審決取消請求事件 » 平成29年(行ケ)第10161号「選挙等用チラシ」事件

名称:「選挙等用チラシ」事件
審決取消請求事件
知的財産高等裁判所:平成29年(行ケ)第10161号 判決日:平成30年4月11日
判決:請求棄却
特許法29条2項
キーワード:進歩性
判決文:http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/657/087657_hanrei.pdf

[概要]
判決では審決で認定された相違点の他に新たな相違点が認定されたが、新たな相違点についても、当業者に自明であると判断された事例。

[事件の経緯]
原告が、発明の名称を「選挙等用チラシ」とする出願をし(特願2013−110475号)、拒絶査定を受けたので、拒絶査定不服審判を請求したところ、特許庁が、請求不成立(拒絶審決)の審決をしたため、原告は、その取り消しを求めた。
知財高裁は、原告の請求を棄却した。

[本件発明]
【請求項1】
公職選挙法に則り外形がA4サイズをはみ出さないように、A4の紙の隣り合った直線の2辺の対向する辺の顔の一部を輪郭に沿って切り込んで写真などを凹凸状にすることにより立体的に見せ、且つ通行人でも移動中に取り易い厚みや質とした選挙等用チラシ。

[審決での本件発明と先願明細書との相違点]
(相違点1)
本願発明は、「公職選挙法に則り外形がA4サイズをはみ出さないように」と特定しているのに対して、引用発明は、そのようなものなのか明らかではない点。
(相違点2)
本願発明の、「A4の紙の隣り合った直線の2辺の対向する辺の顔の一部を輪郭に沿って切り込んで写真などを凹凸状にすることにより立体的に見せ」ることに対して、引用発明は、立体的に見せるものなのか不明であり、前記「三角部5の2辺」が「A4の」ものなのか、同「切り込」むことが、引用発明に備わっているのか不明である点。
(相違点3)
本願発明は、「通行人でも移動中に取り易い厚みや質」としているのに対して、引用発明は、そのようなものなのか不明である点。

[取消事由]
取消事由(本願発明の容易想到判断の誤り)

[裁判所の判断](筆者にて適宜抜粋)
取消事由(本願発明の容易想到判断の誤り)について
『ウ 本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定について
(ア)・・・(略)・・・引用例には、頭部の一部の輪郭に沿って、写真などを凹凸状にしている箇所が、紙の隣り合った直線の2辺の「対向する辺」であることの記載はない。
したがって、本願発明と引用発明とは、「紙の隣り合った直線の2辺を有し、それに対向する部分の頭部の一部の輪郭に沿って、写真などを凹凸状にする選挙等用チラシ」であるとの点で一致し、本件審決が認定したとおりの相違点1ないし3(前記第2の3(2)ウ)において相違するほか、以下の点において相違する。
本願発明では、A4の紙の隣り合った直線の2辺の対向する辺の頭部の一部の輪郭に沿って、写真などを凹凸状にしているのに対し、引用発明では、頭部の一部の輪郭に沿って、写真などを凹凸状にしている箇所が、A4の紙の隣り合った直線の2辺の対向する辺かどうか不明であること(相違点4)。
(イ) 被告は、引用例の三角部5は、A4サイズの四角形状のボール紙1を切り抜き成形したものの下部であり、隣り合う2辺を利用して形成したものであるから、対向する辺を観念することができ、この点も一致点になる旨主張する。
しかし、引用例には、A4サイズの四角形状のボール紙1を切り抜き成形し、その隣り合う2辺を利用して三角部5を形成したとの記載はないから、頭部の一部の輪郭に沿って、写真などを凹凸状にしている箇所が、紙の隣り合った直線の2辺の「対向する辺」であることが開示されているとはいえない。よって、被告の主張は採用できない。

(2) 容易想到性について
ア 相違点1、4について
(ア) 引用発明は、・・・(略)・・・公職選挙法142条に規定されるビラとしての用途を含むものであると認められる。
そして、引用例には、各種表示形態は規定に基づき制約を受けるものである(【0003】)との記載があるから、その大きさ及び形状については、公職選挙法のビラについての規定の制約の下で形成されるものと認められる。
公職選挙法142条8項は、「第1項第1号から第3号まで及び第5号から第7号までのビラは長さ29.7センチメートル、幅21センチメートルを...超えてはならない」と規定するところ、引用発明の選挙用広告板は、同法142条1項1号から3号まで及び5号から7号までのビラに該当する場合は、A4サイズ゙(長さ29.7cm、幅21cm)をはみ出さないように形成されるから、相違点1に係る構成は、容易に想到することができる。
A4の形状は四角形状であることは自明であるところ、A4のサイズの紙から引用発明の広告板を形成する際に、A4の紙の四角形状の直線2辺をそのまま利用して、引用発明の三角部5の隣り合った直線2辺を形成すれば、直線2辺を裁断するという工程を設ける必要がなくなることは技術常識であるから、当業者であれば、かかる技術常識を採用して、引用発明の選挙用広告板を作成することを考える。
そうすると、A4のサイズの紙において、三角部5の隣り合った直線2辺に対向する隣り合った直線2辺を観念することができるから、この部分で、「髪型24に合せてボール紙1の外形を決め」(【0026】)、その型に沿った形を形成すると、紙の隣り合った直線の2辺の対向する辺の頭部の一部の輪郭に沿って、写真などを凹凸状にすることができ、相違点4に係る構成を容易に想到することができる。
(イ) 原告は、選挙用チラシは原反から印刷切断するところ、紙の原反はA4サイズではないと主張する。
しかし、前記の技術常識に照らすと、A4サイズの規定内で選挙用広告板を作成する場合に、A4サイズの紙をもとに作成することには合理性があるから、引用発明において、A4サイズの紙をもとに選挙用広告板を作成することがないということはできない。
よって、原告の主張は採用できない。

イ 相違点2について
引用例の図3では、候補者等の写真は、髪型が長髪である人間を正面から撮影したものとなっているから、その輪郭は、顔面ではなく頭髪が形成し、当該頭髪の輪郭に沿った切り込みが形成されて、凹凸状にされている。しかし、候補者の髪型が短髪の場合や、撮影時の候補者の角度によっては、頭髪を含まない顔面自体がその輪郭を形成するようになることもあり得るところであり、その場合は、髪型ではなく、顔の輪郭に沿って切り込んで写真などを凹凸状にすることは容易に想到できる。そうすると、顔を「立体的に見せ」ることができ、顔が立体的に見えるという効果を奏することになるから、かかる効果は、引用発明から当業者が予測し得る範囲内のものである。
原告は、引用発明は顔の輪郭に切り込みを入れるものではないから、顔が立体的に見えるという効果を奏するものではないと主張するが、上記のとおり採用できない。

ウ 相違点3について
引用発明は、「弾力のあるボール紙1」により形成され、「折り曲がらない程度の厚さ(強度)」を有するから、これを通行人に手渡したときに垂れ下がることはなく、通行人でも移動中に取り易い厚みや質を備えているといえる。したがって、相違点3は、実質的な相違点とはいえない。』

[コメント]
本判決では、審決で認定された相違点1~3に加えて、相違点4が認定された。相違点4は、引用例において、凹凸状部分が、A4の紙の隣り合った直線の2辺の対向する辺であるか不明であることである。審決においては、凹凸状部分が、隣り合った直線2辺に対向しているとして、”A4の”という点に言及せず、厳密には認定されていなかったと思われる。相違点について丁寧に検討されている印象があり、妥当な判決と考える。

以上
(担当弁理士:坪内 哲也)