審決取消請求事件 » 平成29年(行ケ)第10096号「非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット」事件

名称:「非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成29年(行ケ)第10096号 判決日:平成30年5月15日
判決:審決取消
特許法29条2項
キーワード:進歩性、動機付け、阻害要因
判決文: http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/749/087749_hanrei.pdf

[概要]
甲1に接した当業者は、甲1発明において酸化物の含有量を増加させた場合、粒子の肥大化等が生じる傾向が強まるとしても、金属材料(強磁性材)及び酸化物(非磁性材)の粒径、性状、含有量などに応じてメカニカルアロイングにおける混合条件等を調整することによって、甲1発明と同程度の微細な分散状態を得られることが理解できるというべき、として、非磁性材の含有量を増やすことの阻害要因が否定された事例。

[事件の経緯]
被告は、特許第4975647号の特許権者である。
原告が、当該特許の請求項1~6に係る発明についての特許を無効とする無効審判(無効2014-800157号)を請求し、原告が訂正を請求したところ、特許庁が、被告の訂正請求を認めた上、請求不成立(特許維持)の審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を認容し、審決を取り消した。

[本件訂正発明1]
【請求項1】
Co若しくはFe又は双方を主成分とする材料の強磁性材の中に酸化物、窒化物、炭化物、珪化物から選択した1成分以上の材料からなる非磁性材の粒子が分散した材料からなる焼結体スパッタリングターゲットであって、前記非磁性材は6mol%以上含有され、前記材料の研磨面で観察される組織の非磁性材の全粒子は、非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径2μmの全ての仮想円よりも小さいか、又は該仮想円と、強磁性材と非磁性材の界面との間で、少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状及び寸法の粒子とからなり、研磨面で観察される非磁性材の粒子が存在しない領域の最大径が40μm以下であり、直径10μm以上40μm以下の非磁性材の粒子が存在しない領域の個数が1000個/mm2以下であることを特徴とする焼結体からなる非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。

[主な取消事由]
相違点の容易想到性に関する判断の誤り(取消事由3の2)

[本件訂正発明1と甲1発明との相違点]
本件訂正発明1においては、非磁性材の含有量が「6mol%以上」であるのに対し、甲1発明においては、SiO2粒子(非磁性材)の含有量が「3重量%」である点。

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
(2)相違点の容易想到性について
『・・・(略)・・・
イ 動機付けの有無について
(ア)・・・(略)・・・、本件特許の優先日当時、垂直磁気記録媒体において、非磁性材であるSiO2を11mol%あるいは15~40vol%含有する磁性膜は、粒子の孤立化が促進され、磁気特性やノイズ特性に優れていることが知られており、非磁性材を6mol%以上含有するスパッタリングターゲットは技術常識であった。
そして、本件特許の優先日前に公開されていた甲4(特開2004-339586号公報)において、従来技術として甲2が引用され、甲2に開示されている従来のターゲットは「十分にシリカ相がCo基焼結合金相中に十分に分散されないために、低透磁率にならず、そのために異常放電したり、スパッタ初期に安定した放電が得られない、という問題点があった」(段落【0004】)と記載されていることからも、優れたスパッタリングターゲットを得るために、材料やその含有割合、混合条件、焼結条件等に関し、日々検討が加えられている状況にあったと認められる。
そうすると、甲1発明に係るスパッタリングターゲットにおいても、酸化物の含有量を増加させる動機付けがあったというべきである・・・(略)・・・。
(イ)次に、具体的な含有量の点についてみると、被告も、非磁性材の含有量を「6mol%以上」と特定することで何らかの作用効果を狙ったものではないと主張している上、証拠に照らしても、6mol%という境界値に技術的意義があることは何らうかがわれない。
さらに、本件明細書の段落【0016】及び【0017】に記載されているスパッタリングターゲットの作製方法は、本件特許の優先日当時、一般的に使用・利用可能であった通常の強磁性材及び非磁性材を用い、様々な原料粉の形状、粉砕・混合方法、混合時間、焼結方法、焼結温度を選択することにより、本件訂正発明に係る形状及び寸法を備えるようにできるというものであるから、甲1発明に基づいて非磁性材である酸化物の含有量が6mol%以上であるターゲットを製造することに技術的困難性が伴うものであったともいえない。
そうすると、磁気特性やノイズ特性に優れたスパッタリングターゲットの作製を目的として、甲1発明に基づいて、その酸化物の含有量を6mol%以上に増加させる動機付けがあったと認めるのが相当である。
ウ 阻害要因の有無について
(ア)審決は、ターゲットの組成を変化させるとターゲット中のセラミック相の分散状態も変化することが推測され、例えば、当該セラミック相を増加させようとすれば、均一に分散させることが相対的に困難になり、ターゲット中のセラミック相粒子の大きさは大きくなる等、分散の均一性は低下する方向に変化すると考えるのが自然であって、実施例1の「3重量%」(3.2mol%)から本件訂正発明1の「6mol%以上」という2倍近い値まで増加させた場合に、ターゲットの断面組織写真が甲1の図1と同様のものになるとはいえず、本件訂正発明1における非磁性材の粒子の分散の形態を変わらず満たすものとなるか不明であると判断した。
被告も、甲1発明において酸化物含有量を「3重量%」(3.2mol%)から「6mol%以上」に増加させた場合に、組織が維持されると当業者は認識しない、すなわち、組織が維持されるかどうか不明であることは、甲1発明において酸化物含有量を増やすことの阻害要因になると主張する。
(イ)この点について、上記2(2)オにおいて認定したとおり、甲1には、実施例4(酸化物の含有量は1.46mol%)について、「このターゲットの組織は、図1に示した酸化物(SiO2)が分散した微細混合相とほぼ同様であった。」(段落【0022】)、実施例5(同1.85mol%)及び同6(同3.19mol%)についても「このターゲットの組織は、図1に示した組織とほぼ同様であった。」(段落【0024】及び【0026】)との各記載があるように、非磁性材である酸化物の含有量が1.46mol%(実施例4)から3.19mol%(実施例6)まで2倍以上変化しても、ターゲットの断面組織写真が甲1の図1と同様のものになることが示されている。
さらに、上記3(2)において認定したとおり、メカニカルアロイングにおける混合条件の調整、例えば、十分な混合時間の確保等によってナノスケールの微細な分散状態が得られることも、本件特許の優先日当時の技術常識であった。
そうすると、甲1に接した当業者は、甲1発明において酸化物の含有量を増加させた場合、凝集等によって図1に示されている以上に粒子の肥大化等が生じる傾向が強まるとしても、金属材料(強磁性材)及び酸化物(非磁性材)の粒径、性状、含有量などに応じてメカニカルアロイングにおける混合条件等を調整することによって、甲1発明と同程度の微細な分散状態を得られることが理解できるというべきである。
また、上記イのとおり、甲1発明に基づいて非磁性材である酸化物の含有量が6mol%以上であるターゲットを製造することが、何かしらの技術的困難性を伴うものであると認めることはできない。
したがって、甲1発明において酸化物の含有量を「3重量%」(3.2mol%)から「6mol%以上」に増加した場合に、分散状態が変化する可能性があるとか、上記本件組織が維持されるかどうかが不明であることが、直ちに非磁性材の含有量を増やすことの阻害要因になるとはいえない。』

[コメント]
本件特許(特許第4975647号)に基づく侵害訴訟(原審:平成25年(ワ)第3360号(東京地裁)、控訴審:平成27年(ネ)第10125号(知財高裁))では、請求項1(訂正前請求項1)について、特開平10-88333号公報に基づき、新規性ナシとされている。
本件特許の無効審判では、上記侵害訴訟と同一の文献(甲2:特開平10-88333号公報)が引例とされ、訂正請求により、請求項1に、「前記非磁性材は6mol%以上含有され」が追加され、この点が上記引例との相違点となり、進歩性が認められた。
本件訴訟では、上記相違点につき、動機付けがあり、当該構成を採用することに阻害要因もない、とされた。
動機付けに関して、裁判所は、甲4(特開2004-339586号公報)において従来技術として甲2(甲1と同一内容)が引用され、甲4において指摘されている甲2の問題点から、相違点に係る動機付けを認定している。この点は、動機付けを主張する際に参考になる。つまり、動機付けを主張したい場合、主引例を先行技術に挙げた文献(ただし、本件特許の優先日前に公開されたもの)を探し、主引例発明の問題点として提起された内容が、動機付けの論理構成に使えるか検討してみる価値はあると考える。
以上
(担当弁理士:奥田 茂樹)