審決取消請求事件 » 平成29年(行ケ)10146号「導光フィルム」事件

名称:「導光フィルム」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成29年(行ケ)10146号 判決日:平成30年5月22日
判決:請求棄却
特許法29条2項
キーワード:刊行物に記載された発明
判決文: http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/773/087773_hanrei.pdf

[概要]
特許法29条2項に係る「刊行物に記載された発明」というためには、刊行物記載の技術事項が、特許発明と対比するに足りる程度に十分に開示されていることは要するものの、特許法所定の特許適格性を有することまでは要しないとされて、当該刊行物を引用例(副引例)として採用して進歩性を否定した審決を維持した事例。

[事件の経緯]
原告が、特許出願(特願2013-504971号)に係る拒絶査定不服審判(不服2016-6672号)を請求したところ、特許庁(被告)が、請求不成立の拒絶審決をしたため、原告は、その取消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。

[本願発明]
構造化された第1主表面と、相対する第2主表面と、を含む導光フィルムであって、前記構造化された第1主表面が、複数の単位個別構造を含み、各単位個別構造が、
主に光を導くための導光部分であって、
複数の第1側面であって、各第1側面が、前記導光フィルムの平面に対して35度~55度の範囲の角度をなす、複数の第1側面と、
前記複数の第1側面で画定され、第1最小寸法を有する第1底面と、
第1最大高さと、を含む、導光部分と、
主に導光フィルムを表面に接着するための、前記複数の第1側面の上及び間に配置される接着部分であって、
複数の第2側面であって、各第2側面が、前記導光フィルムの平面に対して70度超の角度をなす、複数の第2側面と、
前記複数の第2側面によって画定され、前記第1最小寸法の10%未満の第2最小寸法を有する第2底面と、
第2最大高さであって、前記第2最大高さの前記第2最小寸法に対する比が少なくとも1.5である、第2最大高さと、を含む、接着部分と、を含む、導光フィルム。

[審決]
本願発明は、本願の優先日前の刊行物である引用例1(特開2008-122525号公報、甲1)に記載された発明(以下「引用発明」という。)、引用例2(国際公開第2008/047855号、甲2)に記載された技術(以下「引用例2記載技術」という。)及び周知技術に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項により特許を受けることができないから、本願は拒絶すべきであるというものである。

[審決が認定した引用例2記載技術]
(A)生産性の向上とともに、出射光制御板と導光体との密着性、密着力を向上させつつ、光学性能を維持した面光源素子を提供することを目的として、(B)出射光制御板が少なくとも一部の凸部の頂部に少なくとも一つ以上の突起状の固定部を有し、(C)その固定部を固定層の内部に入れることで、固定部と固定層との接着面積が増加し、高い密着性、密着力を得るという効果を奏する技術。

[主な争点]
引用例2記載技術の認定の誤り(取消事由1)

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
取消事由1(引用例2記載技術の認定の誤り)
『(3) 上記(2)の技術事項によれば、引用例2には、審決が認定したとおりの引用例2記載技術(前記第2の3(3))が記載されているものと認められる。
(4) 原告の主張について
ア これに対し、原告は、「凸部を導光体側に向けて導光体と接触させた下向きの構造」及び「凸部の頂部の固定部を導光体の出射面に密着させること」は、引用例2に記載された課題を解決するための必須の要件であり、これらの構成を含んでいない引用例2記載技術は、課題を解決することができるものではない、また、同技術は、本願発明の進歩性を否定するために都合の良い要素のみを引用例2から抽出し被告が独自に創作したものであるから、特許法29条2項でいう「前項各号に掲げる発明」に該当しない、などと主張する。
しかしながら、引用例2記載技術は、出射光制御板と導光体との密着性、密着力を向上させるものである((A))から、出射光制御板と導光体とが密着し、両者を固定する固定層が、出射光制御板と導光体との間に挟まれた構造になっていることは明らかである。
その上で、引用例2記載技術は、出射光制御板が少なくとも一部の凸部の頂部に少なくとも一つ以上の突起状の固定部を有し((B))、その固定部を固定層の内部に入れる((C))のであるから、同技術においては、出射光制御板の凸部の頂部の固定部は固定層を介して導光体の出射面に密着し、出射光制御板の凸部が導光体側に向く下向きの構造となることは、自明である。すなわち、引用例2記載技術は、実質的には、原告が主張するところの「凸部を導光体側に向けて導光体と接触させた下向きの構造」及び「凸部の頂部の固定部を導光体の出射面に密着させる」構成を備えているものといえる。
したがって、引用例2記載技術が、これらの構成を含んでいないとする原告の主張は、その前提において誤りがあるといわざるを得ない。
また、仮に引用例2記載技術に原告主張の各構成が含まれなかったとしても、そのことは、本願発明と引用発明との相違点に係る容易想到性を判断するに当たり考慮すれば足りることであるし(審決も20頁6行目において、引用例2記載技術の出射光制御板と引用発明の集光シートとの間には「機能上の相違」があると認定した上で、容易想到性の判断をしているものと認められる。)、そもそも、特許法29条2項に係る「刊行物に記載された発明」というためには、刊行物記載の技術事項が、特許発明と対比するに足りる程度に十分に開示されていることは要するものの、特許法所定の特許適格性を有することまでは要しないから、引用例2記載技術が引用例2に記載された課題を解決しているか否かは、引用例2記載技術が刊行物に記載された発明であることとは無関係である。
よって、原告の上記主張はいずれにしても採用できない。』

[コメント]
裁判所は、『引用例2記載技術が引用例2に記載された課題を解決しているか否かは、引用例2記載技術が刊行物に記載された発明であることとは無関係である』と判断した。
この判断の際に、裁判所は、『特許法29条2項に係る「刊行物に記載された発明」というためには、刊行物記載の技術事項が、特許発明と対比するに足りる程度に十分に開示されていることは要するものの、特許法所定の特許適格性を有することまでは要しない』という規範を示した。
このような規範は、「光学増幅装置」事件(平成23年(行ケ)第10201号)でも示されたことがある。この事件では、『「刊行物に記載された発明」というためには、刊行物記載の技術事項が、特許出願当時の技術水準を前提にして、当業者に認識、理解され、特許発明と対比するに十分な程度に開示されていることを要するが、「刊行物に記載された発明」が、特許法所定の特許適格性を有することまでを要するものではない。』と示された。

以上
(担当弁理士:森本 宜延)