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平成29年(行ケ)第10097号「ゲームシステム作動方法」事件

名称:「ゲームシステム作動方法」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成29年(行ケ)第10097号 判決日:平成30年3月29日
判決:請求棄却
特許法29条2項
キーワード:動機付け、阻害要因、除くクレーム
判決文:http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/647/087647_hanrei.pdf
[概要]
当業者は、公知発明1のディスクについて、前作において実際にプレイしたゲームのキャラクタ及びプレイ実績をセーブできない記憶媒体、すなわち、「記憶媒体(ただし、セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更しようとする動機付けはなく、かえって、このような記憶媒体を採用することには、公知発明の技術思想に照らし、阻害要因があるというべきであるとして、請求が成り立たない旨の審決が維持された事例。
[事件の経緯]
被告は、特許第3350773号の特許権者である。
原告が、当該特許の請求項1~3に係る発明についての特許を無効とする無効審判(無効2015-800110号)を請求し、被告が訂正を請求したところ、特許庁が、請求不成立(特許維持)の審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。
[本件発明]
【請求項1(訂正後)】
ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するとともに所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体(ただし、セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)を上記ゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法であって、
上記記憶媒体は、少なくとも、所定のゲームプログラムおよび/またはデータと、所定のキーとを包含する第1の記憶媒体と、所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含する第2の記憶媒体とが準備されており、
上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは、上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて、ゲームキャラクタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するためのゲームプログラムおよび/またはデータであり、
上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき、上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には、上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ、上記所定のキーを読み込んでいない場合には、上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させることを特徴とする、ゲームシステム作動方法。
[審決]
審決では、本件発明1は、公知発明1と同一であるとも、公知発明1、先行技術発明A及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないとして本件発明1の進歩性を肯定した。
[取消事由]
1.相違点1ないし3の判断の誤り
2.相違点4の認定及び判断の誤り
3.相違点5ないし7の判断の誤り
4.相違点8の認定及び判断の誤り
5.相違点9の判断の誤り
※以下、取消事由1についてのみ記載する。
[原告の主張]
1 取消事由1(相違点1ないし3の判断の誤り)
しかしながら、公知発明1は、魔洞戦紀DDⅠ(前作ゲーム)に記憶された切換キーがゲーム装置に読み込まれている場合に、勇士の紋章DDⅡ(新作ゲーム)で、標準ゲームプログラムに加えて、拡張ゲームプログラムでも、ゲーム装置を作動させるものであり、これによりゲーム内容を豊富化し、もってユーザに前作の購入を促すという技術思想を有するものであるから、公知発明1の技術思想は、本件発明1と同じものである。
そして、上記切換キーには、「魔洞戦紀DDⅠが装填された」という条件1に係る情報と「キャラクタのレベルが16以上である」という条件2に係る情報とが含まれているところ、公知発明1の技術思想である「ユーザに前作の購入を促す」ことは、切換キーのうち「魔洞戦紀DDⅠ」が装填されたという条件1に係る情報のみで達成できる。そのため、当業者であれば、公知発明1の目的を達成するために、「キャラクタのレベルが16以上である」という条件2に係る情報を切換キーから除くなどして、記憶媒体についてもセーブデータが記憶可能な記憶媒体としないことは、ユーザに前作の購入を促すという公知発明1の作用効果を失わせるものではないから、容易である。・・・(略)・・・
そうすると、拡張ゲームプログラムが楽しめるようになるため、前作ゲームソフトに記憶された切換キーとして、セーブデータ以外の情報を用いている技術が多数存在していることからしても、公知発明1の切換キーに「キャラクタのレベルが16以上である」という条件2に係る情報であるセーブデータを含ませるか否かは、当業者が適宜選択できる設計事項であるといえる。
[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
2 取消事由1(相違点1ないし3の判断の誤り)
(2) 相違点1ないし3の判断について
『前記1(1)の認定事実によれば、本件発明は、ユーザがシリーズ化された一連のゲームソフトを買い揃えるだけで、標準のゲーム内容に加え、拡張されたゲーム内容を楽しむことを可能とすることによって、シリーズ化された後作のゲームの購入を促すという技術思想を有するものと認められる。
これに対し、前記1(2)の認定事実によれば、公知発明は、前作と後作との間でストーリーに連続性を持たせた上、後作のゲームにおいても、前作のゲームのキャラクタでプレイをしたり、前作のゲームのプレイ実績により、後作のゲームのプレイを有利にすることによって、前作のゲームをプレイしたユーザに対し、続編である後作のゲームもプレイしたいという欲求を喚起することにより、後作のゲームの購入を促すという技術思想を有するものと認められる。
そうすると、公知発明は、少なくとも、前作において実際にプレイしたキャラクタをセーブするとともに、前作のゲームにおいてキャラクタのレベルが16以上となるまでプレイしたという実績(以下「プレイ実績」という。)をセーブすることが、その技術思想を実現するための必須条件となる。そのため、前作において実際にプレイしたキャラクタ及びプレイ実績に係る情報をセーブできない記憶媒体を採用した場合には、後作のゲームにおいても、前作のゲームのキャラクタでプレイをしたり、前作のゲームのプレイ実績により、後作のゲームのプレイを有利にすることができなくなる。このことは、前作のゲームをプレイしたユーザに対し、続編のゲームをプレイしたいという欲求を喚起することにより、後作のゲームの購入を促すという公知発明の技術思想に反することになる。
したがって、当業者は、公知発明1のディスクについて、前作において実際にプレイしたゲームのキャラクタ及びプレイ実績をセーブできない記憶媒体、すなわち、「記憶媒体(ただし、セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)」に変更しようとする動機付けはなく、かえって、このような記憶媒体を採用することには、公知発明の技術思想に照らし、阻害要因があるというべきである。』
(3) 原告の主張について
『・・・(略)・・・しかしながら、上記(2)のとおり、公知発明は、前作と後作との間でストーリーに連続性を持たせた上、後作のゲームにおいても、前作のゲームのキャラクタでプレイをしたり、前作のゲームのプレイ実績により、後作のゲームのプレイを有利にすることによって、前作のゲームをプレイしたユーザに対し、続編である後作のゲームもプレイしたいという欲求を喚起することにより、後作のゲームの購入を促すという技術思想を有するものと認められる。
そうすると、公知発明は、少なくとも、前作のキャラクタをセーブするとともに、キャラクタのプレイ実績をセーブすることが、その技術思想を実現するための必須条件となるから、キャラクタ及びプレイ実績に係る情報をセーブできない記憶媒体を採用した場合には、公知発明の技術思想に反することになる。
したがって、「キャラクタのレベルが16以上である」という条件2に係る情報を切換キーから除くなどして、記憶媒体についてセーブデータが記憶可能な記憶媒体としないことは、公知発明を都合よく分割してその必須条件を省略しようとするものであるから、上記のとおり、公知発明の技術思想に反することは明らかである。
以上によれば、原告の主張は、その余の点を含め、公知発明の技術思想を正解しないものに帰し、採用することができない。』
[コメント]
本件発明1における記憶媒体はセーブデータを記憶可能ではないもの(例えばCD-ROM)であるのに対し、公知発明1における記憶媒体はセーブデータを記憶可能であるディスクである。本事例では、公知発明1のディスクを、セーブデータを記憶できない記憶媒体に変更することが可能か争われた。
本件発明1の明細書には、記憶媒体として、CD-ROMの他、フロッピーディスク、ハードディスク、光磁気(MO)ディスクを使用してもよいことが記載されている(段落【0042】参照)。即ち、本件発明1において、記憶媒体は、セーブデータを記憶可能でないもの(CD-ROM)に限らず、セーブデータを記憶可能なもの(フロッピーディスク、ハードディスク、光磁気(MO)ディスク)であってもよいことが記載されている。しかし、本件発明1は、無効審判における審決の予告において、公知発明1に対し新規性がないと判断されたことから、公知発明1の構成である「セーブデータを記憶可能な記憶媒体」を記憶媒体から除いた所謂“除くクレーム”に訂正された。
このように、公知発明と同一の部分のみを除く“除くクレーム”に訂正することにより、進歩性が肯定された点は、参考になる。ただ、進歩性を認められるためには、本事例のように、除かれた部分が公知発明において必須な構成であることが条件になると思われる。
なお、本事例の被告が原告に請求した侵害訴訟(平成26年(ワ)第6163号、大阪地裁)では、本事例で挙げられた公知発明1及び先行技術発明Aのほか、先行技術発明C、先行技術発明D、及び周知技術Bをも先行技術として挙げられ、特許には無効の理由があるとして、侵害を認められなかった。
以上
(担当弁理士:小島 香奈子)

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