審決取消請求事件 » 平成29年(行ケ)10232号「ステーキの提供システム」事件

名称:「ステーキの提供システム」事件
特許取消決定取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成29年(行ケ)10232号  判決日:平成30年10月17日
判決:決定取消
特許法29条柱書
キーワード:発明該当性、自然法則の利用
判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/058/088058_hanrei.pdf

[概要]
ステーキの提供システムに関する発明について、発明該当性が争われ、課題を解決するための技術的手段を有するため、全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するとして、特許取消決定が取り消された事例。

[事件の経緯]
原告は、特許第5946491号の特許権者である。
本件特許の請求項1~6に係る発明について特許異議申立(異議2016-701090号)があったところ、特許庁は本件特許を取り消すとの決定をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を認容し、決定を取り消した。

[本願発明]
【請求項1】(下線は訂正部分)
A お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと、お客様からステーキの量を伺うステップと、伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップと、カットした肉を焼くステップと、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップとを含むステーキの提供方法を実施するステーキの提供システムであって、
B 上記お客様を案内したテーブル番号が記載された札と、
C 上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計量機と、
D 上記お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印しとを備え、
E 上記計量機が計量した肉の量と上記札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出力することと、
F 上記印しが上記計量機が出力した肉の量とテーブル番号が記載されたシールであることを特徴とする、
G ステーキの提供システム。

[特許取消決定]
本件特許発明1は、「札」、「計量機」、「印し」及び「シール」という物を、その構成とするが、これらの物は、それぞれの物が持っている本来の機能の一つの利用態様が示されているのみであって、これらの物を単に道具として用いることが特定されるにすぎないから、本件特許発明1の技術的意義は、「札」、「計量機」、「印し」及び「シール」という物自体に向けられたものということは相当でない。
本件特許発明1は、「ステーキの提供システム」という「システム」を、その構成とするものである。しかし、本件特許発明1における「ステーキの提供システム」は、本件特許発明1の技術的意義が、経済活動それ自体に向けられたものであることに鑑みれば、社会的な「仕組み」(社会システム)を特定しているものにすぎない。
そうすると本件特許発明1の技術的課題、その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等に基づいて検討した本件特許発明1の技術的意義に照らすと、本件特許発明1は、その本質が、経済活動それ自体に向けられたものであり、全体として「自然法則を利用した技術思想の創作」に該当しない。したがって、本件特許発明1は、特許法2条1項に規定する「発明」に該当しない。

[取消事由]
1 本件特許発明1の発明該当性判断の誤り(取消事由1~2)
2 本件特許発明2~6の発明該当性の判断の誤り(取消事由3)

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋、下線)
『本件特許発明1は、ステーキ店において注文を受けて配膳をするまでの人の手順(本件ステーキ提供方法)を要素として含むものの、これにとどまるものではなく、札、計量機及びシール(印し)という特定の物品又は機器(装置)からなる本件計量機等に係る構成を採用し、他のお客様の肉との混同が生じることを防止することにより、本件ステーキ提供方法を実施する際に不可避的に生じる要請を満たして、「お客様に好みの量のステーキを安価に提供する」という本件特許発明1の課題を解決するものであると理解することができる。』
『(2) 本件特許発明1の発明該当性
前記(1)のとおり、本件特許発明1の技術的課題、その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等の技術的意義に照らすと、本件特許発明1は、札、計量機及びシール(印し)という特定の物品又は機器(本件計量機等)を、他のお客様の肉との混同を防止して本件特許発明1の課題を解決するための技術的手段とするものであり、全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するということができる。
したがって、本件特許発明1は、特許法2条1項所定の「発明」に該当するということができる。』
『オ 被告らは、本件特許発明1において、「札」、「計量機」、「印し」又は「シール」は、それぞれ独立して存在している物であって、単一の物を構成するものではなく、また、本来の機能の一つの利用態様が特定されているにすぎないなどと主張する。
しかし、「札」、「計量機」及び「シール(印し)」は、単一の物を構成するものではないものの、前記(1)エのとおり、いずれも、他のお客様の肉との混同を防止するという効果との関係で技術的意義を有するものであって、物の本来の機能の一つの利用態様が特定されているにすぎないとか、人為的な取決めにおいてこれらの物を単に道具として用いることが特定されているにすぎないということはできない。』

[コメント]
特許庁の審査基準(第III部 第1章 発明該当性及び産業上の利用可能性)には「請求項に係る発明が以下の(i)から(v)までのいずれかに該当する場合は、その請求項に係る発明は、自然法則を利用したものとはいえず、「発明」に該当しない」と記載され、(v)の例として、「ビジネスを行う方法それ自体」を挙げている。また、「発明特定事項に自然法則を利用している部分があっても、請求項に係る発明が全体として自然法則を利用していないと判断される場合は、その請求項に係る発明は、自然法則を利用していないものとなる」との記載がある。
特許取消決定では、発明の本質が経済活動それ自体に向けられたものであり、請求項に係る発明が全体として自然法則を利用していないと判断されたが、その理由として、「札」、「計量機」、「印し」及び「シール」との構成は、それぞれの物が持っている本来の機能の一つの利用態様が示されているのみであって、これらの物を単に道具として用いることが特定されるにすぎないと指摘している。
これに対して、裁判所では、「計量機」、「印し」及び「シール」について、課題を解決するための技術的手段であり、全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当すると判断している。更に、「計量機」、「印し」及び「シール」について、物の本来の機能の一つの利用態様が特定されているにすぎないとか、人為的な取決めにおいてこれらの物を単に道具として用いることが特定されているにすぎないとはいえないと説示する。
特許庁は、訂正によっても、発明の本質は変わっておらず、当該発明の本質に基づき全体として自然法則を利用しているか否かを判断しているのに対して、裁判所は、発明の具体的な構成に基づいて、全体として自然法則を利用しているか否かを判断しており、これが判断の分かれ目であったのではないかと考える。
以上
(担当弁理士:梶崎 弘一)