに回避することによって調整することができ、その結果、層の内側のストランド間に緩い空間が存在しないことの開示があることが認められる。
そして、複数のストランドの集合体(各々が長繊維の集合体)が、「接近して配置され、間隔又は重なり部分をも最小にし、さらに回避する」とは、「間隔が存在しない」ことと同義であると解されるから、「複数のストランド又は長繊維間に間隔が存在しない」ようにして、「複数のストランド又は長繊維」を所望の幅に作製しているものと理解することができる。
そうすると、訂正事項2に係る訂正は、本件明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないものと認められるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものというべきである。
したがって、これと異なる本件決定の判断は誤りである。』

『イ 訂正事項3に係る訂正について
(ア)・・・(略)・・・
本件決定は、本件訂正後の請求項1に導入された「予備加熱後に1超から10の圧縮比」で適用する工程は、本件明細書の記載(【0033】)にあるとおり、「不織布」に関してのみ達成することができる工程として認識されるものであり、本件訂正後の請求項1に記載された「不織布又は布材料」のうち「布材料」(特に熱可塑性材料でないもの)については、「予備加熱後に1超から10の圧縮比」という圧縮比で適用する工程を達成できるものとして本件特許明細書等に記載されていないことは明らかであり、また、不織布に関する圧縮比を布材料にも適用することが明らかであるとする技術常識もないから、本件特許明細書等の記載を総合しても、「布材料を…1超から10の圧縮比で適用する工程」という事項(事項B)を導くことができるとはいえないから、訂正事項3に係る訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められず、新規事項の追加に当たり、訂正要件に適合しない旨判断した。
(イ)・・・(略)・・・
これらの記載事項から、ポリマー接着剤と「一方向リボン」(一方向層)の間の接着は、ポリマー接着剤の高温で粘着性である性質を利用して加熱し、その後冷却することにより達成されるものであり、ポリマー接着剤としては、「布又は不織布、特に熱可塑性材料の場合」があること、「寸法取りされた一方向層」は、「例えばローラーで駆動するコンベヤーベルト上」で、「熱可塑性布又は不織布」と結合すること、冷却後にストランド又は長繊維とのこれらの接着を可能にするためには、「不織布」をリボンとの結合に先立って加熱段階にかけて、ポリマーを軟化及びさらに融解させること、熱圧着の段階で、加熱及び圧力条件を、「不織布」を構成する材料及び厚さに適合させることにより、結合の前後で、「不織布」に関して圧縮比を1から10に達成することができることの開示があることが認められる。
上記開示事項によれば、「不織布」に関して、「結合の前後で、圧縮比を1から10に達成することができる」のは、熱可塑性材料のポリマー接着剤である「不織布」における加熱段階にかけてのポリマーの軟化及び融解という性質に基づくものと理解できるから、ポリマー接着剤が「熱可塑性布」である場合においても、これと同様に、加熱段階にかけて、ポリマーを軟化及び融解させ、圧縮比を1から10に達成することができるものと理解できる。
そうすると、訂正事項3に係る訂正は、本件明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないものと認められるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものというべきである。
したがって、これと異なる本件決定の判断は誤りである。』

『ウ 訂正事項4に係る訂正について
(ア)・・・(略)・・・
本件決定は、本件特許明細書等の一般記載及び実施例の記載からは、「不織布又は布材料の総重量(1m²あたり)が中間材の総重量(1m²あたり)の(6/132)×100%未満であり」という数値範囲を把握することはできないから、本件特許明細書等の全ての記載を総合しても、「不織布又は布材料の総重量(1m²あたり)が中間材の総重量(1m²あたり)の(6/132)×100%未満であり」という事項(事項C)を導くことができるとはいえず、訂正事項4に係る訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められず、新規事項の追加に当たり、訂正要件に適合しない旨判断した。
(イ)・・・(略)・・・
上記記載から、「1本の炭素ストランド」で作製される「一方向シート」の両側に結合される「不織材料」の面密度の和は「3g/m²×2=6g/m²」となること、この面密度の和と「1本の炭素ストランド」(「AS7J 12K」)の面密度(「126g/m²」)とを加算すると、「132g/m²」となること、圧縮比1で(圧力を加えずに)「不織材料」を「1本の炭素ストランド」(「AS7J 12K」)に結合させて「リボン」(中間材)を作製した場合には、「不織布の総重量(1m²あたり)」の「中間材の総重量(1m²あたり)」に対する百分率は「(6/132)×100%」となることを理解できる。
そして、①炭素ストランドと結合される前に、加熱によりポリマーが軟化及び融解され、艶出し機により圧縮された不織材料は、面方向へと拡張され、不織材料の総重量(1m²あたり)は、圧縮比1の場合よりも減少し、「6g/m²」よりも小さくなることは自明であること、②一方、炭素ストランドは、不織材料と異なり、軟化及び融解される工程を経るものではなく、得られた「リボン」(中間材)の平均幅(「6.21mm」。表3の「AS7J 12K」)は、素材である炭素ストランドの平均幅(「6.21mm」。表2の「AS7J 12K」)と同じであって、一方向層と不織布との結合の前後を通じて、炭素ストランドの面密度に変動はないことから、図5に示すような機械を使用して得られた「平均幅 6.21mm 785テックス AS7J 12K」の「1本の炭素ストランド」で作製された「一方向シート」とその両側に「不織材料」を結合させた「リボン」(中間材)においては、「不織布の総重量(1m²あたり)」の「中間材の総重量(1m²あたり)」に対する百分率は「(6/132)×100%未満」になることを理解できる。
もっとも、切断機により、リボンの端部に沿って位置する不織材料の一部が切断されるが、これは、不織材料のはみ出し部分を切断するものであるから(【0035】)、これによって、「1本の炭素ストランド」で作製された「一方向シート」の両面に圧縮適用された不織材料の面密度(1m²あたり)が影響を受けるものではないことを理解できる。
また、【0062】の実施例は、炭素面密度が「126g/m²」の1本の炭素ストランドから中間材を作製する方法に関するものであるが、炭素面密度が「126g/m²」の複数の炭素ストランドから1本の中間材を作製する場合にも、複数の炭素ストランドの炭素面密度が「126g/m²」となることは自明であるから、図5に示すような機械を使用して、「炭素面密度(g/m²)」が「126g/m²」の「平均幅 6.21mm 785テックス AS7J 12K」の複数の「炭素ストランド」を素材として作製された「一方向シート」とその両側に「不織材料」を結合させた「リボン」(中間材)においては、「不織布の総重量(1m²あたり)」の「中間材の総重量(1m²あたり)」に対する百分率は「(6/132)×100%未満」になることを理解できる。
そうすると、訂正事項4に係る訂正は、本件明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないものと認められるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものというべきである。
したがって、これと異なる本件決定の判断は誤りである。』

[コメント]
特許庁は、直接的または明示的な記載を根拠として訂正事項が新規事項であるか否かを判断し、一方裁判所は、訂正事項が、明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるか否かを判断した。審査基準は新規事項の判断要素として自明か否かを挙げている。裁判所は、本件訂正事項が自明であるとまでは言及しておらず、新たな技術的事項は導入していないとした。
本件は、異議申立てに係る訂正請求であるが、これに限らず、拒絶理由に対する補正事項を検討するときに新規事項の判断の参考になると考える。
以上
(担当弁理士:丹野 寿典)